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響きの科学 名曲の秘密から絶対音感まで(ジョン・パウエル)



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内容に入ろうと思います。
本書は、「音楽」というものを科学的に捉え、しかも数式やグラフや楽譜などを基本的に使わずに説明する、という作品です。音楽を「科学する」というのが、恐らくイマイチ想像出来ないんじゃないかと思いますけど、例えば冒頭に、本書はこんな疑問を解き明かします、と出てきたものを書いてみます。

『音楽の音と雑音のちがいは何なのか』
『なぜバイオリン十台の音の大きさが、一台の音の二倍しかないのか』

この疑問は、なるほど、と感じさせられました。確かに、「音楽」と「雑音」の差って、説明しろと言われてもなかなか出来ません。また、面白いと思ったのは後半の疑問で、確かにそうかもな、と。僕はバイオリン十台の音なんて聞いたことないですけど、でもオーケストラとかでバイオリンがたくさん並んでいるのを見ることはあります。想像してみる時、バイオリンが十台あった時、それがバイオリン一台の時の10倍の音だとしたら、想像を絶する大きさでしょう。でも、たぶんそんなことにはならない。オーケストラの人たちが力強くバイオリンを弾いているように見えても、10倍の音にはならないだろうな、と思います。それは何でだろう?そういう、「音楽」というものを取り巻く色んな理論や状況や不思議を、科学の視点から解説していく、という作品です。

また本書は、音楽の歴史的な話もちょくちょく出てきます。個人的に意外だったのは、ピアノの歴史です。

『ピアノは1709年にバルトロメオ・クリストフォリという流麗な名前をもつイタリア人楽器製作家によって発明され、その後100年以上もかけて改良が続けられた。』

何が意外だったかというと、ピアノってもっと歴史が古いものだと思っていたんです。それこそ500年とか1000年くらいの歴史があるんだと思ってました。まだ300年ぐらいの歴史しかないんですね。それがホントに意外でした。

また、楽譜に書かれている音が時代によって違う、という話も面白かったです。その事実は、別の本でも読んだような記憶があるんですけど、より具体的に書かれていて面白かったです。

『こうした歴史上の事情があるために、世の音楽学者たちは頭を悩ましている。学者の典型的な見解に、モーツァルトの音楽は、書かれたとおりに演奏すべきだというものがある。もうひとつ、モーツァルトの音楽は、楽譜に書いたときに彼の頭のなかで聞こえていたとおりに演奏しなければならないという、これもまたもっともな見解もある』

これは一体どういうことか。かつては国ごとに、あるいは町ごとに、楽器の音は異なっていた。同じ「ド」でも、違う音だったのだ。ここまではなんとなく僕も知っていた。

じゃあ、いつ音は統一されたのか。これが結構意外だった。

『専門的な議論(口論とたいして変わらない)が何度ももたれた後、1939年のロンドンでの会合で、今日使われている音が決定された。それで現在、世界中で、フルートをはじめ、バイオリンやクラリネット、ギター、ピアノ、木琴などの西洋楽器には、標準的な音の集まりがあるのだ』

これもびっくりでした。むしろ、1939年まで音が統一されていなかった、ということに驚きました。1939年以前の音については、色んなところで当時音楽家が使っていたメトロノームが見つかっているために、今の音とは違うということがわかっているそうです。であれば、モーツァルトが「聞いていた」通りに演奏するべきだろうと思うんだけど、そうなると楽譜を書き換えないといけなくて大変なんでしょうね。

歴史の話で言えばもう一つ面白いと思った話があります。
現在音楽には「長調」と「短調」という音階方式がありますが、紀元前から続く音楽の歴史の中では、様々な音階方式が生まれては消えていったそうです。そこからどんな風にして「長調」と「短調」の二つに収斂していったのか。

『西ローマ帝国皇帝のカール大帝は、教会旋法を広く普及させようとして、これらを使わないと死罪に処すと聖職者たちを脅かした。そうして教会旋法はあまねく行き渡った。
教会旋法は数百年にわたり広く用いられたが、そのなかでも流行り廃りはあった。最終的に、十八世紀に入るころには、もとの七つの旋法のうち二つしか使われなくなっており、この二つが長調と短調として広まっていった』

やっぱりキリスト教の教会ってのはホントに色んなところに出てくるな、と思わされました。しかし、教会旋法を使わなかったら死罪って、メチャクチャだよなぁ。教会、怖っ。

科学の話で言えば、こちらも興味深い話はいくつかあります。ただ、一部を抜き出して説明するのがなかなか難しいですね。

たとえば、ギターの弦をはじく場合。ギターを弾いた経験のある人はもちろんわかっているでしょうけど、弦の中央をはじいた場合と弦の端の方をはじいた場合では音が違う。実は、どちらの場合でも、音の基本周波数は同じなのだ。しかしそれでも、音は変わる。その理由を非常にわかりやすく説明してくれている。

また、実際にはスピーカーから出ていない音を人間の耳に聞こえさせる方法も非常に面白い。例えば、90Hz以下の周波数にはあまり強くないスピーカーがあるとする。このスピーカーから55Hzの周波数の音を出したい。普通に考えればはっきりした音は出ないのだけど、方法がある。実は、55Hzの倍音の周波数、つまり110Hz・165Hz・220Hz・275Hzをスピーカーに送り込めば、55Hzがはっきりと聞こえてくる。実際にスピーカーには55Hzの周波数の音は送り込まれていないのに、である。

また、現在の西洋の音階方式の基本である「等分平均律」の話もなかなか面白い。
我々が使っている音階というのは、基本的にこういう発想で作られている。
「オクターブを12段階に分割し、その内の7つの音を使う」
僕は正直うまくイメージ出来ていないのだけど、1オクターブをまず12個の音に分割するらしい(何故12なのかは不明。書いてあったのかもしれないけど)。で、その12個の音の中から7個を選んで、それに「ドレミファソラシ」と名前をつければ、僕らが使っている音階になる、というわけだ。

1オクターブというのは、例えば弦の話で言えば、弦の長さが半分になることを意味する。つまり、1mの長さの弦をはじいた時に「ド」の音が出るとすれば、そのちょうど半分である50cmの弦をはじけば1オクターブ上の「ド」の音が出る、ということだ。つまり、1m-50cm=50cmの長さを12に分割することが求められている。その12の音それぞれが他の音と何らかの関係性を持つようにすると、音同士がうまく調和するのだという。

その理想的な形は「純正律」と呼ばれる。しかし純正律は、実は使いにくいのだという。バイオリンやチェロなど「音が固定されていない楽器」のみであれば純正律でもハーモニーを生み出せるらしいのだけど、ピアノやフルートなど「音が固定された楽器」と合わせようとすると、純正律だと不調和な音が生まれてしまうのだという。

そこで妥協の産物として等分平均律が生まれた。これは、先の例で言えば、弦の長さ50cmをそれぞれの音が同じ間隔で配置されるように12に分割するものだ。一見すると簡単そうだが、これがなかなか難しかったのだという。このやり方にたどり着いたのは、ガリレオ・ガリレイの父であるヴィンチェンツォ・ガリレイ(1581年発見)と、中国の学者である朱載◯(◯は土偏に育)(1580年発見)の二人だが、どちらも音楽界からは無視され、1800年代に入るまで普及しなかったという。可哀想やねぇ。

科学の話とはちょっと違うけど、音の大きさを測る「デシベル」の話も面白かった。デシベルという単位について全然詳しくなかったのだけど、これは「絶対的な音の大きさ」を測るものではなくて「相対的な音の大きさ」を測るものだそうです。知らなかった。

デシベルという単位は、例えば「二つの音の差が10デシベルなら、大きい方の音は小さい方の音の2倍大きい」ということらしい。だから、20デシベルは10デシベルの2倍の大きさだし、93デシベルは83デシベルの2倍の大きさだそうだ。変な単位だ。その不便さを解消するために、人間にどう聞こえるかという主観的な音の大きさを基準とする「ホン」という単位があるそうだが、デシベルがあまりにも広く使われているために「ホン」が普及しないのだという。本書の説明を読むと、「ホン」という単位の方がメチャクチャ使いやすいんだけどなぁ。

あと、著者が断言してて面白いと思ったのが、「調は特定の気分を持つ」という音楽家の意見は思い込みだ、というものだ。例えば「イ長調」は「明るく陽気」、「ハ長調」は「中間的で純粋」というような、調による気分を多くの音楽家が感じているのだという。しかし著者曰く、科学的にはそれらに違いはない、ということだそうだ。あくまでも、調の変化が重要なのだという。また、調に気分があると信じる音楽家が、それぞれの調に「合う」と感じる楽曲を多く作るから、余計その思い込みが助長されるのだ、というような説明もしていた。

とまあこんな感じで、音楽を題材に様々な事柄が描かれている作品です。難しかったりややこしかったりする記述がまったくないとは言わないけど、概ね面白く読めるんじゃないかなと思います。

ジョン・パウエル「響きの科学 名曲の秘密から絶対音感まで」

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