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成功者の告白 5年間の起業のノウハウを3時間で学べる物語(神田昌典)



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正直に言おう。
胡散臭い本なのだと思っていた。

僕は本書を、とある理由から読むことにした。
その理由はここでは書かないが、別に起業しようとか成功者になろうと思って読んだわけではない。読む必要があったから読んだのだ。

だから、自分の中には、本書を読むためのそこまでの積極性はなかった。噛みくだいて言えば、しょーがねーから読むか、というぐらいのスタンスだったのだ。

けれど、冒頭から、本書は面白いかもしれないぞ、という予感を漂わせていたのだ。

『成功に向かう道には、いくつもの地雷が埋まっている。成功が現実のものとなるに応じて、それと等価の困難や障害が用意されていたのだ』

『大きな成功を実現していく過程では、確実に障害が降りかかる。成功だけを持ち逃げできない。私は単なる戒めとしていっているのではない。これは事実なのだ。私が確信できる理由は、短期間に急成長する会社経営者の多くの事例を見てきたからである。』

プロローグに、こんなことが書かれていた。なるほど、これはちょっとよくある自己啓発本とは違うような気がするぞ、と思ったのだ。

しかしとはいえ、まだまだ警戒心を解いたわけではなかった。というのも、「(ビジネス的に)成功すれば、等価の困難や障害がもたらされる」というのは、運不運やバイオリズムの話として説明されてしまうのではないか、という懸念があったからだ。そういう話であれば、面白くもなんともない。しかし、僕のその懸念は、良い意味で裏切られるのだ。

プロローグには、こんなことも書いてある。

『これからあなたに伝えたいことは、地雷を踏むことを回避する方法ではない。残念ながら困難や障害を避けることはできない。しかし上手に乗り越えることはできる』

『根底に流れるテーマは、ビジネスと家庭のバランスを撮りながら、いかに会社をスムーズに成長させるか、ということである』

ビジネス書をそこまで読んでいるわけではないが、ビジネス書という括られる本を読んで、「家庭」の話が出てきたことは、少なくとも僕の経験ではなかったと思う。非常に面白い切り口だと感じた。

そして、こう書かれている。

『物語ではあるが、作り話ではない。特定の人物や会社がモデルになっているわけではないが、この物語は、私に起こった出来事を含め、複数の実話を下敷きにしている。何人もの成功した経営者に出会ってみると、驚くほど似たようなパターンが生じているので、そのパターンから不純物を殺ぎ落としてきた結果、生まれた物語といっていいだろう』

本書は、青島タクという男が、会社を辞め起業し成功するも、その後様々な障害に襲われる、という展開の物語だ。ここで描かれる物語が、本当に色んな成功者が経験した「驚くほど似たようなパターン」であるのかどうか、それは著者の主張を信じるほかないが、これが事実をベースにしていようがいなかろうが、「起業」に関する様々なことを学べる物語だということは間違いないだろう。現代は、生涯同じ会社でサラリーマンとして働き続けることが困難になりつつある世の中と言っていいだろう。そういう世の中だからこそ、自分の人生を見つめ直すためにも、起業する予定などなくても、とりあえず読んでみるのはアリだと思う。

内容に入ろうと思います。
青島タクは、銀行員である父から「安定」を叩き込まれたために大手メーカーに就職したが、その安定から逃げ出したいと思うようになった。そこで、デジウィルというベンチャー企業へと転職した。デジウィルは数ヶ月前まで、その急成長ぶりがマスコミの話題となるほどの注目企業であり、転職したタクは周囲から羨ましがられた。
しかし半年後。タクは転籍(子会社に移り、本社に帰れる予定はなく、給料も減る)させられることになった。生まれてまだ三ヶ月の子どもがいる。どうしたらいいのか…。
転籍させられることを、妻のユキコに話をした。同時にタクは、独立して会社を作る計画を話す。ユキコは、そんなタクの決意を後押ししてくれた。そこからタクは独立へ向けて考え始める。
昼食を食べていると、かつて働いていた大手メーカーで上司だった神崎ヒロシに声を掛けられた。今は独立し、会計事務所とコンサルティング会社を経営している。やり手だ。タクは神埼に、独立する計画があることを話、相談に乗ってもらうことにした。神崎のアドバイスは的確で、タクが有望なビジネスのアイデアを思いついたこともあって、タクの会社は急成長を遂げることになる。
しかし、本題はここからだ。タクは、順調に成長しているはずの会社で、様々なトラブルがあることに気付く。ユキコとの関係もうまくいかない。それを神崎に相談しようとすると、まるで神崎はタクの会社や家庭の内情でも知っているかのように、きっとタクは今こうなっているんだろうね、と指摘する。一体神崎は、何故タクの会社や家庭のトラブルを予測することが出来るのか…。
というような話です。

なんとなくミステリっぽい内容紹介になっちゃいましたけど、別にそういうわけではありません。ただ、物語の展開のさせ方こそミステリ的ではありませんが、神崎が何故タクの会社や家庭のトラブルを予測出来たのか、という話は、まるでミステリの解決編を読んでいるかのような感覚になりました。

そう、タクが経験するトラブルは、きちんと原因や理由があるものであり、それは会社の成長と共に必然的に起こりうるものなのだ、ということを本書では指摘するわけです。

例えば、著者自身が経験したトラブルには、こんなものがある。

・長男が奇病に罹る
・長女が腸閉塞になる
・家に帰ったら妻がおらず、離婚届がポストにある
・社員が立て続けにメニエール病で倒れる
・同志のコンサルタントがうつ病になり、その後自殺

そしてこれらのいくつかは、青島タクが経験したこととして物語の中でも描かれる。

著者はこれらを、起業の成功による副作用のようなものとして原因追求する。もちろん、科学的に立証できるようなものではないが、本書の中で神崎の口を借りて語られるそれらの原因は、非常に納得感がある。なるほど、そういう説明であれば、100%ではないにせよ理解できる、というような説明をするのだ。

その過程で神崎は、「起業」というものをかなり詳細に分割して捉えてみせる。成長する過程で必要な役割、時期ごとの会社のあり得べき状態、起業家の精神状態などなど。そういったことを細かく捉えた上で、その過程のどんな要素がどんなトラブルに繋がっているのか、という説明をしていく。

先程も書いたが、もちろんこれは科学ではない。本書で描かれる説明が、必ずしも合っているとは限らない。しかしその点は、あまり問題にはならない、と僕は感じた。何故なら、起業家の状態や行動(=「行動」と呼ぶ)が「原因」となって「トラブル」が起こると推測しているわけだが、仮にその「行動」が「トラブル」の「原因」でなかったとしても、その「行動」は避けるべきだと感じられるように本書では描かれているからだ。

もう少し具体的に書こう。本書では、「長男が奇病に罹ったこと」(=「トラブル」)の「原因」が、青島タクの「行き過ぎたプラス思考」(=「行動」)にある、と捉えている。もしかしたら、この捉え方は不正解かもしれない。しかし、それは問題ではないのだ。本書を読めば、「行き過ぎたプラス思考」が「長男が奇病に罹ったこと」の「原因」でなかったとしても、「行き過ぎたプラス思考」を抑えるべきだ、と感じられるようになる、ということだ。仮にそれが直接の原因でなかったとしても、それは悪いものであると認識させられる。そこに本書の大きな意味があるのではないかと思う。

だから、「トラブル」の「原因」として指摘した「行動」が理屈に合わない、と仮に感じたとしても、そのことのみによって本書で書かれていることを単純に切り捨てるのはもったいないと思う。僕は理系の人間なので、やはり科学的に証明できないものに全力で寄りかかるのか怖いと思うし、本書で描かれる「原因」の指摘には、そこの関連性は弱い気がするなぁ、と感じるものもあった。それでも、その点をもって本書を非難する気にはならない。因果関係が仮に証明できなかったとしても、「原因」として指摘された「行動」を取るべきではない理由が伝わると思うからだ。

本書を読むと、「そういう視点から起業という行動や会社という存在を見るのか」と感心させられることが何度もある。今まで「起業」など考えたこともなかったし、「会社」というものも真剣に捉えたことがなかったのだけど、様々な形で「起業」や「会社」を単純化して捉えることで、その本質を捉えようとする視点が面白いと感じた。

本書は、「どうビジネスを軌道に乗せるか?」に対する直接的なヒントも様々に散りばめられている。それらのアドバイスも、実に面白い。「どうお客さんを集めるのか」「少数の大手のクライアントに頼るのは危険」「お客さんの声にこそヒントがある」など、ある意味では当たり前かもしれないのだけど、タクが軌道に乗せようとしている実際のビジネスのアイデアの実例と共にそれらが語られることもあって、非常に分かりやすい。

しかしそういう「どうビジネスを軌道に乗せるか?」という話は、恐らく本書でなくても学べるだろう。やはり本書は、「起業すること」や「会社という存在」の捉え方や、それらをどう活かしてトラブルを回避するのか、という点にこそ主眼がある。

『タク、仕事のために、家庭があるんじゃないんだぞ。家庭が幸せになるために、仕事があるんだ。履き違えるんじゃない』

恐らく多くの人が、「そんなこと分かってる」と思いながら起業するのだろう。しかし、分かっていないのだ。行く先にどんな落とし穴が待ち受けているのか、知らないから「分かってる」などと言えるのだ。

「分かっていないのだ」と思って、謙虚に学ぶことが大事なのだろう。本書は、そのスタートラインに立たせてくれる一冊だと思う。

神田昌典「成功者の告白 5年間の起業のノウハウを3時間で学べる物語」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)