どこの家にも怖いものはいる(三津田信三)
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内容に入ろうと思います。
本書は、著者の三津田信三が、作中の登場人物として出て来る作品です。
小説家の三津田信三は、河漢社の三間坂秋蔵と定期的に会っている。仕事の打ち合わせではない。河漢社は専門書の出版社であり、小説を書いている彼が知らなくても当然の出版社だった。
三間坂はかねてより三津田信三のファンだったと言い、是非お会いして話がしたい、と言われ、仕事の打ち合わせだろうかと思いながら出向いていった、というところから、彼ら二人の会合<頭三会>はスタートした。
三間坂は、無類の三津田信三フリークであった。会う度に、お互いの個人的な話はそっちのけで、三津田信三の作品について語りに語った。やがて取り上げるべき作品が尽きてきた頃、三間坂は彼に、怪談は好きですよね?と問うてきた。
作品の多くが実話怪談をベースにしたものであり、またかつて怪談の蒐集をしていた時期もある三津田信三は、もちろん怪談が好きだが、三間坂のそれもまた凄まじいものだった。特に、語りの技術が抜群だった。聞けば、三間坂自身はそういう経験をすることはないという。怪談が集まってきやすい体質、とでも言うしかないだろう。
怪談の話をこれでもかとした後で、三間坂が変なことを言い出した。
「まったく別の二つの話なのに、どこか妙に似ている気がして仕方がない…といううす君の悪い感覚に囚われた経験が、先生にはありませんか」
そう言って三間坂が出してきたのは、二つの話である。一つはとある女性の日記であり、書き手である主婦の家で起こった不可解な出来事について触れている。そして二つ目は、少年の語りを書き記したもの。隣村の外れにある大きな屋敷に期せずして入り込んでしまった少年の体験を綴ったものだ。
時代も経験もまったく違う二つの話に、どことなく奇妙なものを感じた三津田信三は、その違和感を辿ってみることにするが…。
というような話です。
作品としてはそこまで良いとは感じませんでしたけど、短編集の見せ方としてなかなか面白い構成の作品だなと感じました。
本書には、5つの短編に序章・終章がつく、というような構成です。序章は、三津田信三がその5つの物語を読むことになった経緯が、そして終章ではミステリ的に言えば「解答編」が書かれている、という感じの構成です。
5つの短編は、何らかの形で素人が書き記した文章、という体裁を取っています。日記・聞き書き・ネット上の文章・応募されてきた小説のある章・自費出版された本のある章、という形です。だから、文体も雰囲気もバラバラで、そういう雰囲気の設定はうまいと思いました。本当っぽさ、みたいなものをうまく醸し出しているな、と。
三間坂と三津田信三が見つけ出してきた、来歴のバラバラな文章を並べて、それらに共通する違和感を取り出し、何故そんな違和感を醸し出すのかを議論する、という構成はなかなか斬新で、物語全体の構成としてはなかなか良くできている、と感じました。
ただ、僕が怪談的なものにさほど関心がないからでしょう、5つの物語にはどれもそこまで関心を惹かれなかったな、という感じでした。それは、僕が文章を読んでて頭に映像が浮かばないこととも関係があるかもしれません。怖ろしい描写がなされているんでしょうけど、僕にはこの作品で描かれている「異形の者」のイメージが頭の中にさっぱり浮かばない、という部分もあるかもしれません。
あと、「5つの怪談の共通項を探す」という設定は非常に面白いと思いましたが、一応設定としてこの作品は「三津田信三が実際に経験したこと」という体裁を取っているので、であればちょっと作為的に過ぎるなぁ、と思ってしまいました。もちろん、実際には本書は小説なので、僕のこの評価は厳しいかもしれませんが、ただ本書と同じ構成は、「三津田信三が実際に経験したこと」という体裁を取らずとも書けたはずだ、と思います。著者自身を登場させず、あくまでフィクションだ、という体裁で書けば、僕が抱いたような違和感はなかったでしょう。しかし、実話だ、という体裁を取っている以上、ちょっと色んなことが物語に都合よく描かれすぎている、と感じてしまいました。
とはいえ、なかなか良くできた作品だとは思いました。
三津田信三「どこの家にも怖いものはいる」
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