黒夜行

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夢を持たない齋藤飛鳥



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夢を持つことは、可能性を狭めることだと、僕は思っている。

【ひとつだけ覚えています。
先生もクラスメイトの親もその子(※学校一の秀才と言われていた、将来医師になると決めていた小学校時代の同級生)に「将来に期待しかないね、若い頃から将来を考えるのは凄い、偉いね」って言うんです。
(中略)
ただ、あまりに皆が持ち上げるから、私には捩れて見えてしまうんです】「別冊カドカワ 乃木坂46 vol.4」

凄くよく分かる。齋藤飛鳥が言う「捩れて」がどういう意味なのか、正確に捉えられているかは分からないが、その状況に対する強烈な違和感は理解できる。

人間は生きている限り、様々な制約によって縛られる。生まれた環境、性格や体質、使える時間、お金などなど、あらゆる制約が存在する。そういう中で、自分が注ぎ込める可能性すべてを費やさないと届かないような、とてつもない夢というのも、もちろんあると思う。先の同級生の「医師」という夢も、もちろん一部の超天才であれば楽々と乗り越えられるものかもしれないが、一般的には自分のあらゆるリソースを注ぎ込まなければ到達することが出来ない夢だろう。そういう意味で、若い頃からそういう夢を見つけ、それに向かって邁進できることは、とても素晴らしいことだと思う。決して悪いことではない。

しかしそれは、「他の選択肢をほぼ諦めること」とイコールである、という認識を持った上でなければ、その夢が叶わなかった時の挫折感に耐えられないのではないか、とも感じてしまう。

子どもの頃は、夢を持つことは大事だ、素晴らしいことだと言われる。そうやって大人は子どもに、「夢の持ち方」だけは教えてくれる。しかし、大人になるにつれて、いい大人にもなって夢なんて見てるんじゃない、と言われる。おかしい。子どもの頃はあんなに夢を持つことを奨励されていたのに、いつからダメになったんだろう。子どもの頃は「夢の持ち方」を散々教えてくれるのに、大人になるまでの間に誰も「夢の諦め方」を教えてくれはしない。いつの間にか、夢を持ってはいけないことにされてしまう。

【勿論当時から難しい事ばかりを考えていた訳では無いとは思いますが、夢とか希望とか、そういう類のものに疑問を持ち始めたのはこの時期です(※先程の同級生への周囲の反応を見聞きしていた頃)。
そう、わたしは確かにここで違和感を感じました。
そして、夢を持たないという選択も、したはずなんです。全然覚えていないですけど】「別冊カドカワ 乃木坂46 vol.4」

僕も全然覚えていないけど、人生のどこかで「夢を持たないという選択」をしたはずだと思う。子どもの頃は、それでもまだ何か自分に何か可能性を持とうと思っていたような気もする。でも徐々に、そういう意識を手放していった。まだその頃は、「夢を持つことは可能性を狭めることだ」なんて明確に捉えられていたわけではないと思うけど、自分なりに、何か違うな、という感覚を持つようになったのだろう。

夢を持たないという選択をした齋藤飛鳥は、「実力」のない自分自身を嘆く。

【ほらわたし、今まで運だけでやってきてますから。実力なんてゼロですから。いつかバレてしまうんじゃないかと、ヒヤヒヤしてますから。】「別冊カドカワ 乃木坂46 vol.4」

ネガティブな齋藤飛鳥らしい自己認識だが、しかしこの「実力」の話を、夢を持たないことと組み合わせて考えると、ちょっと面白い捉え方が出来る。

夢に向かっている人にとっての「実力」というのは、非常にわかりやすい。例えば医師になるのが夢であれば、「医学部に入学するための知力」や「手術の手技」「論文を書く技量」などを総合して「実力」と捉えることが出来るし、それぞれに対してどんな風に「実力」を伸ばしていけばいいのかという方向性もなんとなく分かるだろう。

一方、夢を持たない人間にとっての「実力」というのは、一体何を指すのだろうか?これは、ちょっと難しい問題だ。夢がないということは、向かうべき方向がないということだ。そこにじっとしていてもいいし、どの方向に進んでいってもいい。たどり着くべき場所がないのだからスピードも問われないし、回り道するという発想さえない。そういう中で、「実力」というのは一体何を指すのだろうか?

【そのせいで、小さい頃の何も考えていない自分や実力をつけてこなかった自分に、腹を立てたことがあります。何度も。
誰かに必要とされる人間になるには何かしらの実力をつけなければならないと、躍起になった事もあります。】「別冊カドカワ 乃木坂46 vol.4」

そういう気持ちになってしまうことは、よく分かる。僕もそんな風に焦っていた時期があったなぁ、と思う。でもやっぱり、目指すべき場所がないのだから、「実力」をつけるために何をしたらいいのかは全然分からないのだ。

僕は、夢を持たない人間にとっての「実力」というのは、可変性なのだと思っている。目の前に何か状況がやってきた時、その状況に合わせてどれだけ変化できるか、ということだ。そして齋藤飛鳥は、意識的なのか無意識的なのかは分からないが、この可変性という「実力」を伸ばそうとしているように僕には感じられるのだ。

【私、「このジャンルに向いてるよね」って言われるのが好きじゃなくて。曲によっていろんな見え方ができたほうがいいかなと思っているので、それは意識していますね】「ENTAME 2017年5月号」

齋藤飛鳥は、自分自身が何らかの「枠」の中にはめ込まれることを嫌う。夢を追うことが、スペシャリストを目指すことだとすれば、齋藤飛鳥の意識はその対極にある。

【私、なんに対しても“こだわりを持つ”ってことが好きじゃなくて。もちろんいい方向に進む努力はしますけど、なるようになってくれればいいし、私は絶対にこうなりたいって夢は持ちたくない。自分にも、周りにも、あんまり期待はしたくないんです。そのほうが、ワタシ的にはいい意味で楽なんですよね】「Graduation 高校卒業2017」

齋藤飛鳥は、こだわりを持てば持つほど、可変性が失われることを直感的に理解しているのだと思う。進むべき道を決めてしまうことが、それ以外の道を諦めることと同じだと知っているからこそ、彼女は踏み込まない。

それはとても勇気の要る生き方だ。彼女が言う「実力」を身につける方が、分かりやすい安心を得られる生き方になるはずだ。自分に何らかの「実力」があり、それが発揮される場があるという生き方は、きっと心を安定させるに違いない。自分はこういう人間だ、という打ち出し方をする方が、楽に感じられることも多いだろう。しかし彼女はそうしない。夢を持たない彼女にとっては、どんな状況にでも対応できる可変性を持ち、自分自身の輪郭をはっきりさせない生き方の方がベストだと感じているからだろう。

【私はファンの皆さんが抱いている私のイメージをまるまる全部は認めてはいないんですけど、自分らしさは自分が決めるものだとも思っていないんです。だから、齋藤飛鳥として求められるものにきちんと応えていきたいと思っています】「アイドルspecial2017」

齋藤飛鳥は決して、自分の考えを持っていない人間ではない。むしろ、この若さで自分自身を支える独自の考え方を持っている凄さを常に感じさせられる。それでいて、他人からの期待やイメージを拒絶せず、それらを自分の考えと織り交ぜていきながら、新たな状況に適応していく。夢を持たずに生きてきた彼女の最大の強みは、この点にあると僕は感じる。

【そして次に、自分の夢に近しい人と仲良くなりましょう!
なんとなく理にかなっている気がしますがどうですか?
これはつまり、媚びるという事です!
媚びには需要があります!
媚びて媚びて、他人の力で夢を叶えてしまう!】「別冊カドカワ 乃木坂46 vol.4」

この文章を、言葉通りに受け取ってはいけない。これは、「手っ取り早く夢を叶える方法」として登場する文章で、その最初の提言は「夢のレベルを下げましょう!」だ。ある意味で逆説的なアドバイスを送っていると捉えるべきだろう。だからここで齋藤飛鳥が言いたいことは、「自分の夢のためなんかに媚びるな」ということではないかと思う(曲解かもしれないが)。

【―いまも「世の中そんなもん精神」はあるんですか?
はい。9枚目、10枚目くらいから思い始めたんですけど、その頃はまだスタッフさんに褒められたらそのまま鵜呑みにして、期待に胸をふくらませていたこともあったんです。でも、結果的に期待はずれになることも多いと分かったので、いまは「世の中そんなもん精神」がより強固になってます。
―「世の中そんなもん精神」は、ビートたけしさんの「人生に期待するな」という言葉にも通じるなと思うんです。その分、冒険ができるというか、モデルなりラジオなり新しいジャンルにも恐れず飛び込めるのかなかって。
そうですね。小さいことで「うれしい」と大きく感じることもできるようになりました。「世の中そんなもん精神」があるから何に対しても高望みしないので、うまくやれている部分もあるのかなと思ってます。】「EX大衆2016年5月号」

夢を持たず、可変性という「実力」を育ててきて彼女だからこそたどり着ける場所がある。どこも目指さないからこそ、どこまでも突き進むことが出来る。彼女の生き様は、「夢を持たないこと」の強さを実感させてくれる力強いものだと感じさせられた。

齋藤飛鳥の連載は、これで終了だと言う。他の多くの連載も終了とのことなので、「別冊カドカワ 乃木坂46」自体がvol.4を以って終了、ということなのかもしれない。残念だが仕方ない。最後に、やはり連載終了を哀しんでいるらしい齋藤飛鳥のこんな言葉を載せて終わろうと思う。

【仕方ないんです。だって、さみしーんだもん!
“終わりあるもの”は好きだけど…寂しいものは、寂しい。
なので、
久々に鉛筆削りを買おうと思います。手動の。
それでは、また。】「別冊カドカワ 乃木坂46 vol.4」

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Comment

[7955]

突然のコメント失礼します
以前から黒夜行さんの考察と文章が好きで拝読させていただいてます。
もともと、乃木坂の人たちの言葉や表現力が好きで(もちろん容姿もですが)、ネットで乃木坂について漁っていたときにこのブログを見つけたんです。読んでいくうちに語彙力に乏しい自分では捉えきれなかったモヤモヤした魅力がくっきりと姿を現したような気持ちになりました。そこから、本好きでもあった僕は様々な記事を読ませていただいてるというわけです。

今回の齋藤飛鳥さんのエッセイは今までの中でも一番面白く感じたので、黒夜行さんの記事を密かに楽しみにしていました。
僕はいま浪人生です。やりたいことは何だ?夢はなんだ?と嫌でも考えさせられる立場にいます。行きたいと思っている(思わされている?)大学はあるものの、ハッキリしたものがなく勉強するのはなかなかしんどいものです。夢はないけれど、夢を捨てる選択もしきれてないという感じでしょうか?
齋藤飛鳥さんと同い年だからこそより自分には到底得ることができそうもない強さに魅せられているのかもしれません。

日記に書くようなことをなんとなく書いてしまいました。すいません。これからもブログ楽しみにしてます!

エッセイが終わるのは寂しいですが、以前755で幻冬舎の見城さんが齋藤飛鳥には小説を書かせてみたいと仰られていたので楽しみにしたいですね。

[7956]

コメントありがとうございます!そして、ブログを結構読んでくれているみたいで、ありがとうございます~。いつも長々ダラダラ書いてるので、読んでる人なんかいないだろ、と思っているんですけど(笑)、読んでくれている人がいるのはありがたいです!

僕も、乃木坂46のメンバーの考え方や価値観が好きで(もちろん容姿も 笑)、結構追いかけちゃうんですよね。自分の考察が正しいかどうかはともかくとして、こういうことを考えたくなるような発言が多い、ということが、彼女たちの魅力の一つだろうなぁ、という感じはします。

僕も、ムーミン君さんの年齢の頃は、色々悩んでたなぁ。やりたいことはないけど、勉強だけは出来たので、割と良い大学に行って、でも結局大学は辞めて、色んな紆余曲折があって今の場所にいます。振り返ってみて思うことは、10年後の自分が何をしてるかなんてまるで分からない、ということです(笑)。とりあえず、自分が「前」だと思う方向に進んで見るしかないんだろうなぁ、なんて思ってたりします~。

僕は、雑誌の懸賞のアンケートで毎回、「齋藤飛鳥に小説を書かせて欲しい」と書き続けているので、是非実現してほしいですね!

[7959]

乃木坂46って1人1人は向きも長さもバラバラのベクトルで個性があるから、みんなが全然違う物語を持っていて飽きないんですよね〜。でも、バラバラなはずなのに始点はそろってるから、結局整ってて美しくて、グループで見ても面白いんですよね。
こんな風に生意気に考えたくなるのが、確かに彼女たちの魅力かもしれないです。(笑)

僕としてはいろいろ迷ってはいますが、彼女たちのように「前」だと思う方を信じて進んでいこうと思います!

返信ありがとうございます。また、なにか思うことがあればコメントさせて頂こうと思います。

[7960]

そう、「始点が同じ」って、僕のイメージでは、メンバーみんなが「乃木坂のため」と思っている、という部分なんですけど、そういう統一感とバラバラ感のバランスがいいですよね~。

はい、またいつでもコメントお待ちしてます~

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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
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7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
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12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

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4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
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16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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