黒夜行

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まぼろしのパン屋(松宮宏)

これまで読んできた松宮宏の作品群とは、ちょっと違うタイプの作品という感じがした。
これまでは、それが奇想であれ、あるいは日常のドタバタであれ、まずは大風呂敷を広げたところから物語が展開していくようなイメージがあった。ぶっ飛んだ発想を、リアルさを支える様々な現実的な描写で組み上げながら、リーダビリティを生み出す物語を紡いでいくようなイメージだ。

本作は、そういうタイプの作品とはちょっと違った。日常を飛び越える展開も登場するのだが、基本的にはどこにでもありそうな日常を舞台にして話が進んでいく。もちろんそこには、松宮宏らしさみたいなものを感じさせる。こぶりながらよくまとまった作品だという印象である。

内容に入ろうと思います。
本書は、3編の短編が収録された短編集です。

「まぼろしのパン屋」
茨城沼に、開発の波が押し寄せている。地元選出で国土交通大臣になった亀井高雄の悲願だったが、あまりの規模に資金繰りがつかなかった。そこに手を差し伸べたのが大東京電鉄グループの総帥である設楽昇である。茨城沼には、その開発に反対して「サンカノゴイの家」と名付けられた小屋に立てこもっているジャーナリストらがいるが、開発業者は彼らに農薬を撒くなどして徹底抗戦している。
その大東京電鉄で働く高橋は、課長程度で終わるはずだった人生が、玉突き事故のような形で大きく変わった。会社の資産を預かる財務部長に指名されたのだ。自分が優秀だなどと思ってはいない。何かあったら切られる尻尾であると自覚している。最近、妻の久里子がカルチャーセンターのパン職人の講座にハマッている。まあ、結構なことだ。
サラリーマンの常として、日々満員電車での戦いを繰り広げている高橋は、休日出勤しなければならない朝、いつもと違ってガラガラの車内で不思議なおばあさんに会った。何故かそのおばあさんからパンを受け取った。そのことで彼の人生は大きく変わっていくことになるのだが…。

「ホルモンと薔薇」
花隈病院の大腸外科医である村岡久雄は、仕事も休日も腸にまみれている。普段は、日本で三本の指に入ると言われる大腸外科医として、その美しさに感動し、また仕事終わりや休日も何かと腸が絡んでくるのだ。
仕事終わりで「吉田酒店」で飲んでいると、父の久二雄がやってきた。今日は焼肉の会だ。久二雄が主催する焼肉パーティーにはプロの焼肉店さえ店を休んでやってくるほどの人気だ。久雄もその準備のため牛の解体を手伝った。
そこに加奈がやってくる。ひったくりに遭ったのだという。皆で憤るが、どうなるものでもない。とりあえず皆で話を聞き慰めていたが、その後予想もしなかった展開となり…。

「こころの帰る場所」
華井中の荒井と言えば知らぬものはいないヤンキーだった荒井は、はみ出した生き方をしていたが、性根が腐っていたわけではない。人生の都度都度で、生き方を改めようと思ったことはあった。しかし、一度貼られたレッテルはなかなか剥がすことができない。真面目になろうとしたり、でもなりきれなかったりというゆらゆらした人生を続けていた。
一念発起してJRの試験を受け、車掌として真面目に働き始めるが、昔の仲間との縁はそうそう切れるものではなく…。

というような話です。

どの話も、凄く地味ではあるんですけど、スイスイと流れに乗った語りに読まされてしまうし、じわじわと染み込んでくるような物語がとても良い。物語の中で特別な出来事が起こることはなくて、悪い言い方をすればダラダラと話が展開していくんだけど、それでも読ませる力はさすが松宮宏だと思う。

最初の「まぼろしのパン屋」こそ、ちょっと非日常的な部分が出て来るのだけど、その点を除けば、全体的に日常ベースで物語が進んでいく。とはいえ、松宮宏である。普通の話にはならない。登場人物たちが非常に個性的で、わいわいがやがやしているだけなのだけど、なんだかほっこりさせられてしまうのだ。相変わらず不思議な物語を書く作家だ。

どの話にも食べ物が絡んでくるが、より重要なのは、どの話も働く者たちの話だということではないかと思う。特に「まぼろしのパン屋」はそうだ。本書をお仕事小説、と捉えるのは難しいだろうが、働く者の悲哀や哀愁みたいなものも感じ取れる作品なのではないかと思う。

松宮宏「まぼろしのパン屋」

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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
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5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

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2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
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5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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2011年の個人的ベストです
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