黒夜行

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「お嬢さん」を観に行ってきました

内容に入ろうと思います。
スッキという少女は、侍女としてある屋敷で働くことになる。そこは、和洋中が混然と入り混じった大邸宅であり、日本人になりたくて「上月」という名の日本の没落貴族と結婚した男が、大量の蔵書に囲まれて生活をしている。その姪である秀子が、この屋敷では「お嬢様」として扱われているが、実際のところは叔父に幽閉されているような生活を強いられている。スッキは、そんな秀子のお世話をする者としてあてがわれた。
スッキは実は、詐欺師一家に育てられた女だ。侍女として秀子に仕えるのも、自らを「伯爵」と名乗り、秀子が相続する莫大な財産を狙っている詐欺師の計画の一部なのだ。秀子に「伯爵」を好きにならせ、そのまま結婚、日本に逃亡するという筋書きだ。
スッキは計画の一部として秀子に仕えながら、徐々に秀子に惹かれていく。莫大な敷地を持つ屋敷に閉じこめられ、また幼くして親を失った秀子の境遇に同情し、また秀子が見せる優しさや女性としての美しさに、女性であるスッキもいつしか惹かれていってしまっている。
秀子への愛情は、次第に詐欺の計画に支障を来たしていくことになるが…。
というような話です。

これはなかなか面白い映画でした。
ストーリーについては正直、あまり触れられません。原作が「茨の城」という小説で、この作品は「このミステリーがすごい!1位」になっているので、作品全体がミステリ的なテイストなんだろうな、というぐらいの予想はしていましたけど、観ながら、なるほどなぁ、という感じでした。正直なところ、映画の冒頭の方では何がどうなっているのか分からず、展開がバタバタと早いなぁ、と思っていました。舞台の基本的な設定をうまく理解できない内に物語がどんどん進んでいってしまうので、冒頭ではその辺りの理解が結構大変でした。原作は、文庫本で上下の作品なので、かなり分量があるといえます。その物語を映画にするのに、大分省略しなければいけなかったでしょう。その辺りの苦労が、バタバタと進んでいく冒頭の部分に出てしまったのかな、という感じはしました。また、後半の方でも、ここはもうちょっと詳しく描いて欲しかったなぁ、と思う部分があったんですけど(ある人物がある場所に収容された後の展開はもうちょっとちゃんと知りたかった)、これも物語の分量的に削らないといけなかったんだろうなと思いました。

というわけで、ストーリーがどう展開していくのかについては、是非映画を見てください。なかなか良くできた物語だと思います。物語が転調する部分では、爽快感さえ味わえるかもしれません。

この映画の大きな特徴は「エロス」だと思います。「R18」の指定があって、そこまでしなきゃいけない程のエロさなのかは僕にはよく分からなかったけど(まあ、エロ以外にも成人指定をしなきゃいけない理由があったのかもですけど)、映画全体の中でとても良い要素になっていると感じました。

そもそもこのエロさが、物語全体をカムフラージュしている部分というのもあると思います。エロいな、と思ってみていたシーンが、後々重要なシーンだったことが分かる、というようなことは何度もありました。

ただ、そういうカムフラージュのためだけにエロさが多用されているわけでもないでしょう。この作品では、「天涯孤独で屋敷から出られない女」と「詐欺目的で近づいてきた女」が出会い、お互いが持っている思惑を表面に出しながら惹かれ合う気持ちが醸造されていく、という展開を濃密に描き出すために、エロスが存在しているのだと思います。

秀子は、5歳の頃から屋敷に幽閉されているのですけど、そこで叔父に何をさせられているのかというと、「朗読」です。何の朗読なのか、という部分はちょっと伏せることにしますが、秀子はこの朗読によってのみ「性の世界」を知ることが出来るわけです。それ以外の「性の世界」を彼女は知らない。だからこそ、スッキとの妖しい関係性が非常に重要になってくるし、そこに必然性が生まれてくるのだと思う。

物語全体を覆う妖しさが、映画全体の雰囲気をとても印象的なものにしている。1939年の朝鮮半島を舞台にした作品であり、まだまだ大時代的な絢爛さみたいなものが残っている大富豪の屋敷内部の世界観も独特で面白いし、時空が歪んでいるかのような世界の中で少しずつ育まれていく二人の女性の関係性も非常に見どころがある。

また、日本の観客にとって非常に印象的だろう点がある。それが、韓国人の俳優が日本語で演技をしている、という点だ。日本語と韓国語を半々で話す人物が大半で、映画全体のセリフの半分が日本語なのではないかと思う。日本以外の国の観客であれば、彼らの喋り方に違和感を覚えることはないだろうが、日本人が彼らの喋り方を聞くと、やはり違和感はある。秀子は日本人という設定なので、若干その辺りで違和感を覚える部分は出てくるだろう。まあ、こういうものなんだな、と思えば、映画を見ている内にさほど気にならなくなってくるのだけど。僕は字幕で見たけど、日本語吹替版を作るなら、秀子の日本語の部分だけは日本人にやらせた方がいいかもしれない。

物語に詳しく触れられないので、あまり多くを語ることは出来ないが、全体としてなかなか良い映画だったと思う。冒頭でも書いたけど、原作にある程度のボリュームがあるので、たぶん削った部分がたくさんあるだろうと思う。ところどころ、描き方が足りないとか請求な展開だと感じる部分はあった。スピード感と濃密さのバランスが非常に重要な映画なので、まあこれぐらいの分量が映画としては良かったのかな、と思う。妖艶な雰囲気と予想外の展開が魅力的な作品だ。

「お嬢さん」を観に行ってきました

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)