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さくらんぼ同盟(松宮宏)



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ホントに、この松宮宏って作家は何者なんだろうなぁ。
出す本出す本、全部面白い。
正直言って、物語に中身があるのかっていうと、全然ない。最初から最後まで馬鹿馬鹿しさ全開の作品なのだ。
ただ、だからと言って侮ってはいけない。
馬鹿馬鹿しい物語で、いかに読者を引っ張るのが難しいのかということが、僕は分かっているつもりだから、そういう意味で本当に驚かされる。

この小説も、「腋から謎の物質が摘出される奇病が板橋で頻発するんだけど、その謎の物質が超絶美味で、“さくらんぼ”と名付けられ、日本中を大混乱に陥れる」っていうだけの話なんです。たぶん、この紹介だけ読んでも、意味不明だろうと思います。いや、正直、読んだって、意味不明なんです。なんで腋から“さくらんぼ”が出て来るのか、そしてそれが何故超絶美味なのか、ということが一切不明のまま、そんなこと当たり前のことでしょ?とでも言わんばかりにスイスイと物語が展開していってしまう。よくわかんねーなー、とか思いながら、でも場面場面の描写が絶妙に面白いんだよなぁ、だからうっかり読まされてしまう。ずーっとそんな感じで、最後まで読まされてしまうんだよなぁ。

とにかく、物語の展開のさせかたがべらぼうにうまい。ホントにこの著者は何者なんだ!って読みながらずっと考えてしまうような、そんなぶっ飛んだ小説です。

内容に入ろうと思います。

日本中を大混乱に陥れた“さくらんぼ”の発端は、死体が生き返ったという衝撃的な出来事から始まる。
板橋総合医療センターに、一人の患者が救急搬送されてきた。いや、搬送される前、その患者は死んでいた。同病院の心臓外科医である土居医師が死亡を確認したのだ。間違えるはずがない。しかし今患者は、体中を跳ね上がらせて大暴れしている。原因は不明だが、とにかく腋を痛がっているようだ。担当した整形外科医の永積惇史が全身麻酔をして切ってみると、壮絶な悪臭と共に、プリッとした弾力のある異物が腋から摘出された。その見た目から“さくらんぼ”と名付けられた異物を取り出したら、患者は急に元気になった。よくわからないが、とりあえず一件落着である。
しかし、またも同じような症状の患者が板橋病院に運び込まれてきた。幸か不幸か、またも惇史が担当することになった。やはり“さくらんぼ”が摘出されたのだが、前回と違ったのは、その“さくらんぼ”を、看護師の渡辺が食べてしまったのだ。
渡辺が“さくらんぼ”を「この世のものとは思えない味わい」と評したお陰で、世界中が熱狂することになった。その熱狂を受けて、“さくらんぼ”の売買を仲介すると宣言する弁護士が登場、彼の音頭で始まった“さくらんぼ”争奪戦には、なんと3億円という大金が投じられることになった。仲介料を除き、次に“さくらんぼ”を体内に宿した者は2億4000万円が手に入ることが確実になったのだ。このことが世間を熱狂させることになる。
この“さくらんぼ”騒動に関わることになる人物は多々いるが、二人紹介しよう。一人は、<うちでの小槌>という消費者金融で大成功を収め、現在は若者向けのエンジェル投資家である薮内久世治郎。もう一人は、警視庁を定年で退職した後、生来の人の良さから近所の揉め事を解決する探偵事務所を開設することになった小渕岩男だ。久世治郎は、金に糸目をつけない美食家であり、またその内側に狂気を宿すサイコパスでもある。一方で岩男は、キャリアである警視庁の刑事部長と今でも昵懇の仲であり、警察が処理しきれない重大案件を任されることになる。
彼らは一体、どんな大騒動に巻き込まれることになるのか…。
というような話です。

この内容紹介を読むだけでも、相当にぶっ飛んだ小説だということは分かるだろうと思います。ただ、読めば、もっと驚くでしょう。それぐらい、先の展開がまるで予測できない物語です。

松宮宏が凄いのは、物語全体の展開はアホアホしいのに、登場人物の来歴や背景なんかは実に緻密に描き出すところです。どこからそんな知識を引っ張ってくるんだってぐらい、登場人物を描き出す際の知識が多様で面白い。登場人物の来歴や背景も、びっくりするくらい無茶苦茶で、例えば一例を挙げると、「たとえ微量でも赤外線に触れると失神してしまう女性」なんてのが出てきます。いや、正直、あり得ないでしょう、そんなこと。だけど、そんな背景を持つ人間が、結構わんさか出て来る。それでリアリティなんて生み出せるのか?と思うかもしれないけど、松宮宏の描写にはなんというか、妙なリアリティがあるんだよなぁ。松宮宏は、起こり得ないことを、妙なリアリティを持って描き出すことで、独特の雰囲気を小説に与えることに成功していると思います。

正直、“さくらんぼ”がどんな奇病だろうが、“さくらんぼ”がどれほど美味だろうが、久世治郎や岩男がどんな目的で動いているのか、なんてことは、どうでもいいっちゃどうでもいいんです。別に、それらを追うことで、世界の問題が解決するわけでも、人間の悩みが解消されるわけでもないんです。ただ、単純に純粋にべらぼうに面白い、というだけなんです。物語に深い意味合いや高尚性みたいなものを付属させずに、純粋に「面白さ」だけを追求した作品って、本当に久しぶりに読んだような気がします。

読んでも正直、何も残らないでしょう。けど、読んでいる間、無茶苦茶面白いです。荒唐無稽さを、リアリティたっぷりの筆致で描き出す、なんとも言えない妙な雰囲気を醸し出すこの作品を、是非読んでみてください。ホントに面白い!

松宮宏「さくらんぼ同盟」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)