黒夜行

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チェインドッグ(櫛木理宇)



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思考停止は、楽だ。
考えなくていい、というのは、容易だ。
万物は、楽な方向へと流れていく。物理法則もそう規定するし、人の気持ちもそういう風になっている。
だからこそ、それに抵抗する意志を持たなければならないと思うのだ。

考えない人間を操作することは、たぶん簡単だろう。
操作されていることに気づきもしないまま、相手の望む行動を取ってしまうだろう。
そうなってしまえば、ただの容れ物でしかなくなる。
そうはなりたくないものだ。

通常であれば、考えない状態で生きていても、酷くマズイことにはならないだろう。
近くに、シリアルキラーでもいない限り…。

内容に入ろうと思います。
筧井雅也は、かつては神童と呼ばれるほど一目置かれる存在だったが、今ではFランクの私立大学に通う落ちこぼれだ。しかし、昔の感覚を捨てきることが出来ず、周囲の人間を見下しながら、大学生活に馴染むことなく日々一人で行動している。
そんな雅也の元に、一通の封書が届いた。榛村大和、42歳。24件以上の殺人容疑で逮捕されたのが5年前。結局警察が立件できたのは9件。16歳から23歳までの男女を監禁し、拷問して殺すという残忍な手口だ。
雅也は、拘置所にいる大和を訪ねた。俳優と言われても信じるくらいの美男子であり、かつて雅也がよく通っていたパン屋の主人でもある。
アクリル板を挟んで向かい合った二人。雅也に対して大和は、予想もしていなかったことを口にする。
「9件の内、最後の1件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」
大和は、9件目が無実だと証明されても、自分が死刑になるという事実は理解している。しかし、やってもいない罪を被せられるのは不本意なのだ、と語る。葛藤の末、雅也はこの調査をやってみることにした。
大和の担当弁護士の協力もあって、大和の過去に関わる人への聞き取り調査は比較的スムーズに行うことが出来た。様々な人間に話を聞いた。その度に、大和の印象が変転する。大和に悪い印象を抱けない者もいれば、大和をこき下ろす者もいる。悲惨な生い立ちを背景に持つ大和について、母親や養母との関係、少年刑務所に入れられた経緯、ボランティア活動での様子など、雅也は様々な情報を仕入れていく。
しかしその過程で、雅也が予想もしなかった繋がりが見つかり…。
というような話です。

全体的には、嫌いではない、という感じの作品でした。物語の設定は実に魅力的に、この物語がどう着地するのかという関心で読まされましたが、途中から、むむむ…という感じになってきました。想定した通りに物語が進んでいかないこと自体は良いことなのですが、その新たな方向性が、ちょっとしっくり来なかったなぁ、という感じです。

榛村大和の造型は、実に魅力的です。もちろん僕は、シリアルキラーにお目にかかったことはないのだけど、こういう人物はどこかにいてもおかしくないと思えるような強さを感じました。彼は拘置所の内側から出ることは出来ないわけですけど、手出しの出来ないその内側から、言葉だけを使って雅也を動かしていく。また、雅也が掘り出していく過去の大和も、もちろん悪いことをしているし、許容出来る話ではないのだけど、しかし物語であるからこそ安心して大和の悪事を受け入れることが出来るし、様々な経験を持つ大和がどのように形成されていったのか、という流れもなかなか興味深かった。

酷い境遇で生まれたからって人殺しになっていいのか、と口にする人物がいて、それは確かにその通り、正論だなと思うわけです。しかし、やはりその境遇がなければ何か違ったのではないか、という思いも拭うことは難しい。悪影響は連鎖し、なかなかそれを止めることも難しい。そういう現実を、うまく切り取っていると感じました。

雅也の造型もなかなか面白い。今の自分を受け入れる事ができずに、他人を見下してしまう。自分はもっと出来るはずという思いと、結局この程度の人間だったのかという諦念がまぜこぜになって、日常が穏やかにならない。大和の調査を始めることで、雅也は大きく変わっていくのだけど、しかしその変わっていく過程もちょっと普通ではない。とはいえ、雅也が変化していく過程に全然違和感を覚えなかったか、と聞かれると、ちょっと返答に困るが。

大和と雅也のやり取りが、大和を中心と人間関係を掘り返すことになり、やがてそれは雅也の予期せぬ蓋まで開けることになる。その辺りの展開はなかなか面白いと思うのだけど、どうしても、物語の閉じ方がぼやっとしている感じがして、ちょっとなぁ、と思ってしまう。

全体的な雰囲気は結構好きなのだけど、どことなく煮え切らない感じがある。冒頭でバーンと提示した謎と、物語を包み込む設定が非常に魅力的だったので、もう少しわかりやすい着地点に行き着く物語の方が良かったのではないか、と思う。

櫛木理宇「チェインドッグ」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)