「メッセージ」を観に行ってきました
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僕が好きな話がある。
フランス語には、「蝶」と「蛾」を区別する言葉はない、というものだ。
どちらも同じ単語(「バタフライ」なのかな?)で表現されるのだと言う。
最近知った話もある。
数学には、「ユークリッド幾何学」と呼ばれるものがある。これは本来、紀元前の時代から、ただ「幾何学」とだけ呼ばれていた。「ユークリッド幾何学」という名前が付くようになったのは、ごく最近のことだ。
では何故そう呼ばれるようになったのか。
それは、「ユークリッド幾何学(幾何学)」が成り立たない、新たな幾何学が発見されたからだ。数学者はそれに、「非ユークリッド幾何学」という名前をつけた。それと同時に、「幾何学」も、「ユークリッド幾何学」と呼ばれるようになったのだ。
この話から何が分かるのか。
それは、「言語」が生まれる瞬間についてだ。
モノや概念があれば言語が生まれるのではない。
言語は、モノや概念同士を「区別する」必要に迫られた時に生まれるのだ。
僕はこのことを、かつて何かの本で読んだ。
ウィトゲンシュタインの言語ゲームの話やソシュール言語学の話の流れで読んだ記憶があるのだけど、ちゃんとは覚えていない。
フランスでは、「蝶」と「蛾」を区別する必要に迫られることはなかった。
だから両者は、同じ単語で呼ばれることになっているのだ。
逆に、外国語を学ぶと良く出て来る「男性名詞」「女性名詞」という区別には、日本語にはない。
名詞を男性・女性で区別する必要がなかった、ということなのだろう。
今ここに挙げた例だけから敷衍するのはちょっと無理があるのだが、
言語というのは思考や認識に影響を与える。
そのことについて触れた、「サピア・ウォーフの仮説」が、映画の中でちょっと登場する場面があった。
どんな言語体系を採用しているかで、モノの見え方や感じ方が変わるのだという。
例えば、日本人にはおなじみの「肩こり」という言葉が、アジア以外の国には「肩こり」という単語が存在しないようだ。
だからそういう国には、「肩こり」は存在しない。
しかし、「肩こり」という概念を彼らに教えると、途端に「肩こり」が発生する。
似たような話を思い出した。
UFOに連れ去られた、という記憶を思い出す人々のことだ(彼らには何か固有の名前がついているはずなのだけど、覚えていない)。
ある時から、UFOに連れ去られ人体実験をされた、という証言が世界中で現れ始めた。そうなると、そういう証言がますます大量に現れるようになってくる。これは、UFOを目撃した、という話でも同じだ。UFOという単語が登場したことで、UFOを目撃する人が大量に現れたのだ。
ちょっと前に、「虐殺器官」という映画を観た。この中でも、似たような話が扱われている。言語体系が内包するある文法と、脳内に存在するある器官が結びつくことで起こる未来を描く物語だ。言語体系がいかに人間の行動や思考を変えうるのかを、明確な形で示す作品だ。
言語がなければ、僕たちは現実を認識することは出来ない。例えば、目の前にリンゴがあれば、僕たちはそれを「リンゴ」という言葉で捉える。これは、分かりやすい。しかし、じゃあ人類はいつから「空気」というものを認識したのだろうか?僕たちは普段、空気を意識しない。目に見えないからだ。僕たちはもちろん、「空気」という言葉を知っているし意識すれば「空気」というものを捉えることが出来る。しかし、「空気」という言葉がまだ存在しなかった人には、空気は存在しないものだっただろう。
かつては「マイナスの数」というのは存在しなかった。「-1」のような数字は、存在しないものとして扱われていたのだ。今では、存在するかどうかはともかく、2乗して-1になるような「i」という数字さえ僕たちは認識することが出来る。しかしこれも、言葉がなければ認識することは出来ないのだ。
この映画で示されるとある結論は、僕にははっきりとイメージ出来たわけではなかった。しかし、言語が認識にどれだけ影響を与えているのか、という想像をしてみれば、あながちあり得ないことでもないのかもしれない、とも思うのだ。
内容に入ろうと思います。
言語学の第一人者であるバンクス博士は、ある日軍の招集を受けた。それは、数日前から地球上の12の地点に突如現れた謎の飛行体に関わるものだった。
アメリカ、ロシア、中国、日本など、全世界12の箇所に現れた、通称“殻”は、全長450メートルもある巨大な飛行体だ。出現目的は不明で、“殻”の出現により、世界中で暴動や株の暴落などが発生している。アメリカでは軍がただちに派遣され、“殻”の内部に入っていた。そこには、7本脚の謎の生命体が二体いた。鳴き声らしきものは採取出来たが、それが言葉なのかどうか、判然としない。
当初軍は、音声だけを聞かせてバンクス博士に解読させようとしたが、それは不可能だと断った。それにより、バンクス博士は“殻”のある現場まで招集されることになったのだ。
バンクス博士は、理論物理学者であるイアンと共に、後に“ヘプタポッド”と名付けられる謎の生命体とのコミュニケーションを図ろうとする。音声によるコミュニケーションはやはり意味不明だったが、バンクス博士が文字を見せたことで事態は展開する。「HUMAN」という文字を見せたことで、“ヘプタポッド”から文字らしき反応が返ってきたのだ。バンクス博士は、彼らに文字を教え込みながら意思の疎通を図ろうとする。
彼らは一体、なんのために地球にやってきたのか…。
というような話です。
なかなか面白い作品でした。正直、うまく捉えきれない部分もあって、全体像を把握するのはちょっと難しいと感じましたが、「未知の生命体との遭遇」という部分だけでも十分に面白い作品だと思います。
映画の中で軍の人間がバンクス博士に、「文字を教え込むなんて時間が掛かりすぎないか?」とか、最初に教え込む単語について「なんでこんな簡単な単語を?」などと問いかける場面があります。それに対するバンクス博士の回答を聞いて、なるほど、未知の言語を持つ存在とのコミュニケーションにはこういう問題があるのか、と感じました。
軍が最も聞きたい質問は、「何故地球にやってきたか?」です。そしてこの質問を問うためには、様々な前提を理解しなくてはならない、とバンクス博士は言います。例えば、この問いでは「目的」を聞いているのだから、まずは「目的」という概念があるのかを確認しなければならない。あるいは「意志」。もし彼らが、ただ本能に従っているだけであれば、「目的」を聞いても意味がない。そこに「意志」があるのかどうか確認しなければならない。また、「個の意識」があるのかどうか。“ヘプタポッド”は二体いるが、それぞれが個として識別される存在なのか、あるいは総体として一つの存在なのか。その辺りのことをきちんと理解してからでないと、「何故地球にやってきたか?」という問いを発して、その答えが返ってきたとしても、意味のある情報にならない、というのです。なるほど、確かにそれはその通りだなと思いました。
僕は理系なので、どうしても理系的には、未知の生命体とのコミュニケーションは「素数」や「フィボナッチ数列」などで知性があるのかどうかを確かめる、的な方向に言ってしまいます。実際に、そういう調査も同時に行われていたようです。“ヘプタポッド”は、代数学を理解できないのに複雑な数学を理解したと驚く場面がありました。
けれど、知性のあるなしもそうだけど、コミュニケーションを取っていくためには、まず相手がどんな前提に立っているのか、ということをきちんと理解しなければならない、というのは、なるほどなと感じました。
彼らが地球にやってきた目的については、正直、はっきりとは捉えきれませんでした。ここは、ちょっと難しいと思いました。ただ、言語と認識が密接に結びついているのだ、ということが大前提となっている話で、はっきりと想像することは難しいんだけど、方向性としてなんとなくのイメージは出来ないことはないかもしれない、と思いました。
いや、もしこの作品の中で示唆されていることが、言語によって本当に可能なんだとしたら、それは凄く面白いなと思います。もしそうであれば、僕たちの認識が言語に影響を与え、言語が僕たちの認識に影響を与えることで、どんな言語を使っていようが僕らが当然だと考えているとある大前提を覆すことが出来るかもしれない…。そういう可能性の話は、ちょっと考えてみると面白いなと思いました。
「メッセージ」を観に行ってきました
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