さすらいのマイナンバー(松宮宏)
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読み終わった後、特別何か残るわけじゃないから、ここで書くことってあんまりないんだけど、でも読んでる間は面白いなぁって感じで読めちゃう本ってあって、この本もそういう感じ。面白く読まされちゃうんだよなぁ。この作家、上手いと思います。
内容に入ろうと思います。
本書は、3編の短編が収録された連作短編集です。神戸を舞台にしており、同著者の「まぼろしのお好み焼きソース」という作品とも繋がる作品です。
「小さな郵便局員」
郵便局員である山岡タケシは、今とても困っている。上司に「おごってやるよ」と言われて連れて行ってもらったキャバクラで大金を払わされることになり、安月給ではカツカツなのだ。そんな折、IT企業を立ち上げヤフーからも買収話があった有名学生起業家である兄からアルバイトを頼まれた。夕方、職場を抜け出してATMでお金を引き出してもらえればその度に1万円払う、というものだ。なんだかよく分からなかったが、タケシはその話に飛びついた。トイレに行くということにして職場を抜け出すのだが、上司である武藤の邪魔が入り、無駄な攻防に時間を取られる。また、謎めいた女からいつもキャッシュカードを受け取るのだが、毎回その名義が違うのだ。もちろん、怪しい、とは思っていた。しかし、お金は必要だ。あまり考えずに、タケシは兄からの依頼に応え続けた。
そしてついに、その日が来た。いつもキャッシュカードを渡す女から、いつもとは違うことを言われたのだ…。
「さすらうマイナンバー」
山岡タケシは、全国の郵便局員にとっての死活問題である、「マイナンバーの配送」という問題に、やはり苦しめられていた。マイナンバーは個人情報であるが故に、簡易書留、つまり本人に認印をもらわなければならないのだ。配送の途中でマイナンバーや受領書の紛失があったりなんかすると、もう上司が大慌てするような、そんな大変な事態を引き起こしているのだ。
何度配達しても不在、という家に苦しめられながらも、タケシはマイナンバーの配送を徐々にこなしていった。しかし、タケシには、自身の配送地域における「配送困難家庭トップ3」という最難関の壁が立ちはだかっていた。いくら呼んでも出てこない老婆、常に喧嘩が絶えない夫婦、そしてヤクザの事務所…。
「刑事部長の娘」
刑事部長の娘である珠緒は、非常に奇妙な成り行きから、由緒ある大学を退学させられるところだったのが、一転卒業生の総代に選ばれるというウルトラCを成し遂げた。その武勇伝は広く伝わり、珠緒の周囲は謎の盛り上がりを見せていた。
一方、郵便局員である桃子は、幼馴染であり、川本組の組員である福富良男からの誘いを受けた。何でも、先輩の割烹を借りて、良男自身が腕を振るうのだという。断ろうとしたが、成り行きで行く形になってしまった桃子だったが…。
というような話です。
面白い話を書くんだよなぁ、この著者。「まぼろしのお好み焼きソース」も実に面白かったけど、こちらも面白い。正直、ストーリー自体はしょうもないというか、大した話ではないんだけど、なんだか読まされてしまう。不思議な魅力のある小説だなと思います。
人物と町の設定がいいんだろうな、という気がします。
読んでいて感じるのは、「こち亀」の雰囲気です。下町を舞台に、色んな個性を持つ面々があーだこーだ繰り広げる、というのが「こち亀」の乱暴な要約だと思うんだけど、その乱暴な要約は本書にも当てはまる。どんな個性の人間も許容してしまう度量の深い町の設定と、その町の中で個性を引き伸ばしている人物とが実に上手く混じり合って、面白い物語を生み出しているなぁ、という風に思います。
「小さな郵便局員」の話は、たぶん誰が読んだって、早い段階で「振り込め詐欺の話だな」って分かると思うんだけど、それが分かっちゃっても、話の面白さが半減するっていうことは特にない。上司とのくだらない駆け引きとか、謎の女の存在とか、ある瞬間以降のネタバラシなどなど、短い話の中に色んな要素を詰め込んでいく。基本的にはしょーもない話なんだけど、面白いんだよなぁ。
「さすらうマイナンバー」も、よくマイナンバーなんかで短編を一つ書くな、と思うくらい、しょーもないんだけど面白い。マイナンバーの配送の苦労は本当の話なんだろうけど(「まぼろしのお好み焼きソース」に、郵便屋さんのモデルは実在する、と書いていたので、恐らく本書に出てくる山岡タケシに実在のモデルがいるということなんだと思います)、その大変さをこんな風に面白おかしい物語に仕立てるというのは、ある種の才能だなと思いました。
最後の「刑事部長の娘」も、3編の中で最もよく分からないというか、なんなんだこの話は、って感じなんだけど、不思議な魅力があるんだよなぁ。決してストーリーで読者を引っ張っているわけではないんだけど、じゃあ何に引っ張られているのかはイマイチよく分からないという、なんだか不思議な感じのする小説でした。
松宮宏「さすらいのマイナンバー」
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