簡素な生き方(シャルル・ヴァグネル)
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本というのは寿命の長いメディアだ。
印刷機が発明されてからずっと残り続けているような書物だってあるし、そもそもが写本という形でさらに以前からの本が残っていたりもする。
とはいえ、昔書かれた本を読む難しさというものはある。
その一つに、書く必要もないと著者が考えている同時代的な大前提を、現代の読者は知らない、ということが挙げられる。このことを、小説を例にとって説明してみたい。
例えばSF小説の場合、何らかの特殊な設定があることが多い。タイムトラベルが出来るとか、火星まで行ける宇宙船があるとかだ。そういう、僕らが生きているのとは折り合わせない設定がある場合、作家はその点について何らかの形で読者に提示しながら物語を進めていく必要がある。
しかし、現代を舞台にした小説の場合、そうではないことが多い。例えば作中に「コンビニ」と書いてあれば、僕らはそれが何であるのかすぐに理解できる。著者はそれを説明する必要はない。しかし、100年後の未来にはもう「コンビニ」は存在しないかもしれない。「コンビニ」について作中で説明していない物語の場合、未来の読者には伝わりにくくなる。
今は「コンビニ」という具体的なものを例に挙げたが、これは価値観や考え方についても同じだ。その時代その時代の当たり前の価値観については説明されないことの方が多いだろう。
そしてその点が、昔書かれた本を読む難しさに繋がっていく。
本書は、具体的な出来事や事例の話が非常に少ない。具体的な事実などの背景が描かれることなく、著者の考えていることが書かれていく。そうであればあるほど、その時代の大前提となる考え方が出にくくなる、といえるだろう。
本書は120年前にフランスで出版された、当時の欧米のベストセラーだそうだ。読みながら僕は、著者が前提としている考え方を上手く捉えることが出来ずに、読むのに苦労した。当時の基本的な考え方との差が著者の主張になるのだろうが、前提となる考え方をうまく捉えられなかったので、その差も捉えにくいと感じてしまった。
また、差のことはともかくとして、著者の言っていることを字面で受け取った場合、書かれていることは少なくとも今の僕にとってはとても当たり前のことのように感じられて、それもこの作品の良さが分からない理由の一つではある。この本に書かれていることを、自分が考えたこともない新鮮な発想だ、と感じる人もいるだろう。しかし、僕にはそうは思えなかった。本書で書かれていることを、僕は既に実践していたり考えていたりするので、新鮮さを感じることが難しかった。
とはいえ、世の中の「当たり前」にがんじがらめに囚われてしまっている人には、読んだら面白く感じられる本かもしれません。
シャルル・ヴァグネル「簡素な生き方」
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