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ライオン・ブルー(呉勝浩)

色んな分類の仕方があるだろうが、ミステリをこんな風に二つに区分してみる。

一つは、「わけのわからなさが冒頭で一気に明らかにされる物語」だ。例えば同著者の、「白い衝動」という作品を挙げることが出来る。

「白い衝動」では冒頭から、「自分は誰かを殺してしまうかもしれない」と相談に来る高校生が登場する。さらに、かつて得体の知れない殺人を犯し、刑務所から出所した元凶悪犯が近隣に住んでいる、という情報がもたらされる。非常に不穏で、わけがわからない。このわけのわからなさをいかに解くかがミステリの核となって、物語が展開されていくことになる。

もう一つは、「わけのわからなさが少しずつ現れる物語」だ。まさに本書が、そういう物語だ。物語は、日常からスタートする。状況設定や人間関係を少しずつ描き出していきながら、徐々にその日常の中に「わけのわからなさ」が現れてくる。「わけのわからなさ」がなんであるのかというのを物語の核にしながら、それを解いていく物語だ。

さて僕は、前者のようなミステリが好きなようだ。冒頭でバーンと「わけのわからなさ」が登場する。なんだこりゃ、意味が分からない、という感覚に引っ張られていく。冒頭であまりにも大きな「わけのわからなさ」を提示することは、着地点を難しくすることにも繋がる。それは、読者からすれば期待にも変わる。この「わけのわからなさ」に、本当に説明をつけることなど出来るのだろうか?そういう期待がずっと自分の内側に残り続け、その続きを読みたいという動機に繋がっていく。

前者のようなミステリと比較した場合、後者のようなミステリは、読み続ける動機を確保するのが難しいことがある。「わけのわからなさ」が小出しにされるということは、僕にとっての先を読みたいと感じさせる動機が少しずつしか現れてこないことになる。「わけのわからなさ」以外にも、例えばキャラクターが魅力的だというような、読者を引っ張っていく要素があればまた違うだろう。でも、そうではない場合、少しずつ「わけのわからなさ」が明らかになっていく展開は、自分の中の読み進める動機を見つけ出すことが難しくなっていく。

もちろんこれは人によって違うだろう。後者のようなミステリの方が好きだ、という人もいるだろう。どちらがいい、という話ではない。ただ僕は、「わけのわからなさ」が冒頭でバーンと出てくる物語の方がどうしても好きになってしまう(もちろん、着地点の困難さの問題があるから、うまく着地させられずに失速してしまう物語も多くなる、という欠陥はあるのだけど)。

内容に入ろうと思います。
澤登耀司は、地元である関西の田舎町・獅子追の交番に異動してきた。澤登は「あの澤登」と呼ばれるほど有名な存在だ。甲子園で彼が見せた姿は今でも多くの人に記憶され、それから逃げるように澤登は地元に寄り付かなくなった。
今回、父の入院を理由に移動願いを出した澤登だったが、折り合いの悪い兄が実家の石屋を継いでいるし、今さら澤登が戻ってきたところで父は病院だ。本当の目的は別にある。
長原だ。教場(警察学校)で同期だった長原が、この獅子追交番での任地を最後に失踪したのだ。勤務中に警官が拳銃を持ったまま失踪したとあって、当時大ニュースになった。しかし、長原の無線機が発見されたのみで、長原の行方は杳として知れない。それを澤登は調べにやってきたのだ。
獅子追は、千歳という地元の大地主が牛耳っている。警官の身でありながら、その千歳とかなり深くつるんでいる晃光大吾という巡査が、獅子追交番を実質的に取り仕切っているようだ。交通事故が大事件であるような田舎では、交番の仕事なんかほとんどない。たまにあるトラブルを晃光が解決するやり方を見て、澤登は異常だと感じた。晃光の、法を無視した振る舞いが、ここ獅子追ではまかり通っているのだ。
澤登は、実直に勤務を続けながら、それとなく長原の失踪の謎を追った。そんな折、事件らしい事件のない獅子追で、火事があった。毛利淳一郎という地元の鼻つまみ者が焼死体で発見されたが、他殺の可能性もあるという。火災の報を受けて現場に急行した澤登は、非番だったはずの晃光が現場にいたことに不審を覚えた。
さらに澤登は、自分が知らない内に、澤登家のある決断が獅子追の命運を握っていることを知り…。
というような話です。

冒頭でも書いたように、「わけのわからなさ」が徐々に現れてくる物語で、そういう物語の性質上、僕とはちょっと合わなかったな、と感じる作品でした。

この物語を理解するためには、獅子追という田舎町が抱えた歴史や問題を理解しなくてはいけない。それらは、様々な断片に亘っているから、冒頭でバーンと提示するのは難しい。少しずつ、獅子追という土地の異様さが浮き彫りになっていく。その過程はなかなか面白いし、中盤から後半に掛けての、頭のネジが数本ぶっ飛んだような展開は斬新だと感じもした。

とはいえやはり、中盤までの展開がなかなかじれったいと感じてしまった。出てくるのは田舎の交番のオッサンばっかりだし、特に何が起こるわけでもない田舎町での出来事だから、日常に特別な変化があるわけではない。そういう中で殺人事件が起こるのだけど、それらの背景は徐々にしか明らかにならないから、その背景に横たわるものを期待して読むということがなかなか難しい。

そしてもう一つ、この物語を僕があまり受け入れられないのは、「土地」というものに対する思い入れが基本的にないことが理由にある。

この物語は、様々な人間が「獅子追」という土地について考えたり考えさせられたり影響されたり囚われたりする過程で起こる。田舎町であればどこにでもこういう構図はあるのかもしれない。晃光は獅子追の現状を、『ここがろくでもない田舎やと、みんなよくわかっとる。田舎が悪いんとちゃう。出来上がった田舎のシステムがくそなんや。誰もそこから自由になれん。』と表現している。土地というものに深く深く根付いて、そこに住む者すべてをがんじがらめにするような環境だからこそ、この物語は成立しうる。

そして僕は、そういう事柄に基本的にまるで関心がない。関心がなくても取り込まれてしまうのがこういう土地の問題なんだろうけど、幸いにして今までそういうことに囚われたことがないし、自分から関心を持とうという気持ちもない。僕自身はどこに住んでいてもいいし、ここでなければ生きられないなんていう感覚もない。そういう根無し草のような人間には、物語の中で人々ががんじがらめに囚われているものの正体が、ぼんやりとしか掴めないということになってしまう。

僕がこの物語の中で最も関心があるのは、晃光大吾という男だ。彼はなかなか興味深い。彼の行動原理は、行動原理を知る前はほとんど理解不能だが、行動原理が分かれば実にシンプルで分かりやすい。常人には理解しがたい言動にも、彼なりの思慮が込められている。目指すべき場所がはっきりしているからこそ、迷うこともない。この潔さは、実に魅力的だと感じた。

後半の展開は、晃光大吾の存在抜きには成り立たない。この異形の男が、日常の中に紛れ込みながら、己の目指す高みへと邁進していく。そのブレなさは見事だし、その強さには憧れさえしてしまう。

あと、とある殺人犯の殺人の動機も凄まじい。過去これほど中身のない動機で殺人を犯したものが、物語の中であってもいただろうか?

呉勝浩「ライオン・ブルー」

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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
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9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
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7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
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3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
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1位 「「科学的思考」のレッスン
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)