黒夜行

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「パッセンジャー」を観に行ってきました 

いつもならこんなことは書かないのだけど、今回はあらかじめこのことをお伝えしておく。
もしこの映画に関心があって、見るつもりでいるなら、僕の文章は先に読まないで欲しい。
いつものように、自分なりにネタバレをしない範囲で文章を書くつもりではいるが、この映画に関していえば、どうしても限界がある。
僕はこの映画を、ほとんど何も知らない状態で観ることが出来て、とても良かったと思っている。僕の文章は、今回に限らずいつだってそうだが、今回に限って言えば特に余計な先入観を与えることになると思う。
だから、まだ観ていない人は、僕の文章を読まないで欲しい。
凄く良い映画だった。

(普段はこんな風にはしないけど、続きが読みたい方は、「続き」とか「MORE」とか、何か表示されていると思うので、それをクリックしてください。)
















究極の選択だ、と思う。
あらかじめ、問うていた。

『人生を百万倍良くする方法を見つけたんだけど、それは誰かの人生を壊してしまう。君ならそれをするか?』

究極の選択だ。

僕ならどうしただろう、と思う。映画を観ながら、そのことばかり考えさせられてしまった。
想像は、遠く遠く及ばない。
どう考えても、イメージすることなど出来ないだろう。
僕ならしない、と、そりゃあ僕だって言いたい。
言いたいけど、けどやっぱり無理だろう。
きっと、僕も同じことをしてしまうだろうと思う。

『頼む。するな』

自分に言い聞かせていた。
するつもりなどなかった。
けど、きっと、耐えきれないだろう。
それだけの絶望が、そこにはあるのだから。

前半は、とても息苦しかった。
崩壊の予兆が漂っていたからだ。
いや、そんな言い方では生ぬるい。
崩壊の予兆しか感じられなかったからだ。
だから、ずっと苦しかった。観ていて、相反する二つの感情にずっと引きずり回されていた。
この状態がずっと続け。
でも、早くこの状態が終わってくれ。

紙の月」という映画を観に行った時も、同じ感情にずっと囚われたことを思い出した。

「紙の月」は、平凡な女性行員が、銀行から横領し豪遊する物語だ。主人公役の宮沢りえは、行内では目立たないように振る舞いながら、私生活では若い男との楽しい日々を送っている。
彼女のしている横領は、どう見ても杜撰で、確実にいつかは破綻することが観ていて分かる。宮沢りえは、とても楽しそうに日々を過ごしている。しかし、その楽しそうな日々の背後には、崩壊の予兆しかない。この映画を観ながら僕は、この幸せな状態がずっと続いてくれと思っていたし、同時に、早く横領が発覚してくれ、と思っていた。

前半のこの重苦しさは、本当に心苦しかった。自分の行為ではないのに、自分の経験ではないのに、罪悪感が物凄かった。感覚としてはたぶん、自分が不正を知りながら、それを伝えるべき相手に伝えられていない罪悪感に近いのではないかと感じた。

だから、その状態が終わった瞬間は、正直ホッとした。
映画を観ながらあれだけ自分の感情が強張ったのは、本当に「紙の月」以来だったと思う。

この緊張感からの解放が、この映画の大きな山場といえるだろう。

その後は、それまでの展開よりも気楽に観ることが出来た。謎の罪悪感は、自分の内側から消え去った。しかし、彼らの問題が解決したわけではない。むしろ、どうすれば解決するのかまったく想像もつかないほど、錯綜してしまったと言っていいだろう。物語としては、むしろここからが本領発揮と言ったところだろう。この硬直した状況を、どう打開するのか。

そこからラストまで、別種の緊張感を持続させたまま観客を惹きつけ続けるのだから、見事な映画だと感じた。

物語の展開に詳しく触れるわけにはいかないが、結果から見れば、その行動は大正解だったと言えるだろう。途中起こる展開によって、その行動の意味が大きく変わる。

しかし、それは本当に偶然のような展開だ。目の前にやってきた状況は決して偶然起こったわけではないが、とはいえ、その状況をいかに乗り越えていくかという部分に関しては、多分に偶然が重なった。その点をとやかく言うつもりはない。そもそも普通であれば、この映画で描かれる物語は起こり得なかったのだから、物語は元から偶然の中にあるといえるし、後半の展開の中で生まれる偶然は、決して不快なものではない。

けれど…。
もしその偶然がなければ彼らはどうなっていたのか、とやはり考えてしまう。
問題を、解決することが出来ただろうか―。

究極の問いだ。
少なくとも、僕たちが普段生きている世界の中で、この映画で問われるのと同じ問いが成り立つ状況は、まずない。
この問いを突きつけられることはない、というのは、ある意味安心だ。
しかし、この問いにどう答えるのか、という思考実験は、人間の本性をあぶり出すだろう。
この映画を観て、自分がどの立場だったらどう振る舞うだろうか、と考えてみるのは、自分の輪郭を認識するのに面白いかもしれない。

内容に入ろうと思います。
宇宙船「アヴァロン」は、バクティ系第四惑星にあるスペースコロニー「ホームステッドⅡ」に向かって航行中だ。クルー258名、乗客5000名は冬眠状態のまま、出発から120年後に到着することになっている。人口過密、価格高騰など様々な問題を抱えた地球を飛び出し、新たな地での人生をスタートさせる―。そんな希望に満ちた5258名だ。
ジェームズ(ジム)・プレストンも、その一人だ。デンバー州出身の技術者。ある日彼は、たった一人、自分だけが冬眠から目覚めたことを知る。状況がまったく把握出来ない。しかし、他に動いている人間が誰もいない中、船内の様々な場所を歩き回り、様々なことを試して分かったことがある。
ジムは、何らかの理由で早く目覚めてしまった。
ジムが目覚めたのは、出発から30年後。スペースコロニーの到着まで、あと90年。冬眠カプセルに戻ろうとしても、どうしてもうまくいかない。
彼は、運命を受け入れた。スペースコロニーに辿り着く前に、この船内で死ぬ。
ジムは、アンドロイドであるバーテンダーのアーサーを相手に、たった一人孤独な日々を過ごす。
そしてある日―。
ピューリッツァー賞を受賞した父を持ち、自身も作家であるオーロラ・レーンが冬眠から目覚めた。
彼らはこの鋼鉄の船内で、その生涯を終えることになるが…。
というような話です。

ストーリーについて、これ以上詳しいことは書かない。
一応冒頭に、これから観るつもりの人は読まないで欲しい、と書いたけど、それでもやはり、うっかり視界に入ってしまう人はいるはずだから。

どうしても想像してしまう。
どんな感情を、その内側に抱えていたのか、を。
あの楽しい日々の中、どんな感情に耐えていたのかを。
まともでは生きられない状況で、それでもまともであろうとするために罪を犯した者。
この物語の閉じ方が、ああいう形で、とても良かったと僕は思う。

「パッセンジャー」を観に行ってきました       
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小説・新書以外

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
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1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
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5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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9位 山本弘「詩羽のいる街
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
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4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
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8位 笹本稜平「天空への回廊
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)