桜疎水(大石直紀)
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内容に入ろうと思います。
本書は、6編の短編が収録された短編集です。
「おばあちゃんといっしょ」
竹田美代子は「常世神」宗教団体を立ち上げて詐欺をしている。45歳のホームレスの佐原芳雄という男を教祖に仕立て上げ、もっともらしい来歴ともっともらしい教義を作り上げて、信者から大金をまきあげていた。最も、佐原は最近言うことを聞かなくなってきた。祈祷の最中居眠りをするし、家に誰もいれるなと言っているのに女を連れ込んでいる。そろそろ大きな仕事をして、佐原を切る時期だろうか。
美代子は、赤木静子という大金を持っていそうな老女を見つけ、この仕事が終わったら佐原を切ろうと考える…。
「お地蔵様に見られてる」
京都には二度と住まないと誓って、京都に支社も営業所もない東京本社のアパレルメーカーに就職したさやかは、今年になって京都に支社を立ち上げるとかで、まさかの京都住まいになってしまった。
真如堂の参道で倒れた女性が、泰宏の母親だった。変わり果てた姿になっているが、間違いない。恐ろしくなってさやかは逃げ出した。
大学時代、達朗と泰宏の三人で過ごした日々を思い返す。あんなことにさえならなければ…。
「二十年目の桜疎水」
スウェーデンに移り住んで20年。日本に帰ったのはほんの数度だ。しかし、母が危篤と聞いて、正春は久々に日本へと帰った。死の間際、母は正春に懺悔した。私のせいで辛い思いをさせてしまった、と。
雅子の話だ。母は雅子に手紙を出したことがあるという。なんの話だそれは?
その話がどうにも気になって、正春は京都へと向かった。そうする間、雅子とのことを思い返していた。
雅子とは会ってすぐに気が合い、つきあい始め、結婚の約束もしていた。その後、あんなことにならなければ…。
「おみくじ占いにご用心」
ヘルパーの後をつけ、ターゲットにする老人を選ぶ、というやり方で大金をせしめてきた横道と上宮は、今回も同じやり方で一人の老女に狙いを定めた。ヘルパーの来ない日に、介護ステーションの職員を装って侵入し相手をうまく丸め込むのだ。今回も問題なくうまくいくだろう。
しかし、“仕事”の前に引いたおみくじが「凶」だった。今までこんなことはなかった。もう一度引いて「大吉」を当てたが、なんだか嫌な気分だ。拭えない違和感はその後も頻発するが…。
「仏像は二度笑う」
片山正隆は子供の頃から手先が器用で、中学の頃に両親を無理矢理説き伏せて仏師の修行に励んだ。25歳を過ぎる頃には一人で仕事を任されるほどの上達ぶりで周囲を驚かせたが、しかしギャンブルで身を持ち崩した。師匠から見限られた正隆は、自分で作った仏像を骨董屋に売りに行くが…。
一方津久見は、馴染みの料理屋でいつものように飯を食っていた。骨董関係の人間が集まるのでちょっとした情報を仕入れやすくて重宝している。その日、店主の相原が、客から上物の九谷焼を買い取っていた。明らかに安い値段で。それを持ち込んだ男の父親が仏像専門と聞いて津久見は色めき立つ…。
「おじいちゃんを探せ」
ある日沙和は、両親が自分に内緒でおじいちゃんの話をしているのを聞いてしまう。それは、おばあちゃんが内緒でおじいちゃんと年賀状のやり取りをしていた、という他愛もない話だ。祖父母は沙和が幼い頃に離婚しており、沙和はおじいちゃんの顔を知らない。ミステリ好きな血が騒いで、両親が一体何を隠しているのか探ろうと決意する。
しかし、大したことではない風を装って母親におじいちゃんの話を振ると、母親の顔が固まった。おじいちゃんの話は、沙和が想像しているよりもタブーなようだ…。
というような話です。
なかなかよく出来た作品でした。冒頭の「おばあちゃんといっしょ」が日本推理作家協会賞短編部門を受賞したようですけど、確かによく出来た作品でした。他の作品も、粒ぞろいという感じがします。
やはり一番出来がいいのは、「おばあちゃんといっしょ」かなと思います。導入の物語があってからの、「常世神」の宗教の話になっていくのだけど、なるほどと思わせる構成でした。
同じようによく出来た構成だと感じたのは、「おみくじ占いにご用心」と「仏像は二度笑う」の2つ。「おばあちゃんといっしょ」を合わせた3作品が、詐欺をモチーフにした作品です。「仏像は二度笑う」は、3つの中でもまた大分タイプが違っていて、「詐欺」というモチーフでありながら読後感の良い作品という感じがしました。
「二十年目の桜疎水」は、雅子のある決断が物語の肝になってきます。悩んだ末、今の状態で未来を生きていくためにした雅子の決断。その決断の真意を二十年目にして初めて知ることになる主人公。二人の新しい未来を予感させるような展開がなかなか良かったです。
「おじいちゃんを探せ」は、またちょっと違ったタイプの話。家族の秘密を巡る物語ですが、想定していなかった展開がお見事という感じでしょうか。両親のひそひそ話をちょっと耳に挟んでしまったことから展開される物語としては、なかなかハードでしたけど。
「お地蔵様に見られてる」だけは、正直良くわからなかったんですよね。作品全体のトーンと、何となく合わないような気がしました。大学時代に起こった出来事は興味深いですけど、全体としてはイマイチよく分からなかったです。すっきりしない終わり方だったような気がしました。
全体としては、なかなか良くできた短編集だと思います。
大石直紀「桜疎水」
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