ハリネズミの願い(トーン・テレヘン)
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内容に入ろうと思います。
本書は、オランダで絶大な支持を集め、国内外の様々な賞を受賞している作家の作品です。
主人公は、一匹のハリネズミだ。彼はひとりぼっちで、家に誰も来たことがない。ハリネズミは考えた。よし、誰かを招待しよう、と。そうして、招待状を書き始める。
『親愛なるどうぶつたちへ
ぼくの家にあそびに来るよう、
キミたちみんなを招待します。』
しかしハリネズミは、自分のトゲが嫌いで、みんなと仲良く出来ないと考えている。だから、招待状の最後にこう付け足した。
『でも、だれも来なくてもだいじょうぶです。』
そうしてハリネズミはさらに悩みはじめてしまう。この招待状を出すべきかどうかを。
この招待状を出すべきだろうか。考えなくちゃ。そう、例えば、招待状を出したとして、誰か来てくれた時のことを想像してみればいい。クマは?ゾウは?カメは?コウモリは?…。ハリネズミは、色んな動物が来てくれることを想像するのだけど、どうにもうまくいかない。来ても楽しそうにしてくれなかったり、来たら家を壊されちゃったり、来ようと思っているのにハリネズミの家までたどり着けなかったり…。
ハリネズミの想像は次々と続いていき…。
というような話です。
設定は絶妙な面白さだなと思いました。ホントにこの作品は、最初から最後まで、ほぼハリネズミの妄想だけで終わります。招待状を出すべきか、出したら誰が来てくれるか、来てくれたらどうなるのか…みたいなことを、ひたすら延々と考え続けます。
しかもそれが、結構マイナス思考なのだ。そういう意味で、ハリネズミというセレクトはなかなか絶妙だ。ゾウのような長い鼻とか、キリンみたいな長い首とか、クマみたいな強さみたいな、分かりやすい良さみたいなものがなく、さらにその上で、ハリなんていう、周りの人を傷つけちゃうようなものを持っているハリネズミだからこそ、この葛藤が生きる。ハリネズミの妄想は、ちょっと荒唐無稽というか、考え過ぎというか、空想すぎというか、そういう部分もあるんだけど、その考え方のベースに、「自分なんて…」という発想があるというのが、共感を集めやすいように思う。
ハリネズミの妄想は、時々不可解で、読み取ろうと思えば哲学的な何かを読み取れるだろう。アリと「フクザツさ」について議論する部分も、ミーアキャットと「<訪問>とは結局なんのか」を議論する部分も、なかなか面白い。深い意味があるんだかないんだか分からないような描写は、何らかの輪郭のはっきりした問題を抱えている人が読めば何らかの答えのように感じられるかもしれない。あるいは、それらを始点(あるいは問い)として、新しい思索へと乗り出すことが出来るかもしれない。
読む人次第でいかようにでも読める、という意味でも、<寓話>と呼びたくなる作品だ。
トーン・テレヘン「ハリネズミの願い」
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