黒夜行

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神様の裏の顔(藤崎翔)

これは面白い作品だなぁ。
いつものように考えたことをあーだこーだ書くような感想にはならないんだけど、物語として本当によく出来ている小説だと思います。

内容に入ろうと思います。
物語はすべて、ある人物の葬儀で完結する。
その人物とは、神様のような清廉潔白な教師・坪井誠造だ。死の直前はもう教師を退職し、貧困家庭や不登校の子どもを支援するNPOに参加していたが、それ以前は中学校の校長をしていた。校長室を開放し、不登校気味の生徒を気軽に通わせる試みが話題を呼び、見学者も相次いだ。どんな人からも慕われ、こんなに素晴らしい教師は他にいない、と絶賛されるような、人間の鑑のような人物だった。
その坪井先生が亡くなった。
葬儀には、多くの参列者が集まった。葬儀社員はこの光景を異様なものと見た。普通参列者の多い葬儀は、個人にゆかりのない人間も動員が掛けられていることが多い、泣いている人間の割合は多くない。しかしこの葬儀は、参列者の8割方が泣いている。しかも、子どもも多い。子どもたちも号泣している。こんな葬儀見たことないと感じるほどの光景だった。
その葬儀の場で出会った面々がいる。彼らは生前何らかの形で坪井先生と関わっており、その死を悼んで葬儀にやってきたのだ。
坪井誠造の娘で、父の背中を追って小学校の教師になった晴美。そして、晴美の妹で、売れない女優の友美。坪井先生の教え子で、晴美と同級生だった斎木直光。坪井先生の元同僚で、厳しい指導で生徒から嫌われまくっていた体育教師の根岸義法。坪井家の隣に住む、認知症を患った夫の介護に奔走していた主婦の香村広子。坪井先生の教え子であり、また坪井誠造が大家である「メゾンモンブラン」の住人であるギャルの鮎川茉希。同じく「メゾンモンブラン」の住人で売れない芸人である寺島悠。
この面々が、ほんのちょっとした聞き間違いをきっかけに、葬儀の場で偶然に集まることになる。そしてそこで驚愕の展開が待ち受けているのだ。
…もしかしたら坪井先生は、極悪人だったのではないか。そんな疑惑が浮上したのだ…。
というような話です。

これは面白い作品だったなぁ。とにかく、最初から最後までよく出来ている。全体の構成や設定が見事なのはもちろんのこと、元芸人という著者の経歴からだろうか、登場人物のキャラクターが非常に面白く描かれている。葬儀が舞台になっているのに、クスッと笑わせにくるような描写や展開があちこちに待ち構えていて、読んでて楽しい。色んな人物の語りに入れ替わっていく多視点の物語で、そういう視点の移動が苦手という人もいるかもしれないけど、たぶんこの作品は大丈夫だろう。それぞれが非常に個性的だし、それぞれにエピソードがしっかりとあるので、人物を混乱することもないし、視点の切り替えに違和感を抱くこともきっとないと思う。

登場人物の魅力については、ちょっと読んでもらわないと分からないのでここではあまり触れないので、別の話をしよう。
とにかく、よくこんな物語考えたもんだなぁ、と思います。
先程も書いたけど、とにかく全体の構成が見事です。基本的にはミステリなので、ネタを明かしすぎないようにあまり深入りはしないけど、幾つもの「疑惑」を並べて、それらが色んな人間と関わるように描き、さらにそれぞれの「疑惑」に対してそれ以降の展開を考える、というなかなかアクロバティックなことをやっているんです。もちろん、じっくり読めば細部に色々と無理があったりするのかもしれないけど、そんなこと気にならないぐらいよく出来ている。本書のようなスタイルのミステリを、他にパッと思いつかないなぁ。本書のような展開のさせ方をする「疑惑」をいくつも考えるのは相当難しいだろうし、それをややこしくないように、誰でも理解できるように書くのもまた技術が必要でしょう。さらにそれらの「疑惑」が、登場人物たちの人生の過去を様々な形であぶり出していくことにもなるわけで、いやホントに、よく出来てるとしか言いようがない作品です。

タイトルから、ストーリーがどんな風に展開していくのか、その大きな流れはたぶん分かると思います。でも、その展開のさせ方までは想像出来ないでしょう。僕も、それぞれの「疑惑」が、ここからどうなるんだろうなぁ、と思いながら読んでました。ホント、うまいことやるんですよね。しかもそれで終わらない、というのがこの物語の凄いところで、どこまで「裏」があるんだって思っちゃいました。

それぞれの登場人物のエピソードもそれぞれ面白いんだけど、どうしても「疑惑」とか物語の大事な部分に関わっちゃう感じがするんで、あまり書けないんだよなぁ。それに、何も知らないで読むほうが絶対に面白いと思います。

個人的には、彼らが集まって議論をするきっかけになった「聞き間違い」が凄くよく出来ていると思いました。あの「聞き間違い」さえなければあの議論にならなかったのか、と思うと凄く重要な場面です。そんなバカな!というようなところから話が芋づる式に展開していって、ついには「疑惑」大会が開かれちゃうという流れは、これもやはり元芸人の成せる技というんでしょうかね、見事だと思いました。

ほとんど物語に触れられないのでこんなモヤモヤした書き方しか出来ないのだけど、様々な伏線を綺麗に回収し、テンポよく物語を進め、登場人物を魅力的に描き出し、物語を実にうまく展開させる、見事な小説だと感じました。

藤崎翔「神様の裏の顔」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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7位 「自分探しと楽しさについて
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)