黒夜行

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はじめて考えるときのように(野矢茂樹)

「考える」というのを、僕らは割と当たり前にやっている。
やっているつもりだ。
でも、本当に「考える」ということをしているのか、どうやって確かめたらいいだろう?
そう聞かれると、とても困るのではないか。
何故なら、改めて考えてみると(「考える」を使っちゃった)、「考える」というのがどういうことなのか、ちゃんと考えたことがないからだ。

勉強をしている時は考えてるよ、と言うかもしれない。でも、暗記したり計算したりしている時、あなたは考えていると言えるだろうか?それは、「暗記する」「計算する」ということでしかなくて、「考える」というのとはまた違うのではないか。

企画のアイデアをいつも考えてるよ、と言うかもしれない。確かにそれは「考える」という行為かもしれない。でも、企画のアイデアを考えている時、あなたは一体何をしているだろう?「考える」ことをしてるんだよ、というかもしれない。でも、それがどういう状態なのか、どういう手順で行っていることなのか、誰かに説明できるだろうか?

そう考えてみると、「考える」というのは確かに捉えにくい。僕も、「考える」というのがどういうことなのか、「考える」ことをしている時自分が何をしているのか、うまく説明できない。

本書は、そういう事柄に説明を与えようとする作品だ。

なーんだ面白くなさそう、と思う人もいるかもしれない。しかし、こう考えて欲しい。本書は、あなたが「考える」ということをするのに必要なものを与えてくれる本なのだ、と。

「考える」ことが苦手、と感じている人がいるとしよう。ハウツー本を読んだり、ちょっと難しいことを考えてみたり色々やってみるんだけど、どうもうまく「考える」ことが出来ていないような気がする。そういう人は結構多いんじゃないだろうか。

一体何が問題なのだろう?(こういう問いかけも、まさに「考える」ことだ) それをスパッと理解することは難しい。でも、こんな例を間に挟んでみたらどうだろうか?

例えばあなたが料理をするとする。けれどあなたは、「包丁(に限らず、何かを切るための道具全般)」の存在を知らない、としよう。「包丁」の存在は知っているけど手近にない、のではない。「包丁」の存在を知らないのだ。

さて、野菜を切りたい。「包丁」を知らないあなたはどうするだろう?キャベツぐらいなら手でちぎれるかもしれない。でも、ジャガイモの皮はどう剥く?大根はどう切る?トマトをどうスライスする?あなたは、指や爪、しゃもじやお玉など、色んな道具を使って野菜と格闘するだろう。

そしてこう思う。

「あー、料理って難しい」

さて、この感想をどう思うだろうか?もちろん料理には色んな手順があるが、今あなたが苦労しているのは野菜を切る工程だ。そしてこの工程は、「包丁」さえあれば困難さはグンと減る。

あなたの料理の風景を、「包丁」の存在を知っている人が見れば、「包丁を使えばもっと楽なのに…」と思うだろう。

さて、「考える」に戻ろう。
「料理」にとって「包丁」が大事なように、「考える」にとって「◯◯」が大事だ。そして本書は、その「◯◯」を教えてくれる作品なのだ。「考える」ことが得意な人は、「考えるのって難しい」って思っている人を見て、「◯◯」があればもっと楽なのに、と思う。けど、「考えるのって難しい」と思ってる人は「◯◯」の存在を知らないから、いつまで経っても「考える」ことがうまくならない。

そして本書は、そんな「◯◯」を教えてくれる作品なのだ。

「◯◯」ってなんなんだよ、と思うかもしれない。けど、これは一言では表せないのだ。だから本書がある。「考える」ことに必要なものが「包丁」みたいに簡単に表現できるなら本書は要らない。本書を読むと、「◯◯」が何なのかはうまく説明できないけど、でも「◯◯」を手に入れることが出来る。そして、その「◯◯」を使って、あなたは「考える」ことをそれまでよりは楽に出来るようになるのだ。

なんとなく、本書がどんな本なのか分かってもらえただろうか?

「料理」は、自然にするようにはならない。誰かが料理をしているのを見たり、誰かから料理を教わったりしながら、徐々に出来るようになっていく。でも僕たちは、いつから出来るようになったのか覚えていないくらい、いつの間にか「考える」ということをしている。誰かが「考える」のを見たわけでも、誰かから「考える」ことを教わったわけでもなく、いつの間にか気づいたら「考える」ことをしていたという人がほとんどだろう。そういう、あまりにも当たり前の行為だから、逆に「考える」ということがイマイチ分からない。「料理」は、初めは分からないところからスタートする。やっていく内に徐々に分からないことが少なくなっていく。でも「考える」ことは、別に分からないことはない。「考える」ことを始めた時から、特に「考える」ことに対して疑問を感じない。こうやって、「考えるってどういうこと?」という問いかけをされて初めて、「考える」ことが分からないことだらけだということに気づく。

「考える」ことは自然に出来るようになっていたから、何が重要で、何に気をつけなくてはいけなくて、何を手放してはいけないのかも、実は分かっていない。本書は、そういうことを丁寧に説明し、また一緒に考えていきながら、「考える」ということに不可欠なもの(これを「◯◯」と呼んでいる)を読者に伝えようとする。

だから本書は、「考える」ことが苦手だという人にも、「考える」ことが得意だという人にも読んで欲しい。「考える」ことが苦手だという人は、「考える」ことそのものについて考え、その上で「◯◯」を手に入れて欲しい。「考える」ことが得意だという人は、本書を読んで、自分がちゃんと「◯◯」を持っているのか、確かめて欲しい。

内容に入ろうと思います。
が、本書がどんな本なのかは、ここまで書いたことで大体説明しちゃったんだよなぁ。「哲学」と書いてあるけど、「哲学の知識」の本ではない。哲学の考え方を使って、「考える」について分析して、「考える」に必要な「◯◯」を垣間見せてくれる作品、という感じです。

横書きだし、イラストもついているし、語り口調も難しくない。とてもとっつきやすい本だ。書いてある文章をさささっと読んでしまうことは出来る。でも、書かれていることをきちんと吟味しようとすると、本書の骨太さが実感できる。「考える」ことはみんなが当たり前にやっていることだから、それを言葉で説明したり、その不思議さを理解させたりすることは、なかなか難しい。でも著者は、平易な言葉で、出来るだけ出来るだけ簡単に、「考える」ということの本質を見せようとしてくれる。

本書の中で書かれていることの一部を切り取って見せることはとても難しいから、切り取って伝えやすい部分だけちょっと紹介してみよう。

『無知や無秩序から問題が生じるんじゃないということ。むしろまったく無知だったり無秩序だったりしたら問題は生まれようもない。いろんな知識をもち、いろんな理論を引き受けるからこそ、問題は生じる。だから、別に奇をてらった言い方ではなく、学べば学ぶほど、よりたくさんのことが鋭くより深く問えるようになる。そういうこと。』

無知だったら問題は生まれない、というのは、まさに「考える」に対しても同じだ。僕らは、「考える」ということに無知だ。だから、「考える」ということに疑問を感じない。

本書の中には、「惑星」のエピソードがある。「惑星」というのはその名の通り、「惑う星」だ。昔の人は「惑星」を「さまようもの」として捉えたのだ。
何故か。

『いまの惑星の場合だと、惑星が「さまよう星」として問題になったのは、「たいていの星は円運動をする」ということが認められたからだった。つまり、規格はずれのものごとが問題として姿を現すわけだけど、そのためにはまず規格がなければならない。だから、長い時間がかかる』

これはなるほどと思っていただける分かりやすい例だ。本書では、「考えることは、問題をきちんと捉えることだ」というようなことが繰り返し語られるのだけど、問題をきちんと捉えるためには、まずその背景にある規格を捉えなければならないのだ。

また問題については、こんなことも書かれている。

『問われて、それに答えるために何をすればいいのかわかっている問題は、答えるのに考える必要はない』

例えば、「この王冠の重さは?」と聞かれれば秤で重さを測ればいい。ここに「考える」ことは必要ない。けど、「この王冠の体積は?」と聞かれたらどうか?大学の研究室にあるような機械であれば測れるかもしれないが、そういうものがなければどうしたらいいだろう?(この王冠の話は、アルキメデスの有名なエピソードだ)

「この王冠の体積は?」という問題は、問われた時に何をすればいいか分からない。この問題を解決するには工夫がいる。こういう時に「考える」ことが必要になるのだ。

さらにこんな文章もある。

『試験などでも、教師は答えを知っているから、問題をうまく作れる。逆に、答えを知らず、答えの方向もわからない人には、うまく問題が立てられない。だけど問題がうまく立てられないと、うまく答えることもできない。
じゃあ、答えがわかる前に、どうやって問題を立てればいいのか』

これもなかなか難しい問いだ。

こんな風に、様々な問いかけや思考実験をすることで、「考える」ことがどういうことなのかを明らかにしていく。

引用が長くなるのでここでは詳しく紹介しないが、「R2D1」の話も非常に面白い。これは、人工知能につきまとう「フレーム問題」に関わる話だ。人間と同じことを人工知能にやらせようとすると、必ずこの「フレーム問題」がつきまとうことになる。こういう思考実験を知ると、人間がいかに奇妙なことを普段からしているのかということがよく分かる。

最後に、現代社会に痛打を与えるような文章を引用して終わろう。

『その意味では、共感よりも違和感や反感の方がだいじだ。
変なひとと出会う。変なものと出会う。そして、変な本と出会う。この本が、もしきみとって、ささやかでもそんな出会いのひとつになってくれたら、ぼくはすごくうれしいと思う』

僕も普段から、「共感からは何も生まれない」と思っているのだが、その考え方を補強してくれるような文章だった。
共感によって人とつながることが一番大事であるかのような風潮のある現代社会を一度見直してみることは大事なことではないかと僕は思うのだ。

野矢茂樹「はじめて考えるときのように」

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感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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