黒夜行

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「赤目四十八滝心中未遂」を観ました

意志を持たないように生きるようにしてきた。
昔から、こうしたい、ああなりたい、というような感覚があまりなかった。時々そう感情になると、なんだかうまくいかないことが多かった。別に、したいことがあっても、どうしてもしたいわけでもなかった。だから、そういう感情を持つのをやめるようになった。

そういう人生に、特に不満はない。ある程度、僕を押し流してくれる環境があるから、ということもある。僕にはあまり意志はないのだけど、僕をこういう方向に動かしたい、と思ってくれる人が、時々周りに現れる。そういう人に押し流されるようにしていきてきた。自分で意志を持つよりも楽だし、与えられたもの、求められたことを少しずつこなしていく生き方は、性に合っているのだと思う。

ただやっぱり時々、自分の意志を強く持って前に進める人を羨ましく感じることもある。そうやって、自分の足でしっかり地に立っている人を見ると、いいなと思う。僕にはそういう生き方は出来ないことが分かっているから、強く憧れるなんてことはもうないけど。

内容に入ろうと思います。
生島与一は、釜ヶ崎から流れて尼崎にやってきた。中退とは言え大学に行ったことがあるという経歴は、釜ヶ崎では特異な経歴で、尼崎で生島の世話を頼まれた勢子は彼に、焼き鳥の串刺しの仕事を与える。ボロアパートの一室で、生島は日々臓物を切り、串に刺していく。
そのアパートには、様々な人間が出入りする。娼婦、彫師、少年。彼らは余所者である生島と一定の距離感を保ちながら、余所者である彼に時折頼み事をする。生島はそれらを、特に問いただすことなく受け入れる。こうしたい、という意志を持たずに、生島の周辺を通っていく様々な人間に流されるようにして、尼崎での生島の日常は進んでいく。
尼崎を去る日はいずれくるのだろう、と思いながら。
というような話です。

不思議な映画だったな、というのが一番の印象です。
この映画は、詳細がほとんど描かれない。2時間40分という、普通の映画よりも長い印象なのだけど、舞台や人物の詳細がほとんど描かれない。何故生島が釜ヶ崎に、そして尼崎に流れ着いたのか、勢子は生島を何故受け入れたのか、彫眉が生島に預けたものにはどんな意味があったのか、ほんの僅か明らかにされる生島の過去の詳細はなんなのか、何故尼崎の多くの人が生島に「あんたはここでは生きていかれへん」と言うのか、何故生島はいずれ尼崎を去る日が来ると直感しているのか…。
そういった背景や詳細は、ほとんど描かれない。だから、生島についても、生島の周囲の人間についても、ほとんど謎しかない。

そういう状況の中で何が描かれるのか。それは、「意志を持たない生島」と、「意志を持たない生島を動かす周囲の人間」という関係性だ。この映画の核は、物語でもセリフでも映像美でもなく、その関係性ただ一つだと僕は感じた。

主人公であるはずの生島は、基本的にはただの傍観者だ。自分の生活をどうするかという関心や、自分の生活を動かしていくための行動をほとんどしない。彼は、自分の周囲で起こることに、積極的に関わる意志を持たないまま観察をしている。それが生島のスタンスだ。

そんな生島に、様々な人間が「動機」を与える。生島が行動するための動機だ。それらはどれも、微かに犯罪の香りを漂わせるのだけど、生島は殊更に疑問をぶつけるでもなく、それらの行動を実行する。何故周囲の人間が生島にそれをさせたいのか、そして生島が何故それを引き受けるのか。そういうことは一切描かれないまま、動かす周囲と動く生島の関係性だけが淡々と描かれていく。

特に物語らしい物語もないまま(背後で何かは起こっている気配は感じるのだけど、その詳細は観客には知らされない)、その関係性だけを描くことで映画は展開されていく。それが非常に奇妙だなと僕は感じた。普通はそんな映画は成り立たないと思う。何故それらが描かれているのか全然理解できないまま、頼む側の理由も頼まれる側の動機も分からないままで彼らの関係性だけを見せられるのは、苦痛だと感じられてもおかしくない。ただこの作品が映画として成立しているのは、人物の存在感にあるのだろうと感じた。生島はともかくとして、彼の周りにいる人間の存在感はとてつもなく濃い。喋らなくても、その佇まいで何かを発している。だからこそ、この奇妙な映画を観続けることが出来る。

半分以上過ぎてから、物語は大きく動き始める。とある事情で生島が尼崎を離れることになるのだ。どうしてそういう展開になるのかはここでは書かないが、結局生島は誰かの意志によって動かされ続けることになる。というか、生島がそういう人間だからこそ、生島は選ばれたのだろう。

その後の展開も、スッと受け取れるようなものではない。現実と妄想が入り組んだような場面が展開されたり、二人の行動原理をきちんと汲み取れなかったりと、なかなか捉え方が難しい。ただ、何らかの形で追い詰められた人間のもがきや葛藤みたいなものが随所に現れ出ている感じがした。追い詰められた人間の理屈に合わなさ、意味の分からなさみたいなものが切実に描かれているように感じられた。

個人的には、「新明解国語辞典」が出てきたのが面白かった。非常に個人的な理由で、なるほど、と思った。

「赤目四十八滝心中未遂」を観ました

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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7位 「自分探しと楽しさについて
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
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8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)