黒夜行

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骨を彩る(彩瀬まる)

どうにも、うまく掴めなかった。
こういう小説を読むと、やっぱり女性のことは全然理解できていないんだな、と感じる。
見ているもの、感じているもの、そういったものがまるで違うのだろう、と思う。

まったく分からないわけではない。けれど、どうも捉えきれない。彼女たちが何を求めているのかを。何を掴もうとしているのかを。何を手放そうとしているのかを。うまく捉えきれない。

女性と比べると、男は「1たす1が2」となるような分かりやすい世界で生きているように感じられる。女性の場合、同じ四則演算の記号を使っているのに、条件次第で違う規則が付け加わるような、ちょっと複雑な四則演算をしているような、そんな気持ちにもなる。

なんとなく、見えないけれど自分の人生を支配する「何か」を「骨」と呼んでいるのではないか。そんな印象だけは受けた。それぞれの短編には、何らかの形で「骨」と関わる記述がある。タイトルの「骨を彩る」というのは、板も壁も紙もないただの空間に色を乗せるような、虚しい響きを感じる。

何らかの形で欠損を抱えた女性たちは、その欠損を埋めようとして、その欠損から目を反らそうとして、その欠損を受け入れようとして、日常の中で些細な抵抗をする。

「指のたより」
妻の朝子は、10年前に大腸がんで死んだ。29歳の若さだった。津村は男手一つで娘の小春を育てている。夢に度々、朝子が出てくる。朝子が夢に出る度に、彼女の指が1本ずつ欠損していることに気づく。

「古生代のバームロール」
高校時代の恩師である柿崎先生が亡くなった。身寄りがないという先生の葬儀を、教え子が集まって執り行うことになった。かつての友人と、久しぶりの会話をする。
光恵が磯貝真紀子と再会したのは偶然だった。特別だと言われて赴いたサロンで、高宮リサという名前で登場したのだ。真紀子だと気づくと追い返された。光恵は真紀子に、柿崎先生が亡くなったこと、葬儀をみんなでやることを伝えた。真紀子は、柿崎先生のファンだった。

「ばらばら」
玲子は仙台に向かっている。夫が、たまには一人で気晴らしに旅行にでもどうだ、と言ったからだ。バスで隣り合った少女と何気ない会話を交わす。特に目的もない旅をしながら、玲子は昔のことを思い出す。苗字が頻繁に変わったこと、いじめられていたこと、新しい父親に対する拭えない違和感を覚えていたこと。
息子がいじめられているようだ。でも、その息子から、何よりもおかあさんが怖い、と言われてしまう。

「ハライソ」
不動産屋で働く浩太郎は、ネットゲームで知り合った女の子とは気兼ねなく話すことが出来る。毎週決まった時間に待ち合わせて、チャットをしながらゲームをする。付き合っている彼女がいる。凄く可愛い。でも、微妙な違和感が日々降り積もっていく。

「やわらかい骨」
小春は、転校生である葵の扱いに悩む。葵はご飯の時、お祈りをする。その瞬間、クラスの中での立ち位置は決まった。葵は小春と同じバスケ部に入る。もの凄く上手い。そんな葵と距離を縮めたくなる小春。しかし、お祈りの頑なさが、小春を躊躇させる…。

というような話です。

ストーリーだけ取り出せば、どうということのない物語だろうが、些細なことを切り取ることでハッとさせる描写を生み出す力は抜群だ、と思う。女性の小説だ、と思う。観察力の鋭い女性が、際立った表現力を持つ時、こういう小説が生まれる。

どの話にも、何らかの形で「不幸」や「悪」の影がちらつくものの、全体的には日常の範囲内にとどまっている物語だ。小さな違和感に焦点を当て、見ないようにすれば見ないで済んでしまうのかもしれない欠損に囚われる者たちの物語だ。深く入り込むことは難しかったものの、彼女たちがささやかに抵抗したりもがいたりする姿を切り取る目線がいいと思った。

著者が本書の中で描く男性には、どうしても違和感を覚えてしまう。男が見ていること、感じていることとは違う目線で描かれているように思えてしまう。女性と同じように男を描いている、という印象を受ける。こういう感覚はきっと、男性作家が描く女性に対して女性が感じることでもあるのだろうなと思う。

個人的にはうまく捉えきれなかった作品なのだけど、女性には受け入れやすい作品なのかもしれないとも思う。

彩瀬まる「骨を彩る」

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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
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15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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1位 「死のテレビ実験
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10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)