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「セトウツミ」を観に行ってきました



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非常に斬新な映画である。
ほとんど、喋るだけで終わる映画だ。
そして、メチャクチャ面白かった。

先に内容をざっと書いておこう。内容と言うか、書けるのは設定ぐらいなものだが。

セトというちょっとダラけた男と、ウツミという秀才、二人の高校生が、ひたすら川辺でダベっているだけの物語だ。特に何か起こるわけでもない。場面が移ることもほとんどない。ただひたすら、絶妙な距離を保ったまま座り、時にマックを食べながら、時に川をぼーっと眺めながら、ただただ二人で喋っている。喋っている内容も、中身があるわけではない。その場で思いついたような、本当にただの雑談を、ひたすら繰り広げているだけ。

そんな映画が物凄く面白かった。

そもそも僕は、何かするだけの物語、あるいは何も起こらない物語、というのが好きだ。もちろんそういう物語にもつまらないものはある。ただ、中にはとても面白いものもある。そして、同じことをしているだけ、あるいは何も起こらないのにこんなに面白いのか!という衝撃が加わる分、より面白く感じられるのだ。

「セトウツミ」は、喋っているだけだし、何も起こらない。二人の空気感をただ感じるだけの物語だ。それが、とてもいい。そこにある何かを描く、というのではなく、ドーナツの穴のように、そこにない何かに意味を持たせるような物語で、物語全体の雰囲気がとても好きだと思った。

二人の会話を扇動するのは主にセトの方だ。セトがひたすら、くだらないことを言い続ける。ウツミは、そんなセトの話に何かを返す。その返しに、セトがまた反応する。ただそれだけなのだが、そのやり取りの妙が見事だと思う。

この演技は難しかっただろうなぁ、と勝手に思う。
演技について詳しくはないが、この映画では体の動きはほとんどない。セトの方は表情や感情などが顕わになることもあるが、ウツミにはそれもほとんどない。本当に、会話だけで物語を成立させなければならないのだ。
どんな役者もそうしているだろうが、この映画では特に、相手のセリフを聞いたからこそ自分がこれから言うセリフが思いついた、という風に思わせなければならない。そうでなければ、二人の関係性がリアルに見えないのだ。セリフと、やり取りによって生まれる関係性こそがこの映画の核となるのだから、そこは徹底的に追求しなければならないし、少しも疎かに出来ない。そして主演の二人は、その高いハードルをきちんと乗り越えて、本当にただ思いつきで喋っているかのような雰囲気を見事に醸し出しているように感じられた。役者の高い演技力が、この作品を根底から支えているのだ、と感じた。

物語について触れると、この映画は、物語の隙間だけで出来ている、と言えるかもしれない。
普通物語というのは、スタートとゴールが直線で結ばれたようなものを指す。スタートがなかったり、あるいはゴールがなかったり、あるいは直線ではなく曲線だったりと様々なバリエーションはあるが、物語というのはそういう、始まりと終わりが何かで結ばれているようなものと考えるのが一般的だろう。

しかしこの映画には、始まりも終わりもないし、だからこそ始まりと終わりを繋ぐ何かも存在しない。
じゃあこの物語は何なのかと言うと、物語からあぶれたもので出来ているのだと思う。

スタートとゴールを結ぶ、と先ほど書いたが、その結ぶための線は点線のイメージだ。主人公やその周囲の人の人生すべてを物語で描くわけではない。場面場面を切り取って描き出していく。だから始まりと終わりを繋ぐものは、それが直線であれ曲線であれ点線になる。

そして「セトウツミ」は、その点線の隙間だけで構築されている、と思うのだ。
どんな物語においても、それぞれの場面や描写には、全体における役割があると思う。この場面は主人公とライバルの微妙な関係性を映し出すところ、この描写は主人公と家族との関わりを切り取るところなど、どんな些細な部分にも著者や監督の意図する役割が与えられていると思う。

物語の主人公にだって、ただ何も考えずにぼーっとしている瞬間とか、時間を潰すために本を読んでいるみたいな時間はあるはずだ。しかしそれらは、物語全体の中で必要な役割がないと判断されれば描かれることはない。物語の登場人物は、必要な、意味のある時間しか映し出されない。

しかし「セトウツミ」は、そういう普通の物語が切り捨てる部分を物語のメインに持ってきた。そこが、とても斬新だ。川辺でダベっている場面は、なんの意味も持たない。何も始まらないし、何も終わらせない。

しかし、だからこそ僕らはそれに共感するのだと思う。

僕らは、自分が物語の主人公になれないことを知っている。いや、主人公でなくてもいい。自分が何か物語の中にいるような実感を得られる機会というのは、そう多くはない。多くの人間は、何か起こるわけではない、起こったとしても誰もが経験していて物語として取り上げられることのない日常の中で生を全うしている。そういう僕らにとって、この「セトウツミ」は、自分のことのように感じられるのではないか。別に川辺でダベった経験がなくてもいい。そうではなくて、物語の点線に絡むことが出来ない存在としての共感、みたいなものを誰もが感じ取れるのではないかと思っている。

スタートもゴールもない、あるとすればそれは生と死だけ、という日常の中にも、誰がどう切り取るかで物語が生まれうるのだ、ということをこの映画は示しているし、であればそれを切り取りのは自分自身でもいいはずだ、という風に捉えることも出来るだろう。物語、というものの可能性を感じさせる映画だった。

さて、この映画の主演の一人は菅田将暉だ。
僕はどこかで、菅田将暉のことを書きたいと思っていた。今回がちょうどいい機会な気がするので、菅田将暉という俳優についてあれこれ書いてみたいと思う。

菅田将暉という俳優には、いつも凄さを感じる。

僕は、映画を頻繁に見るようになったのは割と最近のことだ。ドラマも、ここ10年ぐらいはほとんど見ていない。だから、どんな俳優がいて、どんな作品にどういう役で出ていて、どの俳優がどんな評価をされているのか、ということについてほとんど知識がない。だから、菅田将暉という俳優のことを、俳優全体という大きな枠組みの中で捉えられているわけではない。このエクスキューズはしておかなくてはならないだろう。

その上で僕は、いつも菅田将暉という俳優に凄さを感じてしまう。

彼の凄さの本質を、僕は「色のなさ」だと感じる。あるいはそれは「形のなさ」と言ってもいい。
菅田将暉は、「俳優・菅田将暉」という形で捉えることが難しい。常に、その作品の中の役の人物として認識してしまう。

ここでこの名前を出すのは喩えとして適切ではないかもしれないが、例えば木村拓哉は、どんな作品に出ていてもキムタクだ、と認識されてしまう。木村拓哉は極端な例だとしても、他の俳優も似たような部分はあるだろう。何らかの印象的な役や、その俳優がそもそも持つ雰囲気、また俳優としてではない姿などによって、僕らはそれぞれの俳優を何らかの色や形をつけて見ている。「暗い役をやらせたら抜群だな」「あの時のあの役のイメージがどうしても消えない」「バラエティに出てる時のイメージがダブる」などなど、作品の中にいる俳優を、その作品の外側のイメージに引きつけて見る、ということを僕らは無意識のようにやってしまう。

しかし、菅田将暉という俳優に対して、僕はそれを一切感じない。僕には、「俳優・菅田将暉」というものに対する色や形はまったくなく、どんな作品に出ていても常にその作品の中の登場人物として認識してしまう。

これは凄いことではないか、といつも思うのだ。

これはただ、色んな役柄を経験してきた、というだけでは生まれない雰囲気だろうと思う。また、役に憑依すると言われるタイプの俳優がいるが、ただそれだけで生まれる雰囲気でもない。僕の感覚では、菅田将暉を見る時に、「色んな役柄を経験してるしな」とか「憑依するタイプの俳優だしな」ということすら浮かばないのだ。そういう、「俳優・菅田将暉」として捉える見方は一切消えて、純粋に作品の中の人物として見てしまう。

名脇役と呼ばれる俳優の中には、そういうタイプの人もいるだろう。どんな作品の中にあっても、個性を出しすぎずその作品に馴染んでいくようなタイプの俳優は。しかし菅田将暉は、主役や主役級の役柄も経験している。名脇役と呼ばれる俳優とは違って、作品ごとに自分なりの存在感を出すことが求められるはずだ。それでも、その存在感は作品内だけに留まり、作品の外側である「俳優・菅田将暉」というものへのイメージには寄与しない。少なくとも僕にはそう感じられる。

そこに僕は、菅田将暉という俳優の凄さを感じるのだ。

以前、たまたま見ていた「情熱大陸」で、菅田将暉が取り上げられている回があった。その時の菅田将暉の扱われ方は確か、「個性がない菅田将暉に個性を与えよう」というものだったと思う。作品ではあれだけ強い個性と存在感を発揮しながら、個人としての菅田将暉には特筆すべきものが何もないという。事前のインタビューでも、撮影すべきものが何も出てこないために、菅田将暉が個性を身につけるために色んなことにチャレンジする、みたいな密着取材をしていた記憶がある。

単純にそのことを、僕が菅田将暉に感じる凄みと結びつけるのは短絡的だろうが、しかし、個人としての菅田将暉に何もないからこそ、つまり、個人としての菅田将暉はただの空っぽの器であるが故に、そこにどんなものでも入れることが出来るということなのではないか、という解釈をすることは出来る。菅田将暉は作品毎にまるで別人に思えるような演技をするが、それは、器でしかない個人に役という中身をそっくりそのまま注ぎ込んでいるからなのかもしれない。個人としての個性がない、ということは、僕のイメージでは俳優としてはマイナスに働くと思っていたが、菅田将暉はそれをプラスに変えることに成功した稀有な俳優なのかもしれない、と思う。

そんな菅田将暉の凄みは、この映画の中でも発揮されている。やはり僕には、セトは菅田将暉に見えないのである。

「セトウツミ」を観に行ってきました



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