黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

ランボー怒りの改新(前野ひろみち)

京都というのは僕にとって魔窟である。
そのイメージを作ったのは、森見登美彦と万城目学である。

なんだかよく分からないが、魑魅魍魎や魑魅魍魎ではないものが跋扈し、ろくでなしたちが饗宴を繰り広げ、神に愛されるがごとく物語が展開する、それが京都である。そういうイメージを、森見登美彦と万城目学が作り上げたのである。

そして、奈良もまた魔窟である。
そのイメージを作り上げたのは、本書の著者、前野ひろみちである。

奈良では、ランボーが大暴れしたり、鹿や猿が人間だったり、山奥に美少女が住んでいたりする。事実である。何故なら、前野ひろみちがそう書いているからである。奈良は魔窟である。そのことに間違いはない。

内容に入ろうと思います。
本書は、4編の短編が収録された短編集です。

「佐伯さんと男子たち1993」
入江君と大井戸君は、そろってアホになってしまった。
揃いも揃って、佐伯さんのことを好きになってしまったのだ。
放課後の「マクドナルド会議」は、恋バナをする場に変わってしまった。嘆かわしい。アホのように告白しては玉砕する友人二人を見ながら、僕はあることに気づいてしまった。
「佐伯さんの姿が見えないという状況」があるということに。今まで気づくことのなかったその状況に気づいた僕は、僕もアホになってしまったことに気がついた。
そして彼らは、白い鹿を見る。

「ランボー怒りの改新」
推古天皇の御代、トンキン湾事件をきっかけにして蘇我馬子が火蓋を切ったベトナム戦争は泥沼化していた。ときの大王は蘇我蝦夷に、空爆の一時停止と北ベトナムとの和平交渉を命じたが、蘇我蝦夷の息子である入鹿が独断で北ベトナムへの空爆を再開、和平交渉を頓挫させてしまう。政治の実権を掌握してきた蘇我氏は、大王の権威すら無視してベトナム戦争を継続するつもりでいた。
ランボーはその状況に憤っていた。ベトナム戦争の戦地から奇跡のように生き延びたこの傭兵は、自分がどんな使命を帯びているのかも分からないまま、飛鳥の地で目の前に現れる敵を殲滅し続けた。
一方で、中大兄皇子と中臣鎌足は、蘇我入鹿暗殺を目論んで入念な準備を重ねるが…。

「ナラビアン・ナイト 奈良漬け商人と鬼との物語」
80歳を超えた老人の元に、一人の乙女がやってきた。老人の息子が見つけてきた才女である。イスラーム哲学を学ぶ大学院生であるが、「千夜一夜物語」をすべて諳んじることが出来、さらにそれらを即興であらゆる形に変形して語ることが出来るという特技を持っていた。
老人の前で彼女が話したのは、奈良漬け屋の主人を襲った鬼と、その主人を結果的に救うことになった三人の老人(と動物)の物語である。

「満月と近鉄」
畳屋の長男に生まれた主人公は、父から畳屋を継ぐことが当然だと思われていた。しかし彼には家業に対する思い入れは一切存在しなかった。クラスメートである長脛君が読書家であったことから彼も本を読み始め、そして書き始めた。長脛君にその小説を褒められたことで調子にのった彼は、大学受験に失敗した後、畳屋は継がない、と父親に宣言し、紆余曲折あって生駒山の麓で一人暮らしをすることになった。
部屋に籠もって小説を書き続けるがうまくいかない日々。運動も兼ねて、いつものように生駒山の中腹にある宝山寺に足を運んだ主人公にカラスが襲いかかった。その時、彼を助けてくれた女性がいた。
彼は彼女に一目惚れし、少しずつ話しをするようになったのだが…。

というような話です。

とんでもない作家が現れたものだな、と感じた。

正直に言うと、作品全体として面白いのかどうか、うまく判断できない。
しかし、一つだけ言えることは、この作品には物凄く惹きこまれるということだ。引き込まれるのに面白いのかどうかうまく判断できないというのもおかしな話だが、僕の感覚としてはそれで間違ってない。不思議な小説である。

全編、奈良を舞台にしているのだが、奈良の特性、それはすなわち鹿ということだが、この鹿をとても効果的に登場させていると思う。鹿が重要な要素として登場する作品もあれば、ほとんど登場しない作品もあるが、奈良=鹿というイメージの喚起に留まらず、鹿という、奈良県民以外にはそこまで馴染みがあるわけではないだろう動物の不可思議さと神秘さみたいなものが、作品に異様な雰囲気を与えている。こういっちゃあなんだが、鹿が登場すれば丸く収まる、みたいな、鹿を水戸黄門の印籠のように登場させているというか、いやそこまで露骨ではないのだけど、あぁなんと言ったらいいのかよくわからない。

作品のタイプも、まあ全然違う。

本書の中で最もインパクトが強い作品は、表題作でもある「ランボー怒りの改新」だろう。これは、着想が天才的だ。正直僕は、歴史について無知なので、ストーリーについてはイマイチ飲み込めなかった。ベトナム戦争から帰還したランボーが、大化の改新の現場に乱入することになるという物語で、まったく意味不明なのだけど、その異様な作風から目が離せなくなる。明らかにおかしな設定だし、というかおかしくない部分など一箇所もないのだけど、物語としては成立してしまっている。水と油は混じり合わないというが、適切なやり方をすれば水と油であろうがきちんと混じり合うのだろうということを証明して見せた格好だ。面白い作品なのかどうかうまく判断できないが、とにかくとんでもなく凄い作品であることは分かる。

「佐伯さんと男子たち1993」も不思議な作品だ。青春小説と呼べばいいのだろうが、なんか違う。他の作品と比べてアクロバティックさはないのだけど、鹿を多用することで独特の雰囲気を生み出している。中学生三人が一人の少女を好きになって玉砕する、というだけの話なのだが、何故か不思議な余韻の残る作品で、ただの青春小説ではない。変な小説である。

「ナラビアン・ナイト 奈良漬け商人と鬼との物語」がこの中で一番好きな作品かもしれない。鬼が出てきたり、元人間の鹿や猿が出て来るというわけわからん小説なのだけど、いくつかの物語がカチッとハマっていく感覚はとても面白いし、まったくあり得ない話なのにちょっとしんみりさせるような内容で、とても良い。いや、もしかしたらあり得ない話でもないのかもしれない、と思わせるところが巧いんだよなぁ。

「満月と近鉄」は、著者自身を主人公にした物語だ。恐らくウソなんだと思うんだが、読んでいると本当であるかのように思えてきてしまう。どこまで本当なんだろう?一切合切ウソなんだろうか?まあこういうことを考えている時点で著者の術中にハマっていると判断すべきだろう。

仁木英之氏による解説も面白い。こちらも、どこまで本当なのかまるで分からない。でも、前野ひろみちならあり得るのではないか、と思わされるリアリティに満ちあふれているとも言える。作家の存在そのものを物語にしているという意味でも興味深い。

つくづく、不思議な作品・作家である。

前野ひろみち「ランボー怒りの改新」

関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/3191-b2a1e753

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
7位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
5位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)