黒夜行

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首挽村の殺人(大村友貴美)

内容に入ろうと思います。
岩手県にある鷲尻村は、長い冬を迎えようとしていた。大量に雪が降り、生活に様々な支障を来たす、というだけではない。鷲尻村は、医師がいない、という意味でも冬のように厳しい時期を迎えようとしていた。
鷲尻村には少し前まで、杉聡一郎という医師がいた。僻地医療に自ら飛び込んできた男で、鷲尻村に定住しながら、村人の誰とも仲良くなり、村の誰からも慕われた素晴らしい人物だった。
しかし杉は、ある日命を落とした。川の上流で倒れているのが発見され、熊に襲われて崖から落ちたのではないか、ということになった。しかし、事故であるという説明を疑う者もいる。杉先生の死は様々な謎や憶測を呼んだが、しかし何よりも、鷲尻村に医師がいなくなる、ということが喫緊の大問題だった。何かあっても、雪の時期であれば大きな病院まで2時間半も掛かる。救急車を待っている間に死亡することもあった。村長は、国境なき医師団にまで出向いて医師の派遣を要請したが、まったくダメだった。
そんな鷲尻村に、4ヶ月という期限付きでやってきたのが、杉の同僚だった滝本志門だ。滝本は杉ほど胸襟を開くタイプではなかったが、村に医師がやってくる、というだけで村人たちの喜びはひとしおだった。滝本は、杉のために改築した一軒家に住むことを拒否し、桜田という、マタギのシカリ(頭目)の家に下宿することになった。とはいえ滝本は、殊更村人と仲良くしようとするわけでもなかった。
滝本の赴任と時を同じくして、鷲尻村では殺人事件が相次ぐことになった。
霊安寺の住職である保呂岩謙称や村議会議長である沢下実などの死体が相次いで発見される。しかも、死体はどれも、異様な状態で発見されるのだ。さらに、「赤熊」と呼ばれる、200キロとも300キロとも推測される超巨大熊が鷲尻村を襲い始め、村は連続殺人事件と熊の襲撃にさらされることになる。
かつて鷲尻村は、「首挽村」として忌み嫌われた。戦前までは、この村から嫁を取るな、と言われたほどだ。岩手県と秋田県の境に位置し、四国と同じくらいの広さと言われる岩手県の中で最も小さな自治体。稲作は不向きで、昔は狩りで自活するしかなかった土地柄故に、飢饉による飢餓に見舞われることが度々あり、村は「おつかいさま」や「子捨て橋」など様々なやり方によって村人を口減らししてきた歴史がある。そんな後ろ暗い歴史を持つ村で起こった連続殺人事件と熊による襲撃。その背景にあるものとは…。
というような話です。

物語の中で掛け合わされていく要素が面白い作品だと思います。
本書の中で主に扱われていくのは、「現代の過疎地の問題」と「古い因習」です。前者でいえば、少子高齢化・医師の偏在・ゴミの不法投棄などなどであり、後者は、後ろ暗い村の歴史を色濃く反映した行事や言い伝えなどです。これら、様々な情報によって過剰に装飾された村で殺人事件が起こる、という舞台設定がなかなかうまくハマっている。

「現代の過疎地の問題」だけであれば、それを扱った作品というのは結構あるでしょうし、もちろん「古い因習」をメインに扱った作品もあるでしょう。でも、それら大きく分けて二つの要素を、「連続殺人事件」という枠組みの中に組み込んでいくことで、物語を動かしていくという点がなかなか面白い。過剰に装飾された村(もちろんこういう村は、現実的にも実在するのだろうけど)の中で、さらに過剰に装飾された死体が発見される。それでいて物語がマンガ的になるわけでもなく、重厚な雰囲気を醸し出している。ありそうでない、なかなか面白い組合せなのかもしれない、と思います。

またそこにさらに「余所者」と「熊」という要素まで組み込んでいく。杉や滝本といった余所者が物語の中心にいるし、さらに熊が混沌とした状況をさらに引っ掻き回す。過剰にさらに過剰を組み上げていく物語であって、その分分量もなかなかのものだが、物語の中で常に何かが起こっているので、飽きさせないで物語を読ませる力はある。

まあ手放しで良いと言える作品でもない。まず、先程から挙げている「過剰」がマイナスにもなる。様々な要素が過剰につぎ込まれているが故に、どうしても説明が多くなる。それらの説明を常に頭の中に取り込んで、鷲尻村という全体を把握し、かつ物語を追うというのは結構大変ではある。

また、ミステリでありながら、最後の最後になるまで「謎の中心」がどこにあるのかがイマイチよく分からない。もちろん冒頭辺りから、この辺のことがこの連続殺人事件の肝になるのだろう、と感じられる部分もあるのだけど、何せ色んな情報が組み込まれ、さらに人がバンバン死んでいき、同一犯による連続殺人事件なのかどうかさえよく分からない、という状況が続いていくので、どの辺りに注目して物語を追ったらいいのかイマイチよく分からない。登その状態で500ページの物語を読むのは、やはりなかなかに根気がいる、という感じがしました。

現代を舞台にして、横溝正史の世界を蘇らせた、という評価をされる作家らしいが、僕は横溝正史の作品を読んだことがないので比較が出来ない。横溝正史の世界観が好きな人にはとても良い作品かもしれない。

個人的には、「おつかいさま」や「子捨て橋」などの、忌まわしい歴史を背景に持つ伝統行事の話や伝承などが非常に面白いと思った。実際に存在する話なのか、あるいは著者の創作なのかは不明だけど、非常にありえそうな、リアルな話だと感じた。自分の知らない時代にこんなことが実際にあったのか、という驚きがありました。作中に、『生きるために金が必要、食べるためには金がいるという、この村の露骨なまでの現実を、滝本は見せつけられた気がした』という一文がある。過去の凄惨な歴史を知りながら、そして衰退していくばかりの村の現状も知りながら、それでも自分の生まれた土地を離れようとしない人々のあり方は僕にはイマイチ理解できないものなのだけど、禁忌を共有し、良いことも悪いこともすべて共同で請け負うことが当たり前である土地柄の生きる人々の生活も、興味深いと思いながら読んでいました。

大村友貴美「首挽村の殺人」

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2013年の個人的ベストです。

小説

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3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
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新書

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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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1位 千早茜「からまる
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)