黒夜行

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星読島に星は流れた(久住四季)

内容に入ろうと思います。
アメリカ合衆国、マサチューセッツ州にあるレイラタウン。東海岸の大都市であるボストンから西に40マイルほど離れた小さな町。ここに、訪問医を生業としている加藤盤は生活している。5年前に妻と娘を失った。その傷も癒えつつある盤だが、何事にもどうにも力が入らないような感覚はずっと消えないままだ。
ある日、そんな盤の元に一通のメッセージが届く。
『セントグレース島へのご招待について』
一瞬理解できなかった盤だが、すぐになんのことか分かった。<スターゲイザーズ・フォーラム>という、星や宇宙が好きな人間が集まるサイトがあり、その主宰者であり天文学者でもあるサラ・ディライト・ローウェルからの招待状なのである。
セントグレース島は、「星読島」とも呼ばれている。天体観測所を有する島なのだが、なんとその島には数年に一度隕石が落ちてくるという噂がある。毎年隕石落下の時期になると参加者を募り、隕石が落下するのを待つ集いが開かれる。そして見事隕石が落ちてきた時には、その隕石を参加者の誰かに無償で提供する、というのだ。
そんな島への正体を、盤は引き当てたのだ。
盤自身は、さほど星が好きというわけではない。しかし、亡くなった妻と娘が天文ファンだったこと、もうすぐ来るという流星群を見ようと約束し、その約束を果たす前に二人が命を落としてしまったことなどから、応募してみることになったのだ。
セントグレース島には、様々な人間が集まった。
NASAの職員であるエリス・バーナード。
大学生だという美宙・シュライナー。
メテオライトハンター(隕石の回収業)であるコール・マッカーシー。
アクティブなニートであるデイヴィッド・グロウ。
などなど、様々な立場の人間がこの島に集まってくる。隕石そのものが目的だったり、数年に一度隕石が落ちてくるという謎を解明すべくやってくる者もいる。
そして彼らはその島で、隕石と死体を見つけることになる…。
というような話です。

なかなかよく出来た物語だなと感じました。

まず、この物語の根幹を成す「隕石」の存在を、物語の中で実に有効に使っているという点がいい。
この部分は、作品の核に触れる箇所なのであまり詳しくは書けないけど、最終的に謎を解く限りになるのも隕石だし、「数年に一度隕石が落ちてくる島」という設定をとてもうまく使って物語を収束に向かわせるんだな、と感じました。

この物語の中で隕石というのは、小道具的な扱いではなく、非常に重要な要素です。本格ミステリ的な作品が数多ある中で、僕は舞台設定とトリックがうまく結びついている作品は結構好きです。この作品は、この島でしか成立しない、みたいなトリックを使っているわけではないのだけど、不可思議な性質を持つ島の存在が物語全体に対して大きな役割を果たしているという点が僕は好きです。

また、「ベタベタな本格ミステリではない」という点もいいなと思います。
本格ミステリには、「探偵」というキャラクターが出てくるものと、仕方なく「探偵役」になってしまう登場人物が存在するものとあります。本書は後者です。「探偵」というキャラクターは存在せず、主人公が期せずして「探偵役」になってしまう物語です。

そしてその「探偵役」である主人公も、殊更に「探偵役」であろうとはしません。ごく一般の人が唐突に「探偵役」という役割に邁進し始めるような物語にリアリティを感じることは難しいのだけど、本書はそうではなく、あくまでも主人公は参加者の一人に過ぎなくて、話の流れの中でちょっとしたことにたまたま気づいてしまったから、結果として「探偵役」を務めることになった、という印象です。本格ミステリ的なテイストのある作品で、「探偵役」の存在が不自然ではない作品というのはそんなに多くないように思うので、その点もいいなと思いました。

キャラクターもなかなか魅力的です。
セントグレース島に天体観測所を持つサラ博士は、こんな孤島に住んでいるぐらいだから変わっているとして(天体観測所は父の代から存在するものだけど)、アクティブなニートやスミソニアン博物館の職員など、同じ場に集うことがなさそうな面々が、隕石という共通の目的を持って集まっている。隕石と死体の発見は物語のちょうど真ん中ぐらいで、それまでは特に出来事らしい出来事は起こらない。それでも、集まった面々の会話や行動がなかなか興味深いので、何も起こらないのに読まされてしまう。キャラクターだけの問題ではないのだろうけど、キャラクターをベースにした話の転がし方が上手いんだろうなぁ、と感じました。ライトノベル出身という意味でキャラクターを書くことには長けているのかもしれないが、ライトノベル的なキャラクター造形というわけでは全然ないので、人間の造形という意味で力がある作家なのかもしれない、と思いました。

物語全体の関心は、「何故被害者は殺されたのか」という動機に集まってくる。殺害方法やだれが殺したのかみたいな部分には大きな作り込みはないのだけど、何故殺したのか、という部分を説得力のあるものにするために物語の細部が構築されていく。数年に一度隕石が落ちる島、という謎めいた設定と、そこに集う人々の動機がうまく絡まりあって、不可思議な殺人事件の背景が見通せるようになっていく過程はなかなか面白い。

本書は、優等生的な作品だと思う。キャラクター、殺人の動機、舞台設定など、どれかがずば抜けて面白い、みたいなことはなくて、作品を構成するあらゆる要素が平均点以上でとても良くまとまっている。ここが痺れる!みたいな部分がない代わりに、誰が読んでも一定以上の読後感を得られる、そんな作品ではないかなと思います。普段本格ミステリというジャンルを読まない人にも受け入れられる作品です。

久住四季「星読島に星は流れた」

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2013年の個人的ベストです。

小説

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3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
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5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
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8位 更科功「化石の分子生物学
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10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
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1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)