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奪われざるもの SONY「リストラ部屋」で見た夢(清武英利)



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大分昔になるが、「ソニー自叙伝」という本を読んだことがある。SONY創業50周年を記念してソニー広報室が「GENRYU源流」という本がある。関係者だけに配られた非売品だ。それを底本として編集されたのが「ソニー自叙伝」だ。

読んだのは大分昔なので内容はほとんど覚えていないが、革新的な製品を生み出すのに相応しい、革新的な会社の姿が描かれていた、という記憶は鮮明だ。家電製品の歴史を作り、誰も見たことがないもの、誰にも実現できなかったことを次々と成し遂げてきた。ソニーの設立趣意書には、『真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設』と書かれており、共に技術者だった井深大と盛田昭夫の手によって、ソニーという圧倒的なブランドが作り上げられていった。

しかし今、ソニーは、往時の見る影もない。革新的な製品を生み出せていない。社内にアイデアはあってもトップが決断出来ない。創業者たちが求めていた「生意気な奴」や「出る杭」が社内で排除されるようになっていく。

そして、それが原因なのか、あるいは結果なのかはまだ分からないが、ソニーでは17年間で計8万人という、とてつもないリストラが繰り返されてきた。

『もう一人の創業者である盛田昭夫氏は「ソニーはレイオフをしない」と国内外で宣言をし、著書にも記した』

『社員の子供が小学校に入る時に、ランドセルの一つも贈れないような会社でどうするんだ!』

『「会社で事業をやるからには、それに関係するすべての人が幸せでなければいけない。それが自分の経営理念だ』と言っていましたよ』

創業者に連なるトップがいた頃とはかけ離れたソニーになってしまった今、ソニーには、「能力開発室」「セカンドキャリア支援室」「キャリアデザイン室」「キャリア開発室」など、様々な呼ばれ方をしてきた場所がある。社員たちはそこを、「追い出し部屋」や「ガス室」と呼んだ。

この物語は、そんな「追い出し部屋」の実態をベースに、ソニーの凋落を描き出す作品だ。

『ソニーのキャリア開発室の源流をたどると、中高年社員対策として1985年にスタートした「能力開発センター」に行き着く。当時の言葉で言えば、「窓際族」対策である。職場で持て余し気味の中高年―人事担当者は「職場にフィットしない人々」と表現するが―そんな社員を集め、雑用を与えながら転職支援を行っていた』

ソニーは家電業界で一人勝ちの様相を呈し、毎年1000人規模の採用を行っていた時代があった。そうして、社員15万人という巨大企業に成長したのだ。しかし、不景気やモノが売れない時代などを背景に、創業者が絶対しないと言ってきたリストラに手をつけるようになる。

『それでも簡単に解雇するわけにいかない。整理解雇するには、人員削減の必要性と合理性が存在しなくてはならないのだ。それに、解雇を避けるための努力義務が尽くされていて、なおかつ解雇手続きも適正であることが求められる。その上に、ソニーには「We are family」の言葉に象徴される家族主義と、創業者たちが唱えた「リストラ不要論」があったからだ』

時代の変化などによって、たとえソニーであってもある程度のリストラは仕方ないかもしれないと語る者もいる。しかしそういう人であっても、ソニーのリストラには異議を唱える。

『問題なのは、このリストラの間も有効な成長戦略は立てられなかったことだ』

『管理職の役職定年制度は、元副社長や役員たちでさえ、「一番やってはならなかった」と口を揃えるリストラ策である』

『企業である以上、リストラが必要な時はあるでしょうよ。しかし、2回、3回、4回とやるなんて何を考えているんだ。それはリストラクチャリング(再構築)とは言わないんだ。ただの首切りですよ』

何故こうなってしまったのか。やはりそれは、マネジメント、そしてトップの責任だ。

『出井、ストリンガー、そして現在のトップである平井一夫の系譜で語られる、「ソニー構造改革」。その特徴は、短期的な決算対策を重視し、膨大な資産と人材、そしてリストラ資金を失ったことだ』

最後の技術畑出身の社長と言える大賀典雄は、「(社長は)エンジニアでなければ」という盛田の意志を知っていたにも関わらず、次期社長に技術畑出身ではない出井伸之を選んだ。そのことに対し大賀は後に、こんな風に語っていたという。

『大賀さんは数人の社長候補リストの中から、燦々と輝く人物と見込んで、出井さんを選んだのですが、後々、「あの指名は僕の大失敗だった」と悔やみ、泣かれていました』

ソニーの「井深会館」と呼ばれる建物は、天才技術者でもあった井深大を記念し、元役員のサロンとして設けられた。訪問者はロビーからサロンに導かれるが、そこに27人の、「ソニーの功労者」と認められたメンバーの写真が飾られている。
そこに、出井やストリンガーの写真はない。

『井深会館の(真の)メンバーは、SONYの名を高らしめた人だけに限定されているからね。額に飾られるのは本当の功労者だけなんだ。だから、出井やハワードの写真はない』

ソニーOBの一人がそう答えている。

そんな井深やストリンガーらによって、ソニーのリストラ体制は生み出されていくのだ。

『そこに送り込まれた社員は自らのコネで社内の受け入れ先を探すか、早期退職して転職先をみつけるか、あるいは何と言われても居座り続けるかの3つの道しかない』

『だが、キャリアデザインと呼ぼうが、人材開発と言おうが、実際のところは社内失業に追い込まれた社員が集められるところだ。人事部員自身がそれを認めている』

『大半が終日、語学を勉強したり、ネットサーフィンをしたり、新聞や雑誌を読んだりしていた。』

多くの社員が送り込まれることになる「リストラ部屋」は、社員を疲弊させ、弱らせ、退職に追い込む。そして周囲からは、「リストラ部屋に行ったということは無能なんだ」「何もしないで給料をもらっている正社員がいるらしい」という風に見られることになる。

では、「リストラ部屋」にはどんな人間が送り込まれたのか。
もちろん様々な人間がいるだろうが、本書で取り上げられているのは、まさにソニーらしさを体現しているような人たちだ。

『ソニーは奇人変人を抱えることのできた、自信満々の企業だった』

『ソニーにはアウトローをかくまうという成功ストーリーがありました。ワンマン社長だった大賀典雄が傍若無人と言われた久夛良木健さん(のちに副社長)を囲って、プレイステーションをやらせて成功に導いています。あんな風に、組織の中で「なんだこいつ」という人にチャンスを与え続けてきた。それで新たなビジネスを創ってきた面白さがあるから、出井さんも近藤さんを支えていた』

昔読んだ「ソニー自叙伝」の中にも、数々の変人が登場したような記憶がある。普通の会社では存在が許されないだろうが、ソニーだからこそ抱えることが出来る稀有な人材。そういう人間が、社会を変えるイノベーションを生み出してきた。

しかし、そういう独創的な技術者がどんどんと「リストラ部屋」へと送られる。奇人変人は、当然だが、上司からすれば扱いづらい存在だ。かつては、そんな社員を扱えるかどうかが有能な管理職の証だった。

『エンジニアはこっそりと研究したり、施策したりしている「ブツ」を隠し持っていた。現場に来る井深か盛田に見せようと狙っている。上司たちも鷹揚で、そのブツが面白いものだったりすると、どこからか開発費を調達してきたり、あらかじめ隠し持っていた予算を与えたりした。それが有能な管理職の証だった』

しかし、かつては求められた「生意気な奴」「出る杭」が、鬱陶しい社員としてただ疎まれる存在になっていく。ソニーは、そういう人材を抱えることで成長してきた企業であるはずなのに、その資産を自ら手放そうと躍起になっている。

『後述するが、リストラ部屋に在籍した社員はのべ数千人に上る。それだけの人々が無能ぞろいだったわけがない。部下の個性と能力を知り、その業を生かすのが管理職や会社の仕事だ。リストラ部屋行きを通告することで、その務め自体を放棄しているのだ』

ソニーは、このリストラで、評価の高い部員たちが進んで辞めようとしたことが大きな誤算だ、としているようだが、評価が高い部員ほど辞めるのは当然だろう。かつてやれていたことが、まったく出来ない職場になってしまったのだから。『ソニーの自由な気風は、今や出向先だけにひっそりと息づいているのだ』と著者は書いている。

『みんなソニーが好きで好きで、辞めても好きな人ばっかりですよ』

そんな彼らが、止むなくソニーを去る。『チャレンジさせてくれない職場だと、苦しくなかった仕事が苦しくなってくるんだ』と言って、ソニーを諦める。技術畑の人間がトップだったら、このリストラによって何が失われているのか、その本質がきちんと掴めたかもしれない。しかし、出井から始まる技術畑出身ではない社長たちには、きっとソニーが失った損失の本質は理解できていないのだろう。それは、『特許の価値がなくなったというならともかく、会社は、年間わずか1万6700円を削減するために、品田の特許を放棄するというのである。品田の特許は100件以上もあったから、こうした「特許放棄」のメールがその後も彼のもとに次々と届いた』という部分からも理解できる。『特許は技術者の命だぞ!とうとう本社はそれもわからなくなったのか』と品田は驚く。ソニーは、技術者集団だったかつての姿とはまったく違ってしまったと言えるだろう。

本書には、様々な形で「リストラ部屋」と関わった人物が多数登場する。リストラ部屋から生還した者。リストラ部屋に自ら志願して行った者。人事部員であり、多くにリストラを勧告しながら、自らは早期退職の恩恵を受けずに会社を去った者。反旗を翻し研究所に立て籠もった者。部下にリストラを勧告した9ヶ月後に自らもリストラされた者。リストラを実行しながら、「こんなことをして罰あたらねえのか」と言って辞めた役員。定年までリストラ部屋に居座り続けた者。どの人にもソニーの中での歴史があり、家族や仲間があり、ソニーを愛する気持ちがある。著者はそれらを丁寧に掬い上げる。ソニーを愛するが故に苦言を呈し、ソニーの復活を信じて厳しいことを言う人がいる。ソニーというブランドを蹂躙し、赤字を垂れ流しながら高額の報酬をもらっているトップたちには絶対に理解できない痛みを背負った者たちが、実名でその体験を語る。世界的企業であり、一時は家電業界を制覇したと言ってもいいほど隆盛した企業が、たった10数年で凋落していく。その悪夢のような光景は、日本中、いや世界中どんな企業でも起こりうるものだろう。いつか自分の身にも降りかかるかもしれない。そう思いながら読むべき一冊だと思う。

清武英利「奪われざるもの SONY「リストラ部屋」で見た夢」

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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

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6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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