黒夜行

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君とパレード/パラダイス・ビュー(小嶋ララ子)

『でも今は騙してるみたいで辛い』

僕は女性と恋愛すると、途中で必ずこの感覚に襲われる。
この人のことを、騙してる気がするな、と。
それが辛くて、恋愛を諦めてしまう。

相手のことが好きだな、という気持ちは、自分の中にはちゃんと残っている。
少なくとも、一緒にいたいな、とは思っている。
それは、今まで付き合った人とは全員、別れた後も会ったり出かけたりしていることからも証明できる。
別に、嫌いになっているわけではない。
けど、相手を騙しているような感覚に襲われる。

僕が真面目過ぎるのか、考えすぎるのか、たぶん両方なんだろうけど、相手と同じぐらい自分も何かを返さないといけない、と考えてしまうのだろうと思う。
僕は、自分から告白して付き合ったことしかないので、最初のうちは僕の方が相手のことを好きなんだと思う。でも次第に、相手がより僕のことを好きになってくれる。そうなった時、自分が、相手が僕に向けてくれるのと同じだけど何かを返せていないんじゃないか、という気持ちになる。

たぶんそれが、騙しているという感覚に繋がるんだろうなぁ、という気がする。

相手は別に、同じだけの何かが返ってくることを望んでいないかもしれない。それでも、一旦「騙している」という感覚になると、自分の中からそれを消し去ることが出来ない。会っていても喋っていても、「騙している」という感覚がつきまとう。それが、しんどくなっていく。

そうやって僕は、恋愛を終わらせてきた。

自分のこういう感覚のことがよく分かっているから、ある時から僕は、女性との関係を恋愛にしないように意識するようになった。恋愛になっちゃえば、またあの「騙している」という感覚に絡め取られる。それなら別に、わざわざ恋愛にすることもない。今でも僕はそう思っている。

もう一つ、グサッとくる言葉があった。

『いい人なんだろ、あんた。恋人の前でも、きっと他の人の前でも。
でもそれじゃ、一番大切な人、傷つけかねませんよ』

これも、なんだか凄くよく分かる。
僕の場合、特に恋愛になるとそうなんだけど、「いい人でいなきゃいけない」みたいな強迫観念みたいなものがつきまとう。恋愛にならなければあんまりそういう意識にはならないのだけど、恋愛になると、自分のダメな部分を見せてはいけないような気分に襲われる。

これは家族でも同じだ。関係性が近くなればなるほど、自分の悪い部分を見せられなくなっていく。それで、窮屈になっていくというのも、恋愛を長く続けていくことが出来ない要因だ。

こういうことを実感できるようになったのも、僕と恋愛してくれた人がいたからで、こういうことを考えるとき、いつもありがたいなぁ、と思う。これまで付き合った人と、恋愛じゃない関係にしておけば、今でもちゃんと関われたのかな、と後悔することもあるんだけど、でも今までの経験があったから、僕は考え方をシフトすることが出来るようになった。僕の認識では、散々迷惑を掛けたり傷つけたりしたはずなので、申し訳ないなぁ、と思いつつ、感謝の気持ちしかない。

なんていうことを考えさせるほど、秀緒と智沙の恋愛は純粋で美しいのである。

菊地秀緒は大学生で、塾講師の仕事をしている。大学時代の男友達と会った際、今付き合ってる人と言って紹介されたのが、秀緒が担当するクラスにいる赤星智沙だ。彼は一匹狼で無口で無表情。接触がなくて印象も持てないくらいだったのだが、その男友達と連絡が取れなくなったと言ってちょくちょく智沙が相談にやってくるようになり、塾内でも秀緒にだけ智沙は笑顔を見せるようになっていく。
ある日秀緒は、相手にベタ惚れだった智沙が失恋する場面に出くわしてしまい、放心する彼を自宅へと連れ帰った。前から美しい少年だなと思っていた秀緒だったが、智沙の無防備な姿に、ゲイではないのにときめきを感じてしまう。
その後、辛い時期を支えてくれた先生に何か恩返しを、と考えた智沙は、徹夜で勉強し模試で満点を取る。自分のために勉強してくれたのだという事実を知った秀緒は、それでもうタガが外れ、智沙へ自分の気持ちを伝えていた。
遠距離恋愛を挟みながら、なんとか関係を続けていた二人。しかし秀緒も30歳を超え、決断しなければならない年齢に差し掛かってきた。ずっとこのままの関係が続く。そう思っていたのだけど…。
というような話です。

いい作品でした。正確に言うと、「君とパレード」の方はそうでもなかったんだけど、「パラダイス・ビュー」の方は凄く良かったです。

「君とパレード」は、ベタ甘という感じです。秀緒と智沙が出会い、恋に落ち、付き合い、いちゃいちゃしている、という過程が描かれます。遠距離恋愛がちょっと大変そうだったけど、でも特別葛藤もなく、とにかくお互いがお互いのことを大好きで、甘々な関係を築いている、という感じです。

そんな感じだったので、正直僕は、「君とパレード」の方はあんまりという感じでした。僕的には、BLの面白さは葛藤にあると思っているので、「君とパレード」にはその要素がなくてちょっと面白くないな、と。

ただ、「恋とパレード」では、秀緒の真面目さ、智沙の良い子さが前面に描き出されます。そしてそれが、次の「パラダイス・ビュー」で重要になってくるわけです。「恋とパレード」での二人の描写がなければ、「パラダイス・ビュー」での葛藤があまり活きてこない、という意味で、「恋とパレード」も重要な作品なわけです。ただ、それ単体で読んだ場合、僕はあんまり好きじゃない、という話です。

「パラダイス・ビュー」の方は凄く良かったです。

秀緒が抱える葛藤は「家族」です。旧来的な家族のようで、新しい価値観をなかなか受け入れない。だから、自分が男と付き合っているなんてことになったら大変なことになる、ということが充分に分かっている。それもあって、ずっと逃げ回っている。しかし、智沙との関係をきちんとするんであれば、「家族」の存在は避けては通れない。その葛藤に絡め取られます。

そして秀緒は、「家族」と向き合うことで、智沙との関係についても考え直すことになります。
作中ではあまり描かれないので分からないけど、彼はこれまで、男と付き合っているということについて、周囲の「世間」と何らかの摩擦を経験したことがないようです。うまく隠していたのか、あるいは周囲がそういうことを気にしない人間だったのか、その辺りは描かれていないので分からないのだけど、とにかく秀緒は「家族」と向き合う時、始めて「世間」と向き合うことにもなるわけです。

そして「世間」と向き合った秀緒は、智沙に対して自分がどんな風に感じていたのかを認識し直すことになった。一緒にいて幸せだということは変わらない。しかし、自分が智沙という存在をどう捉えていたのかというのは、これまできちんと掘り下げて考えなかった。考える必要がなかったからだ。その必要に迫られた秀緒は、自分の考えに失望する。

ここに、秀緒の真面目さが関係してくるのだ。
秀緒がそこまで真面目な人間でなければ、何の問題もなく通り抜けた部分だろう。しかし秀緒は、自分が智沙をどう捉えているかについて無視することが出来なかった。そしてそれは秀緒自身を追い詰めることになっていく。

智沙の葛藤は、そんな秀緒の葛藤をどう捨てさせるか、だ。智沙は、真面目な秀緒がどんな風に考えているのか理解できてしまう。しかし、秀緒の葛藤は、智沙には正直どうでもいいことだ。秀緒が自分のために悩んでくれていることは知っているが、しかしその悩みは、智沙的にはどうでもいい、取るに足らないことだ。しかし秀緒はそうは思えない。自分が智沙に対して酷いことしているのだし、そんな自分が最低の人間だとしか思えない。

秀緒にはそんな風に思ってほしくない。そんな風に悩んでもらうことで得られることなんか何もない。それでも智沙は、自分の力では秀緒のその葛藤を消し去ることが出来ないことも分かってしまっている。それが智沙の葛藤だ。

二人の気持ちがすれ違うようになっていき、さらにそんなタイミングで外的な変化までやってくる。その時二人がどんな決断をするのか…。真っ当で優しくてきちんとしている二人だからこそ無視できない葛藤を丁寧に描き出していく。

主人公二人以外だと、久住っていう医者のキャラがとてもいい。彼は、大学で智沙の上を行く優等生であり、智沙と同じ病院で研修をしている。陽気でおちゃらけた性格だけど、締めるところはきちんと締める。智沙が心を開ける数少ない人間で、物語でもなかなかいい場面で関わってくる。なかなかのキャラクターである。

最後の最後のエピローグ的な場面も良かった。時間の重みみたいなものも感じるし、残った者の覚悟みたいなものもとてもいい。

全体的に好きな感じの作品でした。

小嶋ララ子「君とパレード/パラダイス・ビュー」





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9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年ベスト

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1位 千早茜「からまる
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)