黒夜行

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水族館の殺人(青崎有吾)

内容に入ろうと思います。
風ヶ丘高校新聞部の面々は、夏休みに、地元・横浜では誰もが知っている穴場スポット・丸美水族館へと取材にやってきた。新聞部部長である向坂香織を始め、個性的な面々がワイワイはしゃぎながら水族館の裏側へと入り込んでいく。
ちょうど同じ頃。数日前、香織から水族館に行こうと誘われていた袴田柚乃は高校の体育館にいた。近隣にある四校合同での卓球の練習試合が行われるのだ。最強の名を欲しいままにする関東屈指の名門・私立緋天学園も混じっているが、風ヶ丘高校の面々は楽観していた。こちらには佐川部長がいるし、緋天学園のエースたちは遠征中であり、この練習試合には参加しないという。今年こそ緋天学園に勝つと、風ヶ丘高校の面々は燃えているのだ。
しかし、予想に反して、緋天学園の中でも最強と謳われる忍切蝶子が練習試合に飛び込みで参加することになってしまった。マジ…?
さて、新聞部の面々はと言うと、こちらも大変な状況に陥っていた。取材は順調に進んでいたが、その最中、イルカの飼育員の一人がサメに喰われて死亡する、という事態が発生した。明らかに殺人事件であると判断され、新聞部の副部長である倉町剣人のファインプレーもあって、犯行時刻はかなり狭められ、さらに容疑者も11人に絞られることになった。
しかし、まさに犯行時刻と思われるその瞬間、容疑者11人全員にアリバイが存在することが判明してしまう。丸美水族館に赴いた刑事の一人である袴田優作は、妹である柚乃に連絡を取り、裏染天馬を招集する。
裏染天馬。彼は、風ヶ丘高校の部室に住み着く男だ。天才的な推理力を誇り、その推理力により、少し前に風ヶ丘高校の体育館で発生した殺人事件を見事解き明かしたのであるが、生活力が皆無なダメ男でもある。しかし、警察としても背に腹は変えられない。天馬に協力を依頼することになった。
アリバイを破る手伝いだけ、という条件で現場に通された天馬は、アリバイの謎をあっさりと解き明かす。しかし、この水族館での殺人事件の謎は天馬を惹きつけ、天馬は警察が天馬に望む以上に事件に関わろうとする。不本意ながら天馬に振り回される形となった柚乃は、奇行を繰り返す天馬のお守りをさせられることになるが…。
というような話です。

相変わらずこの著者、凄いなと思います。まだ25歳。デビューは21歳の時です。年齢が若いから凄い、というわけでは決してないのだけど、年齢の低さにも驚かされます。確かに本格ミステリというのは、人生経験みたいなもので描くような小説ではないかもしれないけど、ここまで論理によって事件と解決を構築し、さらにそれを魅力的なキャラクター小説で包んでしまうというのは、なかなか出来ることではないと思います。

しかしこのシリーズ作の感想を書くのは難しい。というのも、前作「体育館の殺人」と同じようなことしか書けないからです。「推理が凄い!」という話を書いても、ミステリであるが故にその凄い部分については深入り出来ないし、キャラクターが魅力的、という話も結局被ってしまうんですよね。

でも、似たような感想になってしまっても、あれこれ書いてみようと思います。

まずやっぱり本書は、論理展開が凄すぎる。前作「体育館の殺人」では、たった一本の傘から、これでもかこれでもかというぐらい様々な結論が導き出されたわけだけど、今回は、バケツとモップだけから、これだけのことが分かるのかというぐらい、超絶的な論理展開によって真相が明らかにされていきます。まさにそれは、数学でも解いているような雰囲気です。誰もが納得できる大前提からスタートし、そこに論理によって様々な事実を積み上げていくことで、犯人をたった一人に絞り込んでいく。その過程が素晴らしい。

前作もそうだったけど、この作品には間に「読者への挑戦状」が挟まっている。これは、読者も、与えられた条件を元に、探偵と同じ用に犯人を絞り込んでいくことが出来る、ということだ。
これは、なかなか難しい。推理が出来るようにフェアに手がかりを作中に組み込まなければいけないけど、でもそれによって物語が不自然になったり違和感が残ったりしてはいけない。本書はその問題もクリアしている。僕がただ本格ミステリを読み慣れていない鈍感な読者というだけかもしれないけど、物語的に不自然に感じる部分はほとんどない(あってもそれは、天馬の奇行として処理される。この部分で、天馬のキャラクターはかなり計算して作られているな、と感じる)。作中の様々な箇所に重要なヒントを散りばめながら、物語として自然になるように巧く描き出していく。これもまた、物凄くハイレベルな手腕だと思うのだ。

また、先程少し触れたが、天馬の奇行という面から考えても本書は面白い。天馬は、推理の過程で、素っ頓狂な質問をしたり、理解不能な行動をしたりする。周りは、呆れながらも、またかという感じで許容している(というかせざるを得ないというだけか)んだけど、謎が解き明かされると、それらの奇行に大体説明がつく(大体、というのも面白い。天馬の奇行の中には当然、天馬が変態だからそうしている、というだけの奇行も存在する)。天馬の思考についていけない人間にはただ天馬を奇妙な眼差しで眺めるしかないが、それらにきちんと理由付けされるというのも面白い。

さて、しかしマイナスな面も書いておこう。これは単に僕が苦手だ、というだけの話なのかもしれないけど、本書がアリバイ崩しがメインになっている、というのは僕にはちょっと辛かった。
11人の容疑者すべての行動を、たった20分弱の出来事とはいえ、頭の中に突っ込むのは相当難しいと僕は思う。誰々はこの時間からこの時間までここにいて、誰それはここからここまでこうしていて…みたいなことが書かれていくんだけど、僕はどうしてもそれを理解するのを放棄してしまう。もちろん、本書の謎解きのメインの部分では、それらのタイムスケジュールを理解していなくても理解できるし驚ける。しかしやはり、細かな部分まで知ろうとすると、どうしても11人の容疑者の動きを理解する必要がある。それはなかなか難しいなぁ、と思ってしまうのだ。

また、アリバイ崩しを扱うとリアリティ的にちょっと苦しくなる、というのがある。とにかく、時間が正確に分からないといけないわけなんだけど、「トイレから出たのが10時3分で事務所には少なくとも10分には戻ってた」みたいな感じの証言が山程存在するんです。でも、普通ですよ、そんなこと覚えてますか?もちろん本書では、時間を覚えている理由について最もらしい理由付けがされているから、気にしなければ気にしないまま読める。けど、多くの人間が時間を正確に覚えていた、という偶然を前提しなければその状況を生み出せない、というのはちょっと弱いのなぁ、と思ってしまいました。

まあ、そういう部分を差っ引いいても、メチャクチャ面白いですけどね。

本書は、本格ミステリとしての側面だけではなく、キャラクター小説としても面白い。
解説によれば、前作でありデビュー作でもある「体育館の殺人」は、新人賞の応募作だったので、シリーズ化するつもりで書いたわけではない、と著者は話してるという。本作で、主要メンバーの造型がより深くなり、また天馬を軸にした物語も展開されそうな感じで、キャラクターも重視していくんだということが強く意識されているなという感じがしました。

探偵役の天馬を筆頭に、どうにもこうにもおかしいというかズレた人間がわらわら登場する。風ヶ丘高校の面々と刑事が主要メンバーと考えていいが、彼らの会話のやり取りは軽妙でかなり面白い。殺人事件に関わっているとは思えないような軽いノリで、そういう意味でライトノベル的と言えるかもしれないが、そこに「平成のエラリー・クイーン」と評される超絶的な論理を組み込んだ謎と謎解きを組み込むことで、ライトノベルには見えない。とっつきやすいキャラクターで敷居を下げ、ゴリゴリのミステリを読ませる、というやり方はとても成功しているように思う。

400ページを超える作品ですが、一気に読ませるだけの力があります。ライトノベルっぽく見える部分もありますが、ライトノベルとは一線を画す力を秘めた作品です。問題編では、天馬が一人で動き回っているだけで周りも読者も全然真相の欠片すら掴めないんだけど(掴める読者もいるかもしれないけど)、それでも面白く読んでしまうし、解答編の論理展開は圧巻のひと言です。是非読んでみてください。

青崎有吾「水族館の殺人」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)