幻視時代(西澤保彦)
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内容に入ろうと思います。
物語は、主人公らがある恐ろしい事実に気づくところから始まる。
なんと死んでいるはずの同級生が写った写真が存在するのだ。彼らは目を疑った。しかしそれは、どう見ても彼らが知っているあの子にしか見えない。鵜久森を震度七強の地震が襲ったまさにその日に撮られた写真に、写っているのだ。
風祭飛鳥。<私立尾曽越学園>高等部の文芸部にいた彼女。顧問の白州正和に心酔している様を見せ、白州に批評してもらいながら熱心に作品を仕上げる姿を誰もが覚えている少女。彼女は、不幸な形で若くして命を落とすことになってしまったのだ。
飛鳥と同学年であり、当時唯一の男子部員だった矢渡利悠人は、SFやミステリを読み漁る学生だったが、周りにそういう話が出来る者がおらず、同志を見つける目的で文芸部への入部を決める。そこで彼は、顧問の白州が、矢渡利の母を知っているということを知る。なんと母はかつて小説を書いていたようで、大学時代に白州らとともに同人誌を作っていたのだという。母は既に亡くなり、父からもそんな話を聞いたことがなかった矢渡利は驚いた。
そしてこの母の存在が、結果的に、入部以来気になっていた飛鳥と喋るきっかけになったのだった。
飛鳥と普通に会話をする仲になったのだったが、次第に飛鳥を取り巻く環境が大きく変わり、二人の関係も変化していく。
そして、文芸部の機関誌である<ぴこミュウズ>への投稿作に思い悩んでいた矢渡利が、禁忌に手を染めた時から、物語は大きく、しかし静かに動き始める…。
というような話です。
なかなか面白い作品でした。
写真に、撮影時点から4年前に死んでいたはずの少女が写っている、という謎から始まるこの物語は、当然ミステリとしてなかなか面白い展開を見せます。本書の解答には、個人的にはちょっと気になる部分もなくはないですが、それは論理の展開とか動機の部分ではなく、そんな偶然(偶然、という表現はちょっとおかしいけど)あるかな、というような部分です。謎があまりにも解き明かすのに困難なので、多少はそういう部分が入り込まないと無理だろうと思うので、そこまで気にすることでもないか、とも思っています。
本書の解説には、「西澤ミステリの真骨頂は、実は動機にある」と書かれていて、他の西澤ミステリについてはなんとも言えないけど、本書の場合、確かに動機の部分がなかなかうまく作りこまれているな、という印象でした。
この「心霊写真」(と呼ぶことにします)が生まれるまでには、様々な人間の様々な行動が関わってくるわけなんだけど、それら一つ一つの行動が何故なされたのか、という部分が、結構よく出来ている。普通に考えればどんなことするはずがない、という行動がいくつか積み重なることであの「心霊写真」が生まれるわけなんだけど、その行動の理由があまり無理がないように描かれていく。いや、もちろん無理があると感じる人もいるだろうけど、「心霊写真」を合理的に説明しようという試みの中で、なかなかうまい状況設定を作ったものだな、と感じたのでした。
そして本書は、ミステリとしてだけではなく、青春小説としてもなかなか良く出来ていると思う。
飛鳥というなかなか奥の深いキャラクター、主人公の淡い恋心、教師である白州と飛鳥との関係など、その時代特有の人間関係もなかなか読ませるし、飛鳥にしても矢渡利にしても、創作の苦しみみたいなものが描かれるのも、また青春っぽくていいなと思う。
創作の苦しみが結局後の悲劇を引き起こしたわけだけど、そこに、既に亡くなっている矢渡利の母が関係してくるというのも面白い。もちろんこの、矢渡利の母の原稿を巡るあれこれは、都合が良すぎるなぁ、と感じる部分もあるのだけど、目先の重圧をちょっと先延ばしにするという、罪悪感はありながらもそこまで気負ってやったわけではない行動の積み重ねが、最終的に不幸を呼び寄せてしまうことになる、という流れは、なかなか良く出来ていたなと感じました。
合理的に解き明かすのが困難だろうと思われる謎を、多少無理はありながらもなかなか絶妙な形で説明するだけの、違和感の少ない状況設定と、謎を解き明かす論理展開がなかなか見事な作品だと思います。西澤保彦らしい一冊だと思います。
西澤保彦「幻視時代」
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