黒夜行

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百万畳ラビリンス(たかみち)

内容に入ろうと思います。
玖波島礼香はゲーム好き。それもただのゲーム好きではなく、ゲームのバグ(制作者が想定していない挙動を取ることになるような状況)を見つけるのが得意なのだ。制作者さえ予知できない未知の世界への扉であるバグに心奪われる、そんな19歳である。
そんな礼香はその特技を活かし、ゲームデバッカー(ゲームのバグを見つける仕事)のアルバイトで日々を楽しく過ごしていた。クラインソフトウェアという礼香が所属するゲーム会社が所有する社宅で、ルームメイトである庸子と一緒に暮らしている。
ある日。彼女らは突然、謎の建物に迷い込んだ。
間取りという概念が存在しないようなハチャメチャな造り。
ドアやふすまや畳を開ける度にまるで違う空間へと辿り着く異次元の構造。
空間が連続してまるで無限回廊のようになっている場所。
彼女たちは、何故こんな場所に自分たちがいるのか、どうすればここから出られるのか、そもそもこの空間は何なのか、そういうことが一切分からないまま、この異空間の探索を続ける。探索を続ける中で彼女たちは、次第にこの異空間のルールや構造を熟知していくようになる。
何よりもこの空間は、礼香が尊敬してやまないゲームクリエイター・多神大介が作った「ダンジョンテール」というゲームに酷似している。日常ステージにあるバグを見つけることで無限にルートを生み出すことが出来る画期的なゲームで、バグに惹かれる礼香がドハマリしたゲームでもある。
だからこそ礼香は、この異空間で、なんだか活き活きしている。庸子の方は、ちゃんとした世界に戻れるのか不安がる素振りを見せるのに、礼香はこの世界のあれこれにワクワクが止まらない。
『お前はゲーム以外の全てと関係を断ってきたダメ人間』
庸子にそう言わしめた礼香が八面六臂の活躍で、この謎めいた異空間の謎を解き明かす、知的冒険マンガ!

メチャクチャ面白いマンガでした。
物語は、一切の説明がないまま唐突に始まる。登場人物の説明も、世界観の説明も、何もかも説明されないまま、唐突に状況がスタートする。つまり、少なくともこの異世界について、登場人物と読者が持っている情報はまったく同じ、ということになる。

そこから彼女たちが、少しずつこの世界の謎を明らかにしていくんだけど、
この「謎」が実によく出来ている。

異世界だからと言って、どんなルールでも飛び出してきちゃうようなデタラメな世界だったら、「なんでもアリ」ということになって全然面白くなかっただろう。しかし本書では、この異世界は、限りなく少ない前提だけで構築されている、そういう印象を受けた。むやみやたらに設定を増やすのではなく、一つの設定を幾重にも使い回しながら世界を構築していくのだ。

その代表的なものが「ちゃぶ台」だろう。本書には、なかなか重要なアイテムとしてちゃぶ台が登場する。ちゃぶ台の秘密に気付いた礼香は、様々な実験をし、ちゃぶ台の有効な使いみちを発見する。
そのちゃぶ台のシステムは、この異世界に存在する他の様々な物質とも同じ性質を持っているし、その性質が彼らのピンチを脱するのに有効に使われることもある。具体的なことを書かずにぼやっと書いているから何の話をしているのか分からないと思うけど、ちゃぶ台を含むこの異世界に存在する物質のある特徴的な性質を繰り返し使って様々な場面を描き出す手腕はさすがだと思う。

また礼香は、この異世界に存在する物質がどのような原理で生み出されているのか、ということも見抜く。そしてその発見を、最後の最後、礼香がとんでもないウルトラCを決める際に華麗に使われるのだ。これは見事だと思った。

『与えられた選択肢が最善とは限らないもの』

これは礼香の言葉だ。礼香は、行動を制限されることに我慢がならない。最後の最後で礼香が決めたウルトラCも、元々は選択肢に存在するはずのないものだった。誰も想定していないウルトラCを実現することが出来たのは、礼香が常にゲームの中で、与えられた選択肢ではない「バグ」を追い求め、それを探しだすために幾多の実験を繰り返してきたからだろう。礼香のキャラクターと異世界の設定とラストの着地点が見事に融合した素晴らしい作品だと思う。

しかし、礼香はいいキャラしてるなぁ。こういう女の子は好きだなぁ、と思う。

礼香は、次の行動が予測できないほど、何をするか分からないし価値観が周りと合わない。周りに合わせようという意識もないし、自分がどう見られるかも気にしない。服を着たままシャワーを浴びるとか敷布団の下に寝るとか、果てしなくアホらしいことをチャレンジしてみないではいられない。

『別に。やれることを試しているだけだけど?』

『コイツはずっと自分が見た現実しか認めない奴だったんだ』

現実の社会に馴染めないでいた礼香は、ゲームの世界でだけは活き活きすることが出来た。この異世界に放り込まれてからも礼香は一切不安を見せることなく、時には現実の社会に戻りたくなさそうな仕草さえ見せた。

確かに礼香にとって現実とは相当辛い場所だろう。礼香の価値観を許容出来るような人間はほとんどいないに違いない。僕にしても、遠目で見ている分には礼香は最高に楽しいけど、近くにいたらしんどいと感じるだろうと思う。彼女にとってこの異世界は、自分が輝ける場所、活き活きとした姿でいられる場所なのだと思う。

そういうぶっ飛んだ存在である礼香がとてもいいなぁ、と感じられてしまう。僕だったら、こんな風に振る舞えないだろうし、たぶん庸子のようになっちゃうだろうから、礼香が羨ましいなぁ、と。

物語の大きな設定が後半で明らかになっていくんだけど、よくもまあこんなアホらしいことを考えたものだよ、という設定だ。しかし、そのアホらしい設定を全力で突き詰めているから本書はとても面白い。礼香と庸子の冒険部分が面白くなるように様々な設定が調整されているので、物語の大きな設定はいささか雑というか、んなアホなって話なんだけど、でも面白いしよく考えたものだなと思う。

謎が解き明かされていく過程が面白い作品だから、具体的なことが何も書けずにモヤモヤした感想になったけど、TVゲームをほぼやらない(RPGは一度もやったことがない)僕でもメチャクチャ楽しめる作品でした。上下巻で完結するそこまで長くない話なので、是非読んでみてください。

たかみち「百万畳ラビリンス」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)