黒夜行

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「クリーピー 偽りの隣人」を観に行ってきました

僕には人としての心がなさそうだ。
そう感じることが時々ある。
でも僕の場合、「僕には人としての心がなさそうだ(良くないことだな)」とい客観視が出来ているつもりなので、まだマシだろうと思っている。

良い人のフリをするのが得意だ。
別に演技をしている意識はない。その場その場で、どうすれば良い人に見えるのか分かる。そして、こうだろうなと思った風に行動している。それだけ。僕自身は、内側から自分自身を知っている身として、僕は大して良い人ではないだろうと思っている。でも同時に、まあ良い人には見えるだろうなぁ、とも思っている。そういう風に見せているからだ。

こういう感覚は、誰の中にもあるもんなんだろうか?
よく分からない。
僕はどこにいても、誰といても、その場でこうあるべきなんだろうな、という役割を見つけ出して、そういう風にしてその場にいる。別に、良い人に見せるだけではない。状況次第で悪い人にも、ダメな人にも、楽しそうな人にもなる。自分の能力の範囲内であれば、どんなタイプの人間にでもなる。

アンジャッシュの渡部が以前テレビ番組の中でこんな風なことを言っていた。
「僕は、スタッフの人が求める通りの存在としてこのスタジオにいようと意識している」
僕の感覚は、こういう感じに近い。
渡部は、自分が面白いことが言えるか、目立つか、そういうことはどうでも良くて、番組という一つの場を成立させるために自分がやるべく役割を果たす、という意識でいつも現場にいるらしい。昔からそういう意識でいたわけではなくて、そういう意識に切り替えたのだと言っていたと思う。

僕も同じ。僕も、その場その場で、まあこういう人物がいたらいいよね、こういう人がいると全体がうまく回るよね、みたいなことを勝手に判断して、その役割をまっとうするように振る舞う。何でそんなことをしているかと言えば、その方が僕にとっては楽だからだ。別にやりたいことも主張したいこともない。周りに合わせて自分の形を常に可変させている方が、基本的には楽だ。

まあ、そういう風に生きているせいで、深い人間関係は苦手なんだけど。

僕のこういうやり方はおかしいんだろうな、とは思う。おかしいというか、まあ人とは違うだろう。
僕は、自分のこういう振る舞いについて考える時、あー自分には人としての心がないな、と感じる。他者の存在に反応する形でしか自分というものが出てこないというのは、自分の内側に「人」がいないのと似たようなものだろう。



高倉は、犯罪心理学をきちんと学んだ刑事だ。捜査一課に所属し、サイコパスの取り調べなどを担当していた。しかしある日、8人を殺したサイコパスとのやり取りで負傷し、その事件をきっかけに警察を辞めた。今では大学で犯罪心理学を教えている。
引っ越しをした高倉夫婦は、妻の康子と共にお隣に挨拶に行った。一軒目は、近所づきあいはしないことにしてるからとけんもほろろ。そして二軒目の西野さんは、不在だったために後回しにすることにした。
高倉は大学で、「日野市一家失踪事件」の存在を知る。現役時代関わったことのない事件だ。日野市で家族三人が突然失踪した事件で、高倉は、失踪なのに何故事件扱いになっているのか疑問を抱く。その事件では、早紀という少女が一人だけ残されたのだが、当時中学生だった彼女の記憶は曖昧で、証言能力なしとされていた。
刑事時代に関わりのあった野上から、この事件を分析してもらえないかと依頼された高倉は、現場に足を運び、一人残された早紀に話を聞き、少しずつ情報を集めるが、真実に繋がりそうな手がかりは出てこない。
一方で、隣人の西野さんは、なかなか捉えどころのない人物だった。一人で西野家に挨拶に行った康子は、初対面の印象こそ最悪だったが、次第に西野家と仲良くなっていく。西野家の一人娘である澪に料理を教えたりもした。
日野市の事件と隣人の西野家。まるで関係のない二つが、やがて結びついていく…。
というような話です。

僕は、途中まで非常に興味深く見ていました。どうなっていくんだろう、という展開への興味です。西野(香川照之)は最初からかなり異常な人物として登場しますが、しかし西野を異常と感じるのは、僕らがそういう目で見ているからです。もしあの西野が、お隣さんとしていれば、確かにちょっと変わってるけど、もの凄く警戒するかと言えばそうではないかもしれません。そういう西野の存在が、物語の中でどうなっていくのか。非常に興味がありました。

ただ、途中から、うーん、と思ってしまいました。その理由を具体的には書きませんが、「魔法だと分かってしまったから」というのがその理由です。
僕が展開に興味を抱いたのは、西野が裏で何かやっているとして(まあやってないわけはないんですけど)、どんな風にそれを成し遂げているのか、という点が気になったからです。予告編でも目にしたからネタバレにならないと思うけど、作中で、西野の娘である澪が高倉(西島秀俊)に、
「あの人お父さんじゃありません。全然知らない人です」
と言います。どうしてそんなことになっているのか?何故他人なのに一緒に暮らしているのか?父親じゃないならあいつは誰なのか?そして僕は、そういう謎めいた状況を成り立たせている土台に関心がありました。西野がどんな風にそれを実現しているのかということに興味がありました。

でもそれは、ある種の「魔法」でした。それが分かった時、ちょっとなぁ、と思ってしまいました。正直、作中で描かれる「魔法」がどんなものなのか、イマイチよく分かりません。分からないけど、でもそれは、「魔法」のように効くわけです。

もちろん西野のやり方は、その「魔法」だけにあるわけじゃありません。罪悪感を持たせるとか、自分が悪いのだと思い込ませるとか、そういう様々な手法と組み合わせてこの異常な状況を作り出しているわけでしょう。それは分かるんですけど、でもやっぱり、ベースにあるのは「魔法」なのか、と思って残念でした。

僕自身は、犯罪に関係したノンフィクションを結構読んでいたり、ドキュメンタリーを見たりすることがあるので、「ストックホルム症候群」的な状況が存在することは理解しています。「ストックホルム症候群」というのは、人質になった人が犯人に協力するような行動を取るようなことで、特殊な信頼関係みたいのが構築されることを言います。本書でも、例えば西野と澪の関係は、そういう「ストックホルム症候群」に、さらに色んな要素が組み合わさっているのだろうと思います。

とはいえ、澪の存在はちょっと無理ありすぎるように、僕には感じられてしまいました。
何故なら、澪は学校にきちんと行っているからです。

「ストックホルム症候群」は、囚われの身で逃げられないと思った状況で起こるんだと僕は思っています。澪は確かに、囚われの身だろうし逃げられないと思っているのかもしれないけど、でも、物理的に拘束されてもいないし、閉じ込められているわけでもない。学校には普通に行っているわけです。

その状況で何もしないだろうか?

もちろん、澪にも逃げられないと感じる理由があるでしょう。詳しくは書かないけど、自分だけが囚われの身になっているわけではないのです。しかし、そうだとしても、澪は彼らの運命をもう知っているわけです。自分ではどうすることも出来ないと感じているでしょう。でも、だったらなおさらのこと、外に助けを求めるなりなんなりしてもおかしくないのではないか、と。

ここが、現実とフィクションの違いだと僕は感じます。

これが現実の物語であれば、理由を問うことは無意味です。実際に、そうだったのですから。澪のような女の子が実在するとして、澪が何故、一人で学校に行けるような環境にありながら誰にも助けを求めなかったのか、その理由を問うことは無意味です。

でも、物語であれば違います。そこには、何らかの理由を用意しなければ説得力がありません。

僕はこれまで色々と事件ノンフィクションを読んできましたが、付き添いなしで外に出る自由を与えられながら逃げなかった、という事例の記憶はありません。もちろん、どこかにはあるかもしれませんが、僕自身は聞いたことがありません。自分が囚われている場所に誰か他人がやってきたけど、怖くて助けを求められなかった、みたいなことならありえるでしょう。でも澪は、家から自由に外に出ることが出来るわけです。そういう状況下にあってもなお何の行動も起こさない、という点には、やはり何らかの理由を持たせるべきだったのではないかと感じます。

そう強く思う理由に、先程の「あの人お父さんじゃありません。全然知らない人です」というセリフがあります。これは、澪が自宅近くで、通りかかった高倉にこそっと言ったものです。つまり澪には、誰かにこの状況を知ってもらいたい、助けてもらいたい、という意志がきちんとあるわけです。

だったら、自宅近くでいつ西野に見つかるか分からない場所で言うより、学校やその行き帰りなど西野と遠いところで誰かに訴えかける方がよほどいいでしょう。何故澪はそうしなかったのか。

一応自分なりに解答はあります。それは、「言っても誰も信じてくれないことを恐れたから」というものです。だとすれば、高倉に言ったことにも説明がつきます。直接西野と関わりのある高倉だったら分かってもらえるんじゃないか、と思ったのかもしれません。しかしそれも、例えば家で何枚か写真を撮って誰かに見せればすぐです。じゃあ、「自分が捕まることを恐れたから」でしょうか。しかしそうなると、高倉に話したことの説明がつきません。

そんなわけで、僕の中で澪というのは、ちょっとリアリティのない存在に思えました。実際の事件でそういうことがあれば、そういうことがあったんだなと受け入れますが、物語の中の登場人物としてはちょっと受け入れがたいと感じました。

リアリティという意味で言えば、康子が何故取り込まれてしまったのか、その辺りもイマイチよく分かりませんでした。あの場面が最初の最初のきっかけだったんだろう、という場面は思い当たります。でも、そこから、一体何がどうなればあんな場所まで康子が連れて行かれる羽目になるのか。いくら「魔法」の存在があったって、良く理解できないなと感じてしまいました。

物語のラストも、なんだかなぁと思ってしまいました。あそこでああなるんだろうな、というのはそうなる前から予想がつきましたけど、個人的にはあの展開が、計画されたものなのか突発的なものなのかで作品の意味合いが全然違うように思います。計画されたものであるとすれば、ラスト付近で西野を追い詰めたかに思われた場面で何故康子があんな行動を取ったのかイマイチ理解できません。突発的なものなのであれば、ラストの展開の直後の澪と康子の反応がうまく理解できません。どちらにしても、いつ「魔法」が解けたのか、「魔法」が解ける要因は一体なんなのか、そういう部分がイマイチ理解できないなぁ、と思ってしまいました。物語の終わらせ方自体は嫌いじゃありません。ただ、上述したようなことが気になって、どうもスッキリしない感じを受けました。

あと、これはもしかしたら演出なのかもしれないけど、高倉役の西島秀俊の演技がどうも下手に思えて仕方ありませんでした。西島秀俊の演技をたぶん初めて見たので判断はつきませんが、あれが演出でないとしたら凄く演技が下手に見えたし、演出だとしたらどんな意図でそうしたのかイマイチよく分かりません。

全体的には、もうちょっと頑張って欲しかったな、と感じる映画でした。

「クリーピー 偽りの隣人」を観に行ってきました
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
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13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
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コミック

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

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6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
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17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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