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県庁そろそろクビですか? 「はみだし公務員」の挑戦(円城寺雄介)

『佐賀県という一地方で一介の県庁職員が始めたことが、様々な賞をいただくことにつながり、世界的に有名なプレゼンテーションの場である「TEDx」での登壇や、東京大学のなど多くの学校で講義をする機会にもなった。全国放送の密着ドキュメンタリー番組である「夢の扉+」では「“たらいまわし”をなくせ!スーパー公務員の挑戦」として取り上げてもらい、小学5年生の社会科の教科書でもその取組みが紹介され、インターネット上では、これらのことが救急医療分野だけでなく様々な分野で挑戦する人の後押しになっているという声も寄せられている。私の経験や佐賀の取組みが、幕末のように全国へ発信できているのであれば、本当に嬉しい限りである』

著者が県庁職員として行ったある挑戦は、これほどまでに社会に影響を与え、社会を変え、著者自身を取り巻く環境を変えた。

著者は何をしたのか?

大雑把にざっくりと言えば、県内すべての救急車にiPadを配備し、各病院の受け入れ状況などを「見える化」し、救急搬送の短縮だけではなく、バラバラだった医療関係機関の足並みを揃わせ、iPad経由で得られたデータを分析することで新たな医療分野の課題を発見している。その一つを解決するため、一度議論され否決された「ドクターヘリ」の導入を成し遂げた。公務員の世界では、一度決まった結論を覆すのは、様々な理由から困難だと言うが、著者はそれをやってのける。

まさに「スーパー公務員」と言っていいだろう。

しかし著者は、最近の「スーパー公務員」がもてはやされる傾向を危惧している。自分は普通の人間であり、結果的にそう見えるかもしれないが決して「スーパー公務員」ではない、と言う。

『TBSの「夢の扉+」をご覧になった方からSNSに「私の住んでいる自治体にも円成寺さんのような人がいればいいのに」というメッセージをいただいたこともある。その人にぜひ伝えたいことは、出番を待っている熱い公務員たちが世の中にはたくさんいるし、きっとその人の住む自治体にもいるということだ。きっかけさえあれば人はいつでも「当事者」になることができるのだ』

『全国各地を回りすごい公務員たちがたくさんいることを知った。役所という堅い岩盤の下にはマグマのような熱い公務員たちがたくさんいる。きっかけさえあれば彼ら彼女らはいつでも飛び出してくるのだ。』

著者は巻末で、『一介の公務員にとってこのような本を出すことは光栄なのだが、正直なところ個人的にはメリットよりもデメリットのほうが多い』と書いている。それでも本書を出すことに決めたのには、公務員にイメージを変えたいと思ったからだ。

『多くの人が公務員の魅力は安定していることだと思っているかもしれないが、私は「社会のために挑戦できること」が公務員の魅力だと思っている』

公務員、という存在に対するイメージは、僕の中ではあまり良くない。何か理由があるわけではなく完全にイメージだが、「成功しなくてもいいが、失敗すると評価に大きく響くから挑戦しない」「比較的自由な時間が取りやすいから趣味に時間を掛けたい人がなっている」「ダラダラ仕事をしている」というような良くない印象を持っていた。

もちろんそういう公務員もいるのだろう。ニュースなどで公務員が取り上げられる時は、大体なんらかの不祥事絡みだから、悪い印象ばかり刷り込まれているということもあるだろう。本書を読んで、僕の中での公務員のイメージは大きく変わった。

『民間企業のように給与に数倍、数十倍差が出たり、何かしでかしてクビになるリスクがあるなら、私も本書で取り上げていくような「挑戦」はできなかったかもしれない。現在の日本の公務員制度は批判も多いが、本来は安定した待遇によって「公のための挑戦」をしやすくし、少しでもよりよい社会を実現してほしいという先達たちの願いや祈りが込められているように思えてならない。
たとえ周りが何と思おうが、どんな評価をされようが、いい仕事をするために挑戦していけるのが、公務員の最大の魅力なのだと私は思う』

『だが、これは知っておいていただきたいのだが、私も含め多くの公務員は、目立たない中で世の中の役に立つ仕事をするのが本当に好きなのである』

『目立つ、目立たないではない。そういうことを可能にすることにこそ公務員としての仕事の喜びがあると私は考えているのだ。
公務員の仕事とは、どんなに地味で目立たなくても、意味のない業務などは本来は一つもない。その業務をきちんと行うことで、どんな人にどう役に立つのか、その想像力こそ、公務員に求められるものだろう
公務員らしい仕事こそが大切であり、お役所仕事という言葉に誇りを持っていい。お役所のしごととは地味で、放っておくと問題が起こるようなことを目立たないうちに手を打っておき、採算ではなく、人の命や地域の人の幸せを基準にして行うものだ』

どうだろうか。著者のこんな言葉を読んでいると、公務員という仕事が、何やら魅力的な仕事に見えてこないだろうか。

もちろん、著者と同じレベル、とまでいかなくても、誰もやっていないことにチャレンジすることは難しい。公務員なら、そのハードルはより上がるだろう。著者も、今でこそ「スーパー公務員」と扱われているが、『まだ何の成果も出ておらず、庁内での批判と厳しい目にさらされ、悶々とした日々が約1年も続いた。』『その人間がやっていることそのものではなく「目立っている」ことに対して批判ややっかみが出てくるのである』など、厳しい時期を過ごした。そもそも著者は、庁内で誰も行きたがらないと言われる激務の課に異動になり、そこで仕事外の時間を使って、自身が見つけた問題解決のために動いていたのだ。真夜中、県庁で残業をしている中、辞表を書いたり消したりした、というようなエピソードも語られている。

それでも「はみだすこと」に飛び込めと言う。

『またそれは公務員の世界だけに限らない。最近の日本社会全般においても、挑戦のリスクばかりが取り沙汰されて、みんなと同じ道から外れることのできない傾向があるような気がしてならない』

『誤解があるといけないが、はみだすこと自体に意味があるのではない。誰かのため社会のため何かを達成する道すがらで、はみださざるを得ないことが起きたらそれを恐れるべきではない、ということだ。もちろん、はみだす覚悟には、周囲に迷惑をかけないという責任が伴う』

僕は、今となってははみだすことはまったく恐れていない。仕事でも日常生活でも、むしろ周りから外れよう外れようとして行動をしている。その方が面白いからだ。決して昔からそんな風に行動できるわけではなかった。昔は、周りの目を気にして、なるべく周りから外れないように行動していた。でも、そういう生き方は結局、窮屈で自分の性格には合っていなかった。

お役所に限らず、どんな場面でも、前例のないことを躊躇する風潮みたいなものを感じることがある。今の職場はそれがまったくないので非常にありがたい。僕自身は、そういう環境があるからはみだせているという部分もあるかもしれない。著者は、公務員という、まさに「前例の踏襲」という厚い壁を突破しなければ何も出来ない環境で、世界中誰も成し得なかったことをやってのけた。もちろん、公務員だから出来た、という側面もある。しかし、最初のハードルとしては、公務員であるという足かせが非常に大きかっただろうと思う。著者の経験を知ることは、どんな環境でも何かに挑戦していくやり方を学ぶいいきっかけである。

『伝えたいことは、公務員という世の中で最も変革に縁遠く、何もしないと思われている仕事でも、はみだす覚悟さえあれば意外に何でもできるということだ』

『信念を持って物事に取り組むために一歩前に出ることは、嫌われる勇気を持つということでもあるのだ』

色んなことに言い訳をして、「出来ない理由」を探して何もしないことは楽だ。でも、普通だったら出来ないことにチャレンジ出来るのは楽しい。どんな環境にいても、そこで課題を見つけることが出来る。そして見つけた課題に対して、小さなところから行動していくことは出来る。著者が取り組んだ救急医療の現場の改革は、医療関係者が行政に対して長年不信感を持っていたという、ゼロからどころかマイナスからのスタートだった。それでも著者は、現場を見ることで乗り越えてきた。

『そこをあえて無理なお願いをしたのは、私自身が県庁での仕事を始めてからこれまでの職場で学んできた「現場主義」がなければ仕事はできないという信念があり、いかんともし難い想いがあったからだ。「現場を知らなければいい仕事などできない。効果的な政策など打てるはずがない」―これが私の行動原則だった』

「現場主義」による改革というのは、著者のいる佐賀県の伝統であるらしい。殿様自らが行動し、全国的に見ても異端の藩であった佐賀藩。その原則は、時代を超えて著者に宿り、現代において先駆的な改革を次々と成し遂げているのである。


著者がどんな経緯を経て、世界にその名を轟かせるまでの成果を生み出すに至ったのか、その詳細をここで書くことはしない。しかし、繰り返すがそれは楽な道のりではなかった。特に思い入れもなく県庁職員として働き始めた著者。すぐに実践を求められた課での苦労、三年ごとに業務内容がまるで変わる大変さ、最もヒマと呼ばれた課へ異動になり、そこで後の改革のきっかけとなる意識を得たこと、それから一転、最も辛いと呼ばれる課へと異動になり、殺人的な業務量の中、それでも自分の自由になる時間を見つけ、誰に言われるまでもなく課題を見つけ、解決方法を探り、実際に解決に向けて動き出す、という流れは、まるでドラマのようで面白い。面白いだけではなくて、それまでのすべての経験がどういう形でか後々役立つということも分かる。無駄な経験はないし、たとえ失敗があったとしても、そこから学べることがあればそれは失敗ではない。現状が辛いという人も多くいるだろうし、努力が報われないと感じている人もいるだろう。確かに、結果的に報われないまま終わる、ということだってあるかもしれない。でも、不貞腐れないで続けることで、後々、辛い経験も無駄だと思えた経験も、意味のある何かに変わるかもしれない。そんな風に思わせてくれる。

個人的には、特に若い人に伝えたい著者のこんな言葉があるので紹介しようと思う。

『変革者は物事を変えるだけの人間ではない。変えることが目的ではなく実現したい理想や未来に近づけるために、たまたま変えるという手段をとったにすぎない。
これは私の持論であり、新しく県庁に入った人たちにはこんなメッセージを伝えている。
「これまでやってきた前例や既存の制度を頭から否定してはいけない。たしかに時代に合わなかったりおかしいところもあるかもしれない。しかし、それもこれまで先人たちが汗と涙でつくり上げてきた積み上げなのだ。それは経験や教訓の塊であり、過去すべての人たちがより良い社会を生きたいと血のにじむような努力をしてきた願いや祈りなのだから、まずはしっかりと前例や既存制度を学ぶこと」』

決して、チャレンジすることだけが人生ではない。平穏に人生を終えたいという人もいるだろうし、チャレンジする人を手助けしたいと思っている人もいるだろう。そういう生き方を別に否定しているわけではない。本書は、何かチャレンジしたい、変えたい、見つけてしまった課題を解決したいと切実に願っている人に、その道筋を見せてくれる作品だ。そして同時に、特に熱い気持ちを持たずに生きてきた人の心を鼓舞するかもしれない力を持つ作品でもある。「はみだす」勇気を持って、それまで歩んできたのとは違う人生を歩んでみる。そんな一歩を踏み出してみませんか?

円城寺雄介「県庁そろそろクビですか? 「はみだし公務員」の挑戦」


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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
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15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年の個人的ベストです
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1位 千早茜「からまる
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)