夢幻花(東野圭吾)
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秋山梨乃は、従兄の尚人が自殺した、という知らせを聞く。勉強もスポーツも絵もなんでも出来、プロのミュージシャンとしてやっていく決意をして着実に実績を積んでいる最中だった。理由は、誰も分からないようだ。葬儀の場で、祖父の周治に久々に会った。梨乃は、オリンピックを目指せると言われたほどの水泳の選手だったが、今ではその水泳を辞めている。周囲は落胆したが、祖父だけが唯一、以前と変わらない接し方をしてくれる。だから梨乃としても気楽だった。
尚人の葬儀から四日後、梨乃は久々に祖父の家に遊びに行った。祖父は、見たこともないような様々な花を育てていた。実際、そういう仕事をしていたらしい。花は嘘をつかないから、人間より付き合いやすいのだそうだ。梨乃は、祖父がこれまで撮り溜めてきた写真を見て、ブログの開設を提案する。色んな人に見てもらうべきだ、と。乗り気ではない祖父に対し、だったら私がやってあげると、ブログでの投稿までをかって出ることにした。
それからしばらくして、祖父が殺されているのを、梨乃自身が発見することになる。
蒲生蒼太は、大阪にある大学の物理エネルギー工学第二科にいる。かつての名称は、原子力工学科だ。原発事故以来、進路の選択に失敗した、と周りの誰もが思っている。
ある日蒼太は、見知らぬ、でも見覚えがあるような女性と出くわす。兄の名刺を持っているが、警察庁で働いている役人であるはずの兄が身分を偽ったらしい。蒼太は、兄の要介が不在であることを告げ、成り行きで彼女と話をすることになった。水泳選手の秋山梨乃だと分かった蒼太は、彼女から、彼女の祖父の死と、兄・要介の奇妙な行動を聞く。何故兄が、植物のことについて調べているんだ?
そこで思い当たるのが、子どもの頃の習慣だ。毎年入谷で開かれている朝顔市に家族で出掛ける習慣があった。また蒲生家には、再婚相手の息子である自分には立ち入れない、父と兄の強い結びつきみたいなものがあった。子どもの頃から不思議だったその秘密が、もしかしたらはっきりするのかもしれない。
祖父の死の謎を解明したい梨乃と、兄の奇妙な行動と、蒲生家の不可解な謎を追うつもりの蒼太がタッグを組み、「黄色いアサガオ」の謎に挑んでいく…。
というような話です。
東野圭吾はやっぱり巧いな、というのが率直な感想です。なかなか読ませる物語を書く。東野圭吾の作品を読むのは久しぶりだったけど、やっぱり巧いなぁ、と思います。
冒頭で、二つの、関係があるんだかさっぱり分からないエピソードが登場する。一つはとある殺人の、もう一つは朝顔市の。そこから、梨乃と蒼太が絡む物語が始まるわけだが、そこでも、繋がりそうもないような出来事が様々に登場しては、一つの物語として収束していく過程は見事だと思います。
アサガオに黄色は存在しない、という事実から、その壮大な背景を作り上げてしまう。江戸時代にはたくさん存在していた黄色いアサガオが何故消えてしまったのか、という実際の出来事に、著者なりの解釈を作り上げている。そしてそれが、見事にミステリと絡み合っている。嘘は大きいほどバレない、という話があるが、本書はまさにそんな感じで、最終的な着地点がなかなか壮大なので、どこまで嘘なのかわからなくなってしまうような感覚があります。まあ実際は、本書で描かれているようなことはありえないんだろう、と思いつつ、ホントにそうだったら面白いな、と思ってしまう自分もいます。
真相に行き着く過程も、些細な事実を少しずつ積み上げていくような形で、非常によく出来ていると思う。真相の究明には、梨乃と蒼太のチーム、刑事の早瀬、蒼太の兄の要介、そしてもう一人いて、四つ巴という感じで進んでいく。メインで描かれるのは、梨乃と蒼太のチームと、早瀬の捜査であるが、残り二つの暗躍も作中では非常に重要な要素となっていく。この四つがそれぞれに役割を果たしていくことで、ただの強盗殺人事件だと思われていた事件が、様々な背景を伴いながら解決していくのだ。巧い構成だなと思う。
まあそんなわけで、東野圭吾の作品を読むと、巧いなと思うのだけど、逆に言えば、物語的な巧さしか印象に残らない、という言い方も出来る。読みながら、自分だったらどうだろうなどと考えたり、感情が揺さぶられたりするようなことはない。東野圭吾の作風は様々で、東野圭吾の作品の中にもそういう、思考や感情を刺激する作品はあるのだけど、ここ最近の東野圭吾の作品の印象では、そういう作品少なくなってきているのだろうな、と思う。「白夜行」「手紙」「時生」のような、ストーリーの面白さだけではない何かを持っているような作品は、最近出していないように思う(最近の東野圭吾の作品を読んでないくせにこんなことを言うのはどうかと自分でも思うけど)。
本書でも、ストーリーの面白さだけではなく、梨乃と蒼太それぞれが抱える問題が、事件解決と平行して解されていくような展開も用意されている。作品全体のテーマと上手く合わせる形で彼らの成長を描く展開は、やはり巧い。巧いが、しかしやっぱり、巧いなぁ、としか思えないのだ。巧いみたいな風にしか思えない、というのは、貶してるんだか褒めてるんだか分からないが、巧い以上の何かが欲しいんだよなぁ、と思ってしまう自分がいるのは否定出来ない。
とにかく、文章は圧倒的に読みやすいし、ストーリーも実によく出来ている。これだけのページ数の作品を一気に読ませるのはさすがだ。そういう意味でやはり東野圭吾は凄い作家だなと思う。
東野圭吾「夢幻花」
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