黒夜行

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告解者(大門剛明)



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僕は「更生」という言葉に、なんとなく違和感を覚えてしまう。
「更生」という言葉を使う場合、「良い状態」と「悪い状態」がはっきりと区別されているイメージがある。たとえば本書のように犯罪を例に取ろう。犯罪を犯していない状態が「良い状態」で、そこから犯罪を犯すことで「悪い状態」へと移る。そしてそこから、完全には無理でも、犯罪を犯していないのと同等の「良い状態」へと戻ること。これを「更生」と呼んでいるのだろうと僕は解釈している。

でも、本当に「良い状態」と「悪い状態」ははっきり区別できるのだろうか?つまり僕が問いかけたいのは、犯罪を犯していない人間が常に「良い状態」と捉えられるべきなのか、ということだ。

僕は、すべての人間は常に「良い状態」と「悪い状態」のミックスなのだと思う。犯罪を犯していようが犯していなかろうが、どんな人間も常に「良い状態」と「悪い状態」を持っている。そして、犯罪を犯した者だけが、見えるところに「悪い状態」というラベルを貼られる、というだけなのだ。

一度犯罪を犯した人間を怖れる気持ちは、分からないわけではない。確かに、ほとんど病気のように犯罪を繰り返す者もいるのだろう。そして、どの犯罪者が病気のようであるのか判断つかないわけだから、一緒くたに括って怖がろうという態度は分からないではない。あるいは、犯罪を犯したことがあるという事実で、それ以降のどんな人間性も否定したいという気持ちになる人もいるのだろう。僕の中にはたぶんそういう気持ちはないが、まあ分からないではないと思う。

ただ、一度犯罪を犯した人間を怖れるのならば、それと同じくらい、一度も犯罪を犯したことがない人間も恐れなければおかしい、と僕は思ってしまう。世の中の犯罪すべてが、かつて犯罪を犯したことがある人間のみによって行われているのであれば、その態度は理解できる。しかし実際には、過去に一度も犯罪を犯したことがない人間が何らかの犯罪に手を染める絶対数の方が多いのではないかと思う。

「更生」という言葉を使う時、それは、人間の絶対的な評価のように聞こえる。人間が、悪から善へと変わる、そしてそれが外から誰によっても判断できる。そういうものとして「更生」というのは捉えられているように思う。

しかし僕には、「更生」というのは、相対的な評価でしかないと思う。犯罪で言えば、加害者と被害者、あるいは被害者家族との間の問題でしかないのではないかと思う。加害者と被害者の間で何らかの納得があればそれは「更生」だろうし、どれだけ素晴らしい振る舞いをしようが、加害者の振る舞いを被害者が許せなければ「更生」は達成できなかったと判断するしかないのではないか。

『更生の理想像を追いすぎることがかえって出所者の更生を阻んでいる気がする』

僕の意見とはまた違った文脈で出てくる文章だが、僕もそんな風に思う。「更生」というのは、無関係の人間が外から見て判断できるような絶対的な評価ではない。当事者同士の納得という点に根ざした相対的な評価でしかない。本書で描かれるのとはまるで違う結論だが、僕は本書を読んでそんな風に感じた。

さてその上で、自分が犯罪被害者になった場合、加害者をどう許すだろうか、という問いかけを自分にしてみる。

やはりそれは分からないな、と思う。

自分が被害に遭ったのか、自分ではない誰かが被害に遭ったのか。取り返しのつく被害なのか、そうではないのか。様々に状況があって、イメージ出来ない。けど、なんとなく僕のイメージは、相手を許しもしないし憎みもしない、という状態になるようにも思う。

憎しみという感情は、疲れる。

『遺族会を辞めたのは怒ることが、マイナスになるとしか思えなかったからだ』

憎しみそれ自体が生きるエネルギーを生み出す、ということもあるのかもしれないけど、僕はあまりそのイメージが出来ない。僕の場合は、相手に憎しみの感情を抱くために自分のエネルギーが吸い取られていくという感じになるだろう。それが僕にとって、継続できる状態であるようには思えない。

それでいて、相手を許すことはしないんだろう、という気もする。なんとなく、許してしまったらそこで終わってしまう気がするのだ。許したところから新しい関係性が始まる、なんていうこともあるのかもしれないのだけど、僕にはイメージ出来ない。結局、他人というものを信頼していないのだろう。許さない、という選択をすることで、何かを(何なのかは分からないけど)終わらせない、という選択をする。僕はそういう行動を取りそうな気がするな、と思う。

『更生した―そんな言い方がそもそもおかしいんじゃないですか?更生ってものはいつも途中。決して完成なんてしないものなんです。今自分の中に心からの謝罪の思いがないからといって絶望する必要なんてない。毎日必死で頑張って前に進もうと努力する…地味な行為の積み重ねの中に更生はあるんです。更生した、しない…白か黒かで見るものではないんです』

更生、というのは、日常の中でなかなか考えることがない問題だ。それは幸せなことなのだろうが、一方で、そうであるが故に議論も深まらない。そういう部分もあるだろう。だから、誰もが手探りで進んでいかなくてはいけないのだろう。

内容に入ろうと思います。
金沢市の中心部から離れた町にある鶴来寮。ここは、去年古い教会を改築して出来た更生保護施設だ。刑務所を出たが身元引受人がいない者を一時的に受け入れている。期間は2ヶ月。その間に就職活動をし、家などを借りて自立する準備を整えていく。更生保護施設は全国に100ほどあり、刑務所を出た4人に1人はこの更生保護施設を利用しているという。地域住民の反対に遭いながら、信念を貫いてこの更生保護施設を作り上げた越村育子所長は、さらなる計画へと邁進するが、しかし前途は多難のようだ。
そんな鶴来寮で深津さくらは働いている。29歳。60歳を超えた職員ばかりの中で、さくらは異質な存在だ。社会福祉士でもあるさくらはここで、補導員として働いている。寮生の世話などをする係だ。
鶴来寮は比較的軽微な犯罪を犯したものが送られる施設だが、ある日所長から、23年前に強盗殺人を犯した男が今度入所するという話を聞かされる。久保島健悟、43歳。どんな人物だろうかと若干の不安もありながら入寮までの日々を過ごすさくらだったが、実際に目にした久保島はとても過去に殺人を犯したとは思えない誠実な男で、さくらは久保島に好感を持つ。
一方で、鶴来寮からそう遠くない場所である日、能崎亘という男が殺されているのが発見された。梶輝夫は、山内裕貴と共にこの事件の捜査に関わることになるが、容疑者はなかなか見つからない。かつて金沢周辺に存在し、ある人物が復活させたSWORDという暴走族との関連が疑われているが…。
というような話です。

重いテーマの物語をうまく読ませる物語に落とし込んで、エンタメ作品としても良質に仕上げた作品だと思いました。

まず、「更生」というテーマを非常にうまく扱っている。ただ単に犯罪者は更生保護施設を背景にして物語を描いたというだけではなく、「更生」というものが物語の中でかなり重要なモチーフとなっている。ストーリーと分かちがたく結びついていて、ストーリー展開と共に、「更生」というものの現実やあり方について自然と考えさせられる。

特にそれを体現するのが久保島というキャラクターだ。物語の中心であり、さらに「更生」というものについて考えさせられる中心人物でもある。久保島は何をしたのか、そして何をしなかったのか。鶴来寮で働き始めて半年、それなりに多くの犯罪者を目にしてきたさくらの心を揺れ動かした男は一体何を抱えているのか。物語は最後までどう着地するのか分からずにハラハラさせられ、その展開が「更生」というものの意味を改めて考えさせるのだ。

『君の行為は何があっても許せない。だが君という人物は別だ。私に見せて欲しい、ありのままの君を。君が更生したかどうか、そんなことは知ったことではない。だけど君と向き合うことで私は戦いたい、怒りと。見極めたい、赦すことに本当に意味があるのかを!』

『仮釈放者がまず考えることは生きること。つまり社会復帰。被害者のことを思うことはどうしても二の次になる。それが現実です』

『人間簡単に更生できるもんじゃない。そういうことだ』

犯罪や犯罪者と様々な立場で関わる者達が、自分の境遇や経験を背景に、自分なりの考えを披瀝する。どれが正しいということはないし、どれが間違っているということもない。少なくとも、加害者でも被害者でもない人間が言えることは多くはないだろう。

『犯罪者が自由に出入りできるなんて危険すぎる。せっかく子供の教育を考えて自然の豊かなここ鶴来に新居を構えたのに困る、鶴来から出て行け』

仮出所者は、こういう意見とも戦っていかなくてはいけない。犯罪を犯していなくても、普通に生きていくことが大変になりつつある世の中。犯罪者が生きていくのは容易ではないでしょう。そういう現実も、本書ではしっかりと描かれていく。犯罪者の人生について、普段考えることはない。本書は、それを知るいいきっかけになるだろう。

久保島の行動をどう捉えるか。これはなかなか難しい問題だと思う。久保島の行為は、当然、明らかに悪だ。犯罪だ。しかし行為そのものには賛同できなくても、久保島の気持ちに共感できる人というのは多いのではないか。正直に言うと、僕には久保島の気持ちがよく分からないのだが(具体的には書かないが、久保島の行動のベースになっている感情が僕の中にはあまりない)、理解できる人もいるはずだ。実際、久保島と敵対するはずのある人物は、途中から久保島への共感の気持ちが膨らんでいく。許される行為ではないが、しかし仕方ない事情があった、と考えたくなる自分を認めている。

『蛾はどこまで行っても蛾よ、決して蝶にはなれない』

難しい問いをエンタメの中にうまく混ぜ込み、あらゆるページで読者へ答えのない問いを突きつけてくる物語です。

大門剛明「告解者」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)