黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

山羊座の友人(原作:乙一 マンガ:ミヨカワ将)

祈るしかない。理不尽に出会わないように、と。理不尽に目をつけられないように、と。

『僕たちはただ、この怪物の次のターゲットにならないように、息を殺し、頭を低くして生活するしかなかった』

理不尽なものというのは、世の中に様々に転がっているだろう。それが、自分が招いた理不尽なら、諦めもつく。
しかし、自分に非がないのにもたらされる理不尽は、本当に、ただ不運でしかない。

そんな理不尽に囚われた時、人間はどう振る舞うべきなのだろうか?
この辺りのことは、社会の中で、「不運な例外」として残酷に無視されているように感じることがある。建前上は、すべての人間を幸福にするために社会は存在するはずだが、誰もそんなことを信じてはいないだろう。ある程度の犠牲は仕方がない、切り捨てられる部分があっても、そんなものかと思うしかない。

それが、自分でない限りは。

人間はみな、自分は大丈夫だと楽観しているから、この不安定な社会を消極的に肯定しているに過ぎない。社会が、構成員すべてを幸福にすべきだ、というのは理想に過ぎないよ、なんて口を利けるのは、自分が切り捨てられる側にならない、根拠のない自信があるからに過ぎない。

で、不運にも、自分に理不尽が降りかかってきた時に、慌てふためく。自分には降りかかってこないと思ってたから、この社会の仕組みをとりあえず承認してただけなのに…と後悔にさらされる。

僕らは、そんなことを繰り返して、忘れて、また繰り返して、忘れての連続の中にいる。忘れてしまわなければ、この理不尽を消去出来ない不出来な社会を、とりあえずにせよ容認出来なくなってしまうからだ。

『結局僕は…かわらないんだ。生きてる限りずっと…』

理不尽にさらされた時、さらされた当人、そしてその周囲の人間はどう振る舞うべきか。

『僕はずっと、自分じゃなくて良かったって思ってたんだ』

僕は、逃げるだろう。自分がさらされた当人でも、周囲の人間でも。

『自分が生き残るために』


高校生の松田ユウヤは、平凡な学生として過ごしている。友達もいて、なんとなく喋る女子もいる。不良もいじめも視界に入る場所にあるが、しかしそれは自分には関係ない。そう思い込むことでささやかな高校生活を維持しようとしている。
ユウヤが特異な点は、自宅にある。高台にあるその家は、風の通り道になっているようで、ベランダには様々なものが飛んで来る。卒業アルバム、タケコプター、生きた小犬。ユウヤは、同じクラスの本庄ノゾミにだけは、その特殊なベランダの話をしていた。小犬の引き取り手を探すポスター作りを手伝ってくれた時に話した。それから本庄さんには、面白いものが飛んできた時には話すことにしていた。
ただ、あの新聞の話はしなかった。別に“面白い”わけじゃなかったからだ。
今から一月先の新聞。ある日ユウヤのベランダに、それが飛んできた。その記事を信じるなら、未来に殺人事件が起こることになる。
夜。ユウヤは、金城という暴君にいじめの標的にされている若槻ナオトに遭遇した。
血まみれのバットを持ったナオトと。

乙一の小説を久しく読んでいないなと思うのだけど、久々に乙一らしい物語を読んだな、という感じです。

乙一は、「ベランダに謎のものが飛んで来る」みたいな、非現実的な要素を物語に入れ込んでくることが多い印象がある。しかし、完全にファンタジーにはしない。物語を構成する要素の一部を非現実にするのだ。そしてそれ以外は、リアルさを貫く。そうすることで、乙一が描き出すリアルが、生々しくなりすぎない。物語として受け入れやすい。

このマンガで描かれるリアルの部分は、普通に描き出せばとても生々しい。同じ学校に殺人犯がいた。少年がいじめられている場面は、多くの生徒が目撃している。殺人、いじめ、同級生の逮捕…。感情をはっきりと露わにしなかったり、判断基準に合理性がなかったりと、なんとなく現代の若者らしいと僕がイメージする“リアル”な登場人物たちがその事件の中に放り込まれていく。普通に描けば、重たくなる話だ。

しかし、「ベランダに謎のものが飛んで来る」という設定が、その重苦しさを柔らかくする。重苦しい描写が続いても、ベランダの設定のお陰で、描かれている事柄をリアルに捉えすぎずに済む。ワンクッション置いて、物語なのだ、という捉え方が出来る。それでいて、リアルな部分の重苦しさ自体を取り除いているわけではないから、重苦しい感覚は残る。瞬間的に、見えなくしているだけだ。そうやって、描写の軽重を調整しながら物語を進めていく上で、このベランダの設定は実にうまく活きてくると思った。

『松田くんは、生きてる実感て感じたことある?』

“普通”の人間は、そういう問いを発しない。何故なら、生きていることが当然だからだ。しかし、理不尽にさらされた人間は、自分が生きていて当然ではない状況に追い込まれているからこそ、生きている実感に思いを巡らす。

ナオトは、金城は生きている実感がなかったから、ナオトに猫を殺させたのだろう、と推測する。命を奪うことで、生きてる自分を確かめたかったのだろう、と。

金城は、何故生きている実感がなかったのだろうか?生きていることに疑問を持たない“普通”の人間であれば、そんなこと考えることもないだろうに。

金城にも事情があったのだ、と金城を庇い立てしたいわけではない。しかし、生きている実感を感じられないその背景に何があったのだろう、と気になった。金城に生きている実感があれば、きっと、金城も暴君のように振る舞わずに、誰も被害を受けずに済んだのではないか、と。

『僕も、自分はなんのために生まれてきたんだろうっていつも考えてた。でも、あの夜わかったんだ。
僕はこのために生まれてきたんだって』

僕がユウヤだったら、どうしただろう、と考える。
ユウヤと同じことをしただろうか?それとも、しなかっただろうか?
きっと、しないだろう。僕はしない。

じゃあ、ナオトと同じことは?
きっと、それもしないだろう。

正しいことをしたいと思うけど、それはとても難しい。
そしてもっとも難しいことは、何が正しいのかを判断することだ。
ユウヤの行動は?ナオトの行動は?正しかったのか、正しくなかったのか。

間違っててもいいから、どちらかに断言できる人間になりたいものだ、と思う。

原作:乙一 マンガ:ミヨカワ将「山羊座の友人」


関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/3072-91317197

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
17位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
12位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)