黒夜行

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ダブ(エ)ストン街道(浅暮三文)

これほど奇想天外で類似する作品を探すのが困難な作品もないだろう。

物語は、日本人考古学者であるケンが、恋人であるタニヤを探す、というものだ。一言で表現すれば、本作はただそれだけの物語だと言っていい。
ケンは、いつでもタニヤを探していた。タニヤはモデルで、スタイル抜群の美女なのだが、一つどうにもならない欠点があった。夢遊病である。タニヤは、気づくとどこかに行ってしまっていた。しかしこれまでは、どうにかタニヤを見つけ出すことが出来ていた。
今回は相当難しそうだ。
ある日タニヤから手紙が届いた。その手紙には、タニヤがダブストンだがダブエストンだかという場所にいると書かれていた。ケンは世界中の文献を漁り、ごく僅かな記述を拾い集めた。
その結果、いくつかのことが分かった。ダブ(エ)ストンは、「世界最後の謎の大地」であり、誰も行き着くことの出来ない伝説の地域だと言われ、赤道の南のどこかにあるらしい。さらに、ダブ(エ)ストンから唯一帰還したと言われるポール・カーライルが記した「赤道大全」という書物が存在するが、しかしそこにも、ダブ(エ)ストンへの行き方は書かれていなかった。
しかしケンは、放浪の末、どうにかダブ(エ)ストンらしき場所に辿り着いた。彼はそこで、郵便配達人や半魚人、蝶ネクタイをした熊などと遭遇し、幽霊船の船長や移動し続ける王などが同じく迷い続けるこのダブ(エ)ストンで、タニヤを追い求めて放浪を続ける…。
というような話です。

大昔に一度読んだことがあって、今回色々あって久々に読み返してみました。本作は、メフィスト賞受賞作です。メフィスト賞というのは、異様な作家を多々輩出してきたかなり異端の新人賞なのだけど、その受賞作の中でもトップクラスに奇妙で変わった世界観が描かれているでしょう。

解説で石田衣良も書いているけど、奇妙な世界で人探しをする、というだけの要素で小説を書くのは相当勇気がいることだろうと思います。ストーリーは、本当に、ただひたすら主人公が彷徨い歩いているだけです。もちろん、想像力を駆使して描かれるこの奇妙な世界の描写は面白いし、伏線を回収するような展開も存在します。しかしそれでも、物語を構成するのは、基本的に主人公の彷徨です。それで、長編一作を構成してしまうのだから、凄まじいなと思います。

ダブ(エ)ストンという地域は、無茶苦茶に描かれているようで、世界観に統一感がある。ダブ(エ)ストンは、常に霧と雲に覆われ、ほんの少し先の景色しかみえない。何年かに一度陽が射すことがあり、その時に「赤道祭」というお祭りが開かれる。それぐらい見通しが利かないのが日常なので、人々は常に迷い続けている。ポストを探すのに、生き別れた兄弟・家族を探すのに、街へと向かうのに、人々は常に迷い続ける。

そういう世界がもしあったとしたらどうなるのか、ということをきちんと想像して物語のそこかしこに要素として散りばめているのが面白いと思う。家がどうなっているか、新聞社がどうなっているか、ケンが作ったある物が何故人気を博するのか。また、何故カーライルがダブ(エ)ストンから脱出出来たのか、その理由が明かされる部分も面白いと思った。

『なにかを見つけた時も、そりゃ悪くないが、俺にはなにかを探してる時の方が楽しくて仕方ない』

本書は、ただ奇妙な世界観を楽しむ小説をして読むので十分だと思うのだけど、深読みしようと思えば、人生とはケンのように、迷い続けることなのだ、というようなメッセージとしても読める。僕らは、常にどこかに向かいながら人生を歩んでいると思っているけど、結局未来はわからないし、自分の選択や決断が自分の人生にどれほどの影響を与えているのかもはっきりとは分からない。それはケンが、ほんの僅か先も見通せない、しかも出会う人皆が迷っているダブ(エ)ストンを彷徨い歩いているのと、大差ないのではないかと思う。

読者は、ダブ(エ)ストンの描写を奇妙だと感じることだろう。しかし、僕らの人生も、突き詰めて考えてみれば、ダブ(エ)ストンを歩いているようなものなのかもしれない。僕らは、人間がこんな風に生きていくそのあり方にただ慣れてしまっているだけで、人間の生き方に慣れていない他の生命体から見たら、ケンがダブ(エ)ストンを彷徨っているような奇妙な光景に映るのではないかと思う。

ケンは、タニヤを探し続ける。それは、目的地に辿り着けないようなものだろう。しかしケンは、それでもタニヤを探す旅を続ける。

『タニヤだけだ。それが私のもっとも望むものだ。しかしタニヤを目的にしてはならない。タニヤを探す旅こそが目的なのだ』

誰もが望んだ人生が送れるとは限らない。どころか、ほとんどの人が、自分が望んだ通りに生きることは出来ないだろう。しかしそれでも、望んだ生き方を目指して進み続けること、それ自体が人生の望みになっていく。望んだ場所に辿り着けないことを絶望と捉えるのではなく、望んだ場所を目指し続けられることを幸運だと捉える。それこそが人生なのではないか。深読みすれば、そんな風にも読めるのではないかと思います。

不条理が折り重なりながらも、ごく僅かな論理によってバラバラにならず繋ぎ止められているダブ(エ)ストンという「世界最後の謎の大地」での冒険の軌跡を、是非楽しんでください。

浅暮三文「ダブ(エ)ストン街道」



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小説・新書以外

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6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
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コミック

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
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5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)