セブン 秋葉原から消えた少女(浅暮三文)
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時々、無性にこんな風に思う時がある。
多数派に馴染める人間だったら良かったな、と。
僕はどうしても、世の中の多数派に馴染めない。テレビや雑誌の情報に一喜一憂し、みんなで群れて騒いだりすることが楽しいと信じていて、そういう楽しさが全人類共通だと信じているような、そういう多数派に。
そういう多数派の集団の中にいても、それなりに振る舞うことは出来る。子供の頃から、多数派に馴染めない感覚を抱きながら、多数派の中で生きていく努力をしてきたからだ。その辺はお手の物である。ただ、多数派の中で多数派のフリをしていると、心が削られていく。
多数派に馴染めないと、生きていくのに余計な力を使う。あぁめんどくせぇなと思うことが多い。そういう時に、多数派に馴染まなくても生きていくための無駄な労力なんて使いたくないな、ナチュラルに多数派に馴染めれば良かったのにな、と思う。
今の僕の価値観では、多数派として生きていくことは怖気を振るうほど気持ち悪いことだけど、最初から多数派の感覚のまま生きているなら、そんな風に感じることもないだろう。自分が多数派であるということさえ特別意識することなく、多数派向けにデザインされたこの世の中で楽しく生きていけたことだろう。
まあとはいえ、僕はこの多数派に馴染めない感覚は、決して嫌いではない。その感覚のお陰で、自分を差別化し、自分をどう見せるかをコントロールすることも出来るということにも気づいている。その感覚んぽお陰で、多数派として生きていたら見えなかったり気づかなかったりすることにも意識を向けられるのだと思える。悪いことばっかりじゃない。とはいえ、やっぱり時々、あぁめんどくさいなと思うのだ。
内容に入ろうと思います。
秋葉原にほど近い湯島のホテルで、女子高生が殺害されているのが発見された。湯島を管轄するM署の刑事である如月七、通称セブンは、かつて25歳の若さで本庁の捜査一課に刑事として配属された際刑事としてのイロハを叩き込んでくれた土橋源造と組んでこの事件の捜査に当たることになった。
しかし、担当は被害者周辺の捜査。被疑者を追う捜査の本流からは外されている。
それは、セブンに理由の一端がある。M署の署長である若きキャリア・友部は、優秀な成績でありまた美貌も兼ね備えたセブンの引き受けを打診されて受けた。女刑事を上手く扱えることを示せればポイントが稼げると判断したのだ。しかしセブンは、厄介な女だった。恐ろしく優秀だが、組織の駒としては不適格。捜査はチーム戦だということが理解できていないのだ。そのため友部とセブンは衝突し、友部はセブンを捜査の傍流に押しやったのだ。
捜査線上にすぐ、容疑者が浮かび上がった。防犯カメラに映っていた、被害者の女子高生と同じ部屋に入った男である。しかし、その詳細はなかなか分からない。さらにセブンと土橋は、防犯カメラの男の行動に違和感を覚える。犯行が計画的であることは明らかなのに、何故この男は防犯カメラにその姿をさらしているのだろうか?
二人は被害者側から捜査を進めていく中で、被害者の少女が秋葉原で特殊なアルバイトをしていたことを突き止めるのだが…。
というような話です。
なかなか面白い作品でした。僕の中で浅暮三文という作家は、相当奇妙奇天烈な作品を書く作家だという認識だったので、本書のような真っ当な警察小説を書いたというのが意外でした。浅暮三文らしい、あのぶっ飛んだ奇妙奇天烈さを求めて本書を読むとするならばその期待は外れるでしょうけど、警察小説としては普通に面白い、よく出来た作品だと思いました。
ストーリーそのものにはあまり深く触れられませんけど、事件が起きて捜査が始まり、傍流の捜査から興味深い事実が見つかり、また事態が進展し、意外な真犯人に行き着く、という感じで、王道の警察小説という感じです。事件自体も、こんな言い方をすると誤解されそうですけど、特別奇妙なものではなく、現実に起こりそうな範囲の殺人事件という感じです。事件の背景に、秋葉原や学校を舞台とした非常に現代的な問題が横たわっていて、そのこともより、現実に起こりそうな雰囲気を感じさせました。
事件の本質的な部分にあるのは、居場所の問題だと言えるでしょう。誰もが簡単に繋がれる世の中になり、より多くの人と繋がれていることが価値を持つ世の中にあっては、関係性ごとに自分自身のキャラクターを変質させるというのはある種自然な行為だ。そういう世の中では、自分自身の肉体が所属する居場所、そして自分自身の心が所属する居場所が常に問題になってくる。居場所がほとんど限られている者、自分らしくいられる居場所にしがみつく者、望んでも辿り着けない居場所を憧れる者。居場所を求めるが故の行動が交錯して殺人事件という帰結を生み出してしまう。その切なさが巧く切り取られていると思います。
本書のちょっと特殊な点は、主人公であるセブンの存在にあるでしょう。セブンは、人の心がうまく理解できない。幼い頃の出来事がきっかけで、感情が湧き上がるべき場所が凍りついてしまったままなのだ。そんなセブンが、刑事として、事件に関わる人間に話を聞き、その心の動きを想像しようとする。事実を追うだけでは見えてこない景色を、心を想像することで覗き込もうとする。土橋というガイドに寄り添いつつ、心を感じ取れない主人公が人心を理解しようとする過程も面白い。
派手な展開はありません。事件が起こり、淡々と捜査が進んでいく作品です。ちょっと退屈に感じられる部分ももしかしたらあるかもしれないけど、現代的な背景と若者の心の奥底にある闇色の何かをうまく融合させながら、キリッとした雰囲気で描かれる警察小説です。
浅暮三文「セブン 秋葉原から消えた少女」
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