黒夜行

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離婚男子(中場利一)

内容に入ろうと思います。
長距離トラックの運転手である健二は、ある日帰宅すると、驚愕の光景を目にすることになる。なんと、マンションの部屋中の家財道具がすべてなくなっているのだ!蛍光灯の器具さえ外してもっていくという念の入れよう。
香織か…。
虚言癖があり浪費家で見栄っ張り、尻が軽くて浮気症、そのうえ口まで軽いし計画性ゼロの妻・香織とは、よく喧嘩をしていた。そういえば数日前、それなら全部持ってこの部屋から出て行け、と怒鳴った気がする…。しかし、まさか本当にやるとは。
香織が残したのは、娘の詩織(シーちゃん)だけだ。
トラックに乗ってばかりで、家のことは全部香織に任せっぱなしになっていた男が、突如、2歳半の娘の子育てを始め、生活全般を一手に引き受けなければならなかった!
長距離トラックの仕事を回してくれるのは父・秀二で、実家も近くにある。秀二はよく詩織の面倒を見ていた。母・美智子が入院したばかりでばたばたしているが、とりあえずは実家に預かってもらうしかない。
でも、その後はどうしたら…。
唐突な喪失感により香織の存在の大切さを思い知らされた健二は、香織の捜索・詩織の子育て、トラック運転手の仕事の三つをなんとか両立させながら、徐々に、自分自身がいかにダメだったかを知り、香織にどれだけ負担を掛けていたを知り、娘がいかに可愛いのかをさらに思い知らされることになる…。
というような話です。

これはなかなか面白い作品でした。
全体的には、荒唐無稽な部分もある作品で、だからリアリティを楽しむみたいな作品ではありません。ドタバタコメディのような雰囲気を楽しみつつ、ちょっとほっこりしたりほろりとしたりするような作品です。

本書ではとにかく、詩織(シーちゃん)が可愛い。本書の最大の魅力と言ってもいいでしょう。シーちゃんは、父親である健二は仕事でほとんど家に帰ってこない、母親の香織は、正直母親の自覚に欠ける女で、様々な形でシーちゃんに寂しい思いをさせている。
だからシーちゃんは、大人の間をうまく取り持つような発言をしたり、シーちゃん自身が大人であるかのような発言をしたりする。

「おさかなをたべなしゃい!けんかしたらシーちゃんエンエンするよ!」
「おじいちゃん、コレ今月ぶんのです。おとうしゃんが、ごめいわくをかけてます」
「あそこの中にね、ペタンするのが入ってるの。それをシーちゃんのお背中に貼ったらいいんだよ」
「今日はたいきゃくだ」
「だいじとだいじは、どっちもだいじだもんな」

本書から抜き出してきたシーちゃんの言葉だ。どんな場面での発言なのかわからないものもあるだろうから上手く意味が取れないものもあるだろうが、2歳半の子供とは思えないような言葉じゃないだろうか。

シーちゃんがいなければ、正直物語はどうでもいいと言えばどうでもいい。酷い振る舞いから妻に逃げられた男と、事情があったとはいえ娘を捨てて逃げた妻、そしてふざけているように会話やどつきあいをする健二の家族の物語は、コントや漫才みたいで面白いのだけど、でも小説としては割とどうでもいいと感じるような気がする。でも、そこにシーちゃんという要素がポンと放り込まれることで、一気に物語としての厚みが増す。大人が自己責任で困る分にはどうでもいいが、でもシーちゃんは、自分では選べなかった親に翻弄される無力な存在である。そんなシーちゃんをどうして行くのか、どう接して行くのかなどの部分は、切なさややるせなさみたいなものが入り混じってくる。全体的にはおちゃらけた、コントのようなやり取りが続くのに、シーちゃんの存在によってキュッと引き締まる部分を作り出すことが出来る。この作品において、シーちゃんの存在は非常に重要だ。

『でもね、なんていうか、家の外で働く者は、一日中家に居る人のことを、ヒマって思ってしまうのよね…』

本書はまた、夫婦や家族のあり方を考えさせる作品でもあります。この物語は、健二の視点で進んでいく。健二は、自分が金を稼ぎ家族を支えているんだ、という自負を持っている。そしてこの自負が、あらゆる物事への免罪符として働くはずだ、という傲慢さを持っている。しかし健二自身は、その傲慢さに気づいていない。自分は、当然のことをしている、と感じている。

しかし、香織が逃げ出したことで健二は少しずつ変わっていく。初めこそ怒り狂っていた健二だが、シーちゃんの世話や、あるいは香織の捜索の過程で知った様々な価値観が、健二を徐々に変えていく。それまで、何にも出来ない計画性のない女(ただし美人)だとしか思っていなかった香織のことを、少しずつ違った形で見るようになっていく。

この物語で示唆されていること、つまり「相手の立場に立って物事を捉えること」というのは、あらゆる関係性において大事だろうと思う。健二が徐々に気づいていったように、読者も、自分の言動の一つ一つを捉え直して、自分が健二のようになってはいないな、と考えなおしてしまうのではないかと思います。

最初から最後まで、コントのような漫才のようなおちゃらけた雰囲気で物語が進んでいきます。けど、物語全体を通して、日常の中で見失いがちなこと、つまり、当然のように近くにいる存在は決して当然ではないということ、子育ては思っている以上に大変だということ、失って初めて大切さに気づくこと、などを思い起こさせてくれる作品です。そして繰り返しますが、何よりもシーちゃんがべらぼうに可愛い。僕は子供とか好きじゃないけど、シーちゃんならちょっと育ててみたい気もします。

中場利一「離婚男子」


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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
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19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)