黒夜行

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戦略がすべて(瀧本哲史)

内容に入ろうと思います。
本書は、エンジェル投資家(アイデアと人しかいない状態の会社に投資する投資家)であり、京大で客員准教授を務めるなど、多方面で活躍する著者の最新刊だ。
巻末で著者は、本書をこう称している。

『本書は、時事評論の形を借りた、「戦略的思考」を磨くためのケースブックである』

本書では、その時々の(本書は、雑誌的な媒体での連載記事をまとめたもの)時事問題を取り上げ、それらに対し戦略的思考を施すことで、普通とは違った物事の見方をする、という訓練のための本だ。24のケーススタディがあり、それぞれについて著者なりの分析と提言を加えていく。

『もちろん、読者はその考えを受け入れても良いし、さらに発展させても良いし、あるいは、正面から批判して別の考え方を作っても良い。なぜなら、そうしたプロセスそのものが戦略的思考のトレーニングになるからだ。私は、本来読書とは著者と意見を戦わせる格闘技だと思っている。その点で批判も歓迎だ。
読書を自分の中で完結させる必要もない。本書を素材に、社内で、あるいは友人と議論をしても良いだろう。そこから出てきたアイディアを自分のビジネス上の課題に適用してみると、意外な結果が生まれるかもしれない。さらには、本書を「卒業」したら、様々な社会事象を素材に「勝利の方程式」を自分で考えてみることもおすすめしたい。
本書をきっかけにして、日常的に戦略的思考をする日本人が大量に生まれることを期待している』

僕自身、こういう風に物事を考えるのは好きだ。ただ、体系的に論理的思考や戦略的思考のやり方を学んだことはない。ふと思いついたことをきっかけにして、自分の元からあった価値観と、それらを繋ぐ仮説を点在させて、あとは言葉でうまく言いくるめてそこに道があるように見せる。なんとなく僕がやっているのはそういうことだろうなと思う。あまり素養のない人は割と騙せてしまうのだけど、素養のある人間には通用しない。常日頃から、ただ突飛なわけではなく現実に基づいた根拠があり、大多数とは違う視点から意見を出しながら多くの人を納得せてしまうような思考が出来たらいいなと思っているのだけど、なかなか難しい。

『外国語のスキルにせよ、スポーツの技術にせよ、メソッドや理論を学んだだけでは身につかない。それを実際に用いて自分ができるかどうか試し、自己修正をくり返していくことで初めて能力が向上し、それを我が物にできる。そのためにも、多くの問題を解いたり、「実戦」の場に出たりして、その成否を検証するプロセスを何度も経験することが重要である』

その通り。だからこういう思考を身につけたければ、日常的にこういう思考をする時間を作らないといけないのだ。ただ、何もないのにこういう思考をするのは難しいから、やっぱり株なんかをやったらいいんだろうな、という気はする。稼ぐことが目的ではなく、株式を買う際に会社について調べることで業績の良し悪しを判断する要素を見つけたり、株価の変動と連動しているものが何か見つけたりと、そういう思考と観察の練習のためにやってみるのはいいんだろうな、という気はする。

しかし正直なところ、本書を読んだ僕の一番の感想は、あーめんどくせー、というものだ。

『(プラットフォーム化について説明した後)もちろんこのやり方は、試される人材にとっては厳しい。だからあくまで、自らの能力を高め、優れた人材として評価を受け、高い報酬を得たいという者だけがこの競争に参加すればいい。こうした競争が嫌ならば、「コモディティ化」された人材として、大きな夢は見ず、賃金や条件の不満は飲み込んで、こつこつ働くしかない』

これは、戦略思考全般についての話ではなく、AKB48に代表されるプラットフォーム型のビジネスについての話なのだけど、この部分を読んで、あーこれは競争に参加しない方でいいやー、と思ってしまう。
純粋に、趣味的な意味で考えることは好きなのだけど、考え続けなければ生き残っていけない社会ですよ、なんて言われるとなんか嫌だなと思う。まあ、嫌もなにもそういう世の中になってしまったんだからどうしようもないし、競争が嫌なら「コモディティ化」された人材に甘んじればいい。僕は、高い報酬も、皆が憧れる地位も、そこまで望んでいないので、正直、人生をうまく渡り歩いていくための手段として戦略的思考を身につける、という意志は弱い。まあそこが、僕の最大の弱点だろうな、という感じはする。

本書で、どんなケーススタディが取り上げられているのか、いくつかざっと書いてみる。

◯AKB48に代表されるアイドルの売り出し方は、どのようにしてリスクを分散し、どのようにして利益を独占する仕組みになっているのか?

◯オリンピック誘致と、過去最多のメダル獲得の裏にあった戦略とは?

◯コンピュータのアルゴリズムによってコンテンツの収集・精査が行われる中、どんな編集者が生き残れるか?

◯会社を評価する際に、「人材市場」に注目すると良い理由は?

◯iPS細胞を生んだ土壌と、「選択と集中」の罠とは?

◯日本の未来は、北海道を観察すると見えてくる!?

◯ネットではなぜ「炎上」が起こりやすいのか?

◯東大入試の英語科目は、英語能力を見ているのではない!?

◯地方創生において、保護されるべきは「自治体」ではなく「個人」だ

扱われている内容はかなり多岐に渡ります。僕は、そこまで思考力が高いわけではないので、ふんふんと思いながら読んでしまうのだけど、思考力の高い人なら、ここは飛躍してる、ここは論証が甘い、みたいなことを感じ取ることが出来たりするのかもしれません。とはいえ、書かれている内容そのものより(内容そのものも充分面白いのですけど)、どのように思考を展開するのか、その道筋みたいなものを捉えて抽象化して自分なりに実践する。その繰り返しが大事なんだろうなという感じがしました。

本書に限らず、著者の著書にはよく「教養」の話が出てきますが、本書の中にも「教養」について触れられている箇所がいくつかあります。

『教養の一つの機能は、アラン・ブルームの言葉を借りれば「他の考え方が成り立ちうることを知ること」にある』

『それでは何が「教養」か。極端に言えば、それは「自分と異なる思想」全てを指す』

著者は、多様な情報にアクセスし、価値観を広げる可能性を持つはずのインターネットが、逆に蛸壺のような狭い価値観の中に人を押し込める結果になっている、というようなことを指摘している。僕もそれはずっと前から感じていたことだ。インターネットがなかった頃は、物理的に近くにいる人と、価値観がばっちり合わなくても関係性を築いていくしかなかった。けど今は、インターネットを通じて、限りなく価値観の合う人を見つけ出すことが出来る。そうなればなるほど、新しい価値観を受け入れない、凝り固まった狭い世界が構築されていくことになる。

そういう現状が存在するからこそ著者は、「教養」を「他の考え方が成り立ちうることを知ること」であり、「自分と異なる思想」全てであると捉えるのだ。

その一方で著者は、さらに「教養」の幅を広げようとする。

『トップマネジメントにとっての「教養(リベラルアーツ)」とは、どのような知識を持っているか以上に、どのような人材とどのような関係を構築しているか、その多様性、広がりと深さに置き換わることになる』

これも先ほどの、蛸壺型社会への警鐘から生み出されるものだ。蛸壺型社会では、価値観の似通った同じような人同士でずっとつるみ続けることが出来る。でもそれは、実に危険な環境だ。

『かわりに、何かアドバイスするとしたら、自分が普段付き合っている友人の多様性がどれくらい確保されているかを考えたほうが良い、と言いたい』

僕は、自らの行動力によってそれを実現させているわけではないが、この多様性については常に意識している。同じような価値観の人に囚われすぎないようにしているし、多数派の意見は知識として取り入れつつ、多数派から「あいつは俺たちとは違う」と思ってもらえるような振る舞いを心がけている。他人に対して興味を持つポイントは、「価値観が合うかどうか」ではなく、「ある物事に対して議論を深めるだけの思考力と言葉を持っているかどうか」だ。議論が深められるなら、価値観は対立したままでいい。むしろその方が面白い。BLやアイドルなど、それまで自分がまるで関心がなかったようなものにも、割とあっさり手を出してみたりする。そんな風にして、なるべく一箇所にとどまり過ぎないようにという意識は常にしている。

僕自身は今、現状のような蛸壺型の社会が、いつどんな風に崩壊するかな、というのを愉しみにしている。このあり方が、ずっと続くとは僕には思えない。どこかでまたパラダイムシフトが起こり、また全然違う人間関係の基盤が作られるだろう。そうなった時、蛸壺型に慣れてしまった人がどう振る舞うのか。それを見たいなと思っている。

個々のケーススタディには詳しく触れないけど、印象的だった箇所を二つ抜き書きしてみようと思う。

『「会社ではなく、市場に評価される人材を目指せ」といった考え方も最近多いようだが、そもそも、企業自身が市場から評価されようと懸命に努力しているのだ。ならば、「市場からの評価」というリスクは会社にとらせ、自分は社内という狭い世界で評価されることを目指し、イニシアチブをとって会社の変化を主導する。そのほうが、一般の労働市場に打って出ていくよりも、個人にとってのリスクははるかに小さいはずだ』

『それは、イノベーション、さらに言えば、資本主義というものは、少数意見が、既存の多数意見を打ち破り、新しい多数意見に変わっていくプロセスにおいて最も大きな価値が生じるからである』

本書の帯には、『バカは市場で勝ち残れない。』と書かれている。僕は、自分のことを、ここまで運だけでやってきた人間だと思っている。運だけでやってきたにしては悪くないところにいると思うんだけど、戦略的に将来のことを考えることをしていないので(そもそも、半年以上先のことを考えないように意識している)、これからどうなるのかさっぱりわからない。本書を読んで、やっぱり少しでも思考力を高めたいな、と思った次第である。

しかしいつも以上にまとまりのない感想になったな。

瀧本哲史「戦略がすべて」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
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18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)