黒夜行

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トイプー警察犬 メグレ(七尾与史)

内容に入ろうと思います。
警察犬訓練士である早乙女の相棒は、メグレという名のトイプードルだ。トイプードルは、警察が直接飼育して訓練する直轄犬として選ばれることはまずないが、嘱託警察犬審査に合格すればどんな犬種であっても警察犬になれるのである。
メグレには、ある特殊な能力があった。それは「悪意臭気」や「殺意臭気」を嗅ぎ分けることが出来る、ということだ。そうとでも解釈しなければ理解できないことを、メグレはやってのける。
メグレは、犯人をピタリと当てるのだ。メグレは、尻尾の振り方によって、誰が犯人であるのかを、少なくとも早乙女には明確に分かるような形で教えてくれる。
しかし…何故その人物が犯人であるのかを考えるのは、人間だ。

一流ホテルの厨房で、カリスマシェフの死体が発見された。各界の著名人が訪れることでも有名だったその店のシェフの死は、大きな衝撃を与えた。防犯カメラにも何も写っておらず、これと言った物証も見つからない。敵は多かったというが、容疑者らしい人物は見つからない。そんな時、メグレが犯人を指摘する…。

警視庁から所轄へと左遷された佐倉は、変死体発見の報を受けて現場に駆けつける。しかし、状況は明らかに自殺。自殺以外の可能性はほとんどないような現場だった。自殺で処理される…はずだったのだが、メグレがある人物を犯人だと指摘する。しかしそれは、およそ考えられないような人物だった…。

というような話です。
設定と、その設定の活かし方は巧いなと感じました。作品全体としてみるとまあまあという感じですが、メグレという設定を一つ組み込むことで、新しい形のミステリを生み出しているなと感じました。

本書の面白い点は、メグレがいることで、普通のミステリではまず不可能な事件を解き明かすことが出来る、という点です。

本書は、「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のような、いわゆる「倒叙物」と呼ばれるタイプのミステリです。メグレの存在によって、犯人が誰であるのかが先に分かる。そしてそこから、何故その人物が犯人であるのかが明かされていく、という流れになっていきます。

しかし、「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」では、犯人が何らかのミスをしないといけないわけです。犯人側が何らかのミスをするからこそ、コロンボや古畑任三郎が犯人であるという疑惑を抱き、そこから相手を突き崩していく。犯人が何らかのミスを残し、それに探偵側が気づく、という構造が必須なわけです。

しかし本書の場合、その構造は必ずしも必要ではありません。ここがなかなか斬新だなと感じました。本書の場合、言ってしまえば“完全犯罪”であっても、メグレによって犯人だけは指摘できるわけです。もちろん、そこから、何故その人物が犯人であるのかを考えないといけないわけですが、疑惑を抱くきっかけの部分で、犯人側のミスを必要としない。これはなかなか設定として面白いと感じました。

本書では、自殺だと思われていたものが…という事件で、この設定が実に巧く活かされていました。普通のミステリの構造では、絶対に解き明かせないだろう事件を解き明かすことで、メグレの存在感を際立たせています。まあ正直、話しとしては色々無理があるような気もするんだけど、チャレンジそのものは面白いと思いました。

「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のようなリアルさはないけど、メグレというファンタジックな存在を受け入れることで、リアリティはないが物語に新たな可能性を持たせる構造を生み出しているなと思いました。

どうやら著者の他の作品との繋がりも若干あるようだし(僕はそちらの作品を読んでないから断言は出来ないけど)、メグレの元飼い主の話も深入り出来そうなので、もしかしたらシリーズになるかもしれないな、と思いました。

七尾与史「トイプー警察犬 メグレ」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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7位 「自分探しと楽しさについて
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)