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オーブランの少女(深緑野分)



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内容に入ろうと思います。
本書は、5編の短編が収録された短編集です。

「オーブランの少女」
美しい庭園を持つオーブランの屋敷には、鉄条網で囲われた一角がある。老女二人が住むその屋敷には噂があり、どれもその鉄条網で囲われた一角に関するものだった。
そしてある日、驚愕するほどやせ衰えた悪鬼が老女の内の一人を殺害する、という事件が起こる。
事実関係はまったく分からないままで終わるかと思われたが、老女と仲の良かった少女が手渡された手記から、かつてそこで何があったのか分かった。

両親から引き離され、オーブランの屋敷に連れてこられた少女。ここで少女は、マルグリットという名をつけられる。他の少女たちも皆、花の名をつけられ、そしてマルグリットと同じく、どこかしらに障害を抱えていた。
初めは近寄りがたかったミオゾティスという少女と仲良くなったマルグリットは、両親に棄てられたのかもしれない、という疑念を抱きながら、マダム・キャロが運営するこの施設について考えていた。病弱な少女たちを集めて、一体ここでは何をしているのだろうか?

「仮面」
ウォルター・アトキンソン医師は、ベツィ夫人の往診にやってきた。そしてその夜、事故に見せかけてベツィ夫人を殺害した。

アトキンソンは、結婚もせず、読書以外も愉しみを持たぬまま、静かに暮らしていた。しかし、ベツィ夫人の夫で、「ルナール・ブルー」というキャバレーを経営しているドミニクに、ショーに誘われた。気が乗らないまま観に行ったアトキンソンは、そこでリリューシカという恐ろしく美しい踊り子を見つけ、心を奪われてしまう。姉のアミラは、ベツィ夫人の世話をしている醜い女だった。アトキンソンはリリューシカと関わるようになり、やがて姉妹から助けてくれと頼まれるようになる…

「大雨とトマト」
特別美味い料理を出すわけでもない料理屋を続けている店主は、ある大雨の日、10年来通っている常連客を眺めていた。特別美味いわけでもないこの店に何故通い続けているのか、それもこんな大雨の日に。店主は自分の店ながら不思議だった。
同じ日。一人の少女が店にやってきて、トマトを食べたいという。メニューにはない簡単なサラダを出してやったのだが、店主はどことなくその少女に見覚えがあるような気がした。
「…父親を、さがしてるんです」
そう少女が言った時、店主は、16年前にたった一度だけ浮気をしてしまった時のことを思い出した。まさか、あの時出来た子どもだとでも言うのか…。

「片想い」
岩本薫子は、ガタイのいい体つきをして、およそ可憐とは程遠い容姿をしていた。一方の水野環は、長野県の資産家の娘であり、成績も優秀、可憐な容姿も相まって、少女たちから日々手紙が絶えない。しかし環は、“エス”になって欲しい、という願いをすべて断っていた。薫子は、環を守るためなら大木にでもなろう、と決意していた。
ある日、薫子と環が住む寄宿舎に、長野からやってきたという環の女中頭が現れた。ちょうど環は不在だったのだが、女中頭と反りが合わなかったと環が言っていたことを思い出し、薫子は機転を利かせた。その後帰ってきた環は、女中頭がやってきたことを知るや慌てふためき、自室に篭ってしまう。
…やがて薫子は、真相に気づいてしまう…。

「氷の皇国」
夏になると太陽が沈まない、そんなユヌースクのとある小さな村に、ある日死体が流れ着いた。その死体は首がなく、また相当の年月が経過したと考えられるものだった。死体が流れ着いた湖の上流には、ユヌースクの廃城があり、かつて蛮行で有名だった皇帝が治めていた。皇帝がかつて処刑した死体のどれかだろう、と酒場で噂をし合った。
そこにいた白髪の吟遊詩人が、その死体にまつわる歴史を語る。それは、皇女であるケーキリア、皇子であるウルリク、かつて皇女の近衛兵していたヘイザルと、その娘エルダの、複雑な感情と関係性が入り混じった哀しい物語だ…。

というような話です。

時代や地域など、まるでバラバラな様々な物語を収録している作品です。一冊の本としてのまとまりはありませんが、多様な物語が混在する作品は、どことなく不可思議な雰囲気を醸し出しているような感じがします。

本書は、基本的にはミステリの範疇に入る物語でしょう。とはいえ、ミステリ作品の多くが、どうしてもトリック重視で物語が出来上がってしまうのに対して、この作品は舞台設定にかなり力を割いている、という印象があります。特に最後の「氷の皇国」なんかは、中編程度の長さがあるのですが、その中に、架空の国の歴史を入れ込みながら物語をつくり上げています。冒頭の「オーブランの少女」も、設定がなかなか印象的な物語でした。

読みながら僕は、なかなか良く出来た物語だな、と思いつつ、ちょっと弱いなとも感じていました。たぶんその原因は、「謎が何であるのか明確にされないまま物語が進んでいくこと」にあるように僕には感じられました。

例えば冒頭の「オーブランの少女」では、確かに冒頭で、悪鬼が老女を殺している。しかし、厳密に言えば、この殺人事件の謎は解けていない。手記を頼りにした回想シーンに入っていくのだけど、冒頭からしばらくは、何が謎なのかイマイチよく分からない。最終的な物語の閉じ方をミステリでやってしまっているから、物語の初めの方で謎が明確になっていないとミステリとしては辛いと思いました。

これは、他のどの短編でも同じようなことが言えると思います。最終的な物語の閉じ方には文句があるわけではない。伏線もきちんと張られているし、それらをうまく回収している。しかし、しばらく読まないと、そもそも何が問題なのか、何が謎として存在しているのかが分からない。物語の設定や登場人物の描写なんかはいいのだけど、ミステリでありながら謎の登場がちょっと遅い。どうにかその辺りのことを改善して、読みはじめから謎がちゃんと提示されるような構成だとより良くなるように感じました。

深緑野分「オーブランの少女」


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小説

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2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
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6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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新書

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2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年の個人的ベストです
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1位 千早茜「からまる
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
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8位 笹本稜平「天空への回廊
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10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
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15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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1位 「「科学的思考」のレッスン
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)