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アースワークス(ライアル・ワトソン)



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科学と非科学とを分ける要素は二つある。「再現性」と「反証可能性」である。科学とは、「再現性」と「反証可能性」を併せ持つもののみ取り扱う、と定義されていると考えてもいい。

「再現性」というのは、ある現象が、それを発見した人物以外の手によっても再現できる、あるいはそれを発見した人物以外の観察によっても見つけることが出来る、ということを意味する。ある人物が、10mの高さから生卵を落としても割れない方法を発見したとしても、その方法を別の人がやってもうまくいかなければそれは科学ではない。黄色いカラスを発見したとしても、厳密には、別の人物によっても観察されるか、あるいは写真でもない限り、なかなかその発見は科学の俎上には載せることが出来ない。

「反証可能性」というのは、どうだったらその仮説が間違っているということになるのか、という点を提示出来るということだ。「50度で水は沸騰する」という仮説を提唱した場合、それは、「50度で水が沸騰しなければその理論は間違っている」ということになる。一方、超能力者が、「私は超能力を使えるが、私の超能力を僅かでも疑う者がこの部屋にいる場合、私は超能力を発動できない」と主張したとする。この場合、この超能力者は、超能力を発動できなかったとしても、「この部屋に、私の超能力を疑う者がいたからだ」と主張するだろう。つまり、「私は超能力を使える」という仮説に対して、それがどうだったら間違いであるのかということを提示出来ない。これは、科学ではない。

「再現性」と「反証可能性」の二つを意識すると、科学であるか科学でないか、比較的容易に判断することが出来る。もちろん、「再現性がなくても、反証可能性を提示できなくても、世の中には超能力は間違いなく存在する」という主張をすることは可能だ。ただ、「再現性」と「反証可能性」がない場合、科学の俎上に載せられない、ということである。科学という枠組みの中でその謎を解明していくことは出来ませんよ、ということだ。だから、科学の範疇に含まれないからと言って、それがすぐさまウソであるとか世の中に存在しないものであることを示すわけではない。わけではないが、しかし、限りなくそうである可能性は高いだろう。

さて、そこで本書である。本書は、『科学の周辺にある淡い縁』が描かれている。科学の俎上に載せられるか載せられないかギリギリのライン、そういう対象が扱われている。一斉に羽ばたく鳥は思考転移をしているのではないか。植物は人間の感情を読み取っているのではないか。人類は一旦水中で生活することを経て今のようなスタイルに進化したのではないか。いずれも、「科学」という枠組みの中ではうまく捉えにくい対象で、実際に本書で描かれていることを熱心に研究している研究者はごく僅かなのだろう。どことなく胡散臭さを感じさせる話もあって、胡散臭さの濃淡はあくまでも様々だが、手放しで受け入れるには難しい話も多く載っている。

しかし本書に描かれている様々な事柄は、現実に研究者が実験をし、論文として発表されたものをベースにしている。扱っている題材が題材なので、追試などが数多く行われているわけではないだろう。そういう弱さがあるが、しかし本書の記述を読む限りにおいては、どの話も、「再現性」と「反証可能性」をそれなりに備えているように感じられる。つまり、「科学」の俎上に載せても問題なさそうに感じられる。

何故そこで戸惑うのかというのは、人間の先入観という部分も大きいだろう。例えば本書には、植物にも長期的記憶が存在し、行動生物であるように振る舞う研究が紹介されている。しかしそれが現代の「科学」でなかなか受け入れられないのは、

『動物には容易に認めてしまうさまざまな特性を、植物に対して当てはめるのをためらう、いってみれば対植物的先入観のようなものが、われわれの思考を毒しているらしい』

という理由付けを著者はしている。「再現性」と「反証可能性」を備えていても、「なんとなく信じがたい」という先入観によって、「科学」の俎上に載せたがらないのだ、と。

本書で紹介されている様々な話の真偽は、僕には当然分からない。分からないが、しかし、それぞれがもし本当に「再現性」と「反証可能性」を有しているのではあれば、それは「科学」の一角を占めることが出来るし、「科学」の一角を占めることが出来るのであれば、それを否定するためには、やはり「科学」の手続きに則るべきだろう。つまり、「再現性」や「反証可能性」がやはり存在しなかったとして「科学」の分野から追い出すか、あるいは、提示されている仮説より現実をよく記述する別の仮説を証明するかである。それがなされていないのであれば、それがどんなに胡散臭いものであるとしても、「科学」の手続きに則って否定されない限り、仮説として許容しなければならない、というのが僕の立場である。

繰り返すが、「再現性」と「反証可能性」を有していないものは、僕の中では「科学」ではない。上記の「胡散臭さ」というのは、「再現性」や「反証可能性」を有していないが故の「胡散臭さ」ではなく、「再現性」や「反証可能性」を有していながらなお残る「胡散臭さ」のことである。ここを混同してはいけない。

内容に入ろうと思います。
本書は、動物行動学・植物学・心理学など10を超える学位を持ち、超常現象に科学的根拠を与えようとしている著者による、地球上で起こる様々な「不思議なこと」と「科学」とを繋ぐ科学エッセイである。前述の通り、「科学」に含めるにはどうしても抵抗感のあるような、ちょっと胡散臭い研究が数多く紹介されているのだが、記述されている現象や実験そのものは真実なのだろう。その現象や実験に対してどんな説明を与えるのか、という点には様々な考え方があるだろうが、それが起こったということを否定することは出来ない現象や実験そのものだけでも十分に驚異的だと感じさせる話ばかりである。

例えば、まったく別々の原因から15名の合唱団員が遅刻したその日、練習場になっていた教会で爆発が起こり、15名全員が無事だったという出来事。偶然として片づけることも出来るが、「共時性(シンクロニシティ)」という解釈を与える者もいる。また、手術を終えたばかりの少年の病室に、彼が飼っていた鳩がやってきた。その鳩は、少年の後をつけてきたわけでも、かつてその病院にきたことがあるわけでもない。少年が住んでいた家から112キロも離れた場所に病院があり、一度も来たことがないはずの場所にいる飼い主の元にどうやって飛んでこれたのか、という謎を提示している。また、嵐に見舞われたある船に積まれていたグリセリンが結晶化した、という出来事が起こった後、世界中に存在するグリセリンが「容易に」結晶化するようになった、という事例が紹介されている。これは、最初に結晶化したグリセリンから、「グリセリンは結晶化できる」という「精神の種子」みたいなものが波及し、それによって世界中のグリセリンが結晶化しやすくなったのだ、と解釈する者がいる。

また、谷川俊太郎が関わったある面白い実験も紹介されている。
これは、「累積記憶」の存在を証明するために行われた実験だ。「累積記憶」とは、世代によって受け継がれる、過去の世代の経験や記憶の累積のことである。マウスによる実験で、ある訓練を施したマウスをどんどん繁殖させ、下の世代にも同じ訓練を施すと、前の世代より明らかに覚えが早い、というのだ。これを、親世代の経験や記憶が子世代に受け継がれているのではないか、と考える者がいる。

シェルドレイクという研究者が谷川俊太郎にある依頼をした。谷川俊太郎はその依頼を受けて、三つのまったく違う文章をシェルドレイクに送った。その三つの文章は、同じ音韻構造を持つ。
一つ目は、音をただ繋げただけの、日本人が読んでも意味不明な文章だ。二つ目は、谷川俊太郎によるまったくの新作。そして三つ目が、日本人が昔から口に出してきた童謡である。シェルドレイクにも、どの文章がどういう性質のものか知らされていない。

この三つの文章を、イギリス人に記憶させることにした。すると、他の二編と比べて明らかに、ある一編だけ記憶するスピードが早かったのだ。それは、日本人の子供が親しんできた童謡だった。つまりこれは、日本人が長く親しんできた童謡が、人類にとっての「累積記憶」に当たるために、外国語であっても容易に記憶出来たのではないか、と考えられているのだ。

現象や実験を説明するための仮説に対しては、僕自身信頼を置けないと感じるものもあった。しかし、繰り返すが、現象や実験そのものは実に驚異的だ。それらに対してきちんとした説明がまだ確立していないとはいえ、そういう現象が事実起こったことは確かなのだ。その不思議さを全編で味わうことが出来る。よくもこれだけ『科学の周辺にある淡い縁』を収集したものだ、と思う。著者自身はそういう、現在の科学ではうまく手懐けることが出来ない様々な事柄に対して親しみを感じているようだ。僕自身は、現象自体は信じるが、やはり先入観があるのか、今の「科学」の枠組みではうまく捉えきれないだけに、ちょっとした不安定さを感じもする。なかなか不思議な余韻を残す作品である。

僕が、説明自体も納得できる話ももちろんあった。「人類は人類になる以前水中で過ごしていた」という話や、「人体の構造的には人間は両利き手のはずなのに、何故右手が聞き手である方に異様に偏っているのか」などの話は、提示されている仮説に納得感がある。また、納得出来ない仮説であっても、「もしこれが本当であると証明されれば凄い」という話はたくさんある。そういう意味で、非常に夢や可能性を秘めた内容だなと感じました。

「科学」は決して万能ではない。いずれ、「科学」では拾うことが出来ない現象などを研究する、新たな学術的な分野が確立される日が来るかもしれないし、あるいは、分析技術や機械技術などの進歩により、現在では「科学」の範疇に含めることが困難な現象も、いずれ「科学」に組み込むことが出来るようになるかもしれない。いずれにせよ、研究者たちの、「この世界の成り立ちを理解したい」という欲求は、これからも続いていくことだろう。それを原動力にして、少しずつでも、世界を記述する新しい文法が発見されて欲しいものだと僕は思う。

ライアル・ワトソン「アースワークス」


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2013年の個人的ベストです。

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6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
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9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
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4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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コミック

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
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13位 金原ひとみ「マザーズ
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16位 朝井リョウ「何者
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
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3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)