カラスの教科書(松原始)
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内容に入ろうと思います。
本書は、京大出身で、野外フィールドワークを続けながら、東京大学の総合研究博物館で勤務する動物行動学者である著者による、カラスの生態を余す所なく綴った作品です。
著者は冒頭でこんなことを書いています。
『どうやらカラスはわざわざ見るほどのものではなく、まして研究者などいるわけがないと思われている節がある。あるいはカラスと言えば被害防除の研究と早合点する方もいる。
冗談じゃない。あれほど面白くてカワイイ鳥はいないのだ。こんな興味深い鳥を見ないのは人生の楽しみを半分ぐらい損している。しかもどこにでもいるから、わざわざ探しに行く必要すらない。え?カラスはお嫌いですか?大丈夫、しばらく見ていれば好きにはならずとも、ちょっと興味が湧いてきます』
本書の著者の観察のスタイルや研究のやり方を見ていると、本当に著者はカラスが大好きなんだな、ということがよく分かる。印象としては、常にカラスのことしか考えていないんじゃないか、と思えるほどだ。カラスは街中で観察できるから(しかし、日本以外に、街中にこんなにカラスがいる街は世界にはあまり存在しないらしい)、山奥なんかに行くことに比べれば楽ではあるが、それでも市街地で一日中カラスを観察し続けているというのも、傍から見るとちょっとヤバそうな人に思える(笑)。それでも、カラスを愛し、カラスを観察し続ける著者のあり方は凄いなと感じる。
上記の文章は、以下のように続いていく。
『考えてみてほしい。日常の中で、「お、これは」と思って目を留めるものがどれだけあるだろう?地下鉄の中吊り広告なんか見飽きた。コンビニに行ってもどうせ同じような商品ばかり。どっかにアニメとコラボした缶コーヒー?なんかイマイチだなー。鳥が好きだ!という人でも、街を歩いていて見かけるのはスズメかドバトかカラス…ほら、カラスがいる。「カラスって面白いな」と思うようになれば、あっちのカラス、こっちのカラスを見ているだけで歩くのが楽しくなる。嫌な事があってもカラスが何かやらかしていれば「クスッ」と笑えてストレスがたまらない。探鳥会で飛んでいる鳥を見つけ、「あっ、オオタカ…ちぇっ、カラスかよ!」という時も、あなただけは「お、あのシルエットはハシブトガラスか。何かくわえてるな?」などと存分に楽しめる。ほら、人生勝ったも同然だ。』
もちろん冗談で言っているんだろうが、本書を読んだ今、もしかしたら冗談じゃないのかも、と思ったりもする。それぐらい著者はずっとカラスを観察しているし、カラスの観察が素晴らしいことだと思っているし、だから誰かを引きずり込みたいのかもしれない。
まあそんな感じで、愛が溢れすぎてところどころ変なことが書いてあったりするけど、基本的にはちゃんとカラスの生態なんかが書かれている本だ。堅い学術書ではなくて、一般の人向けにくだけた感じで書かれた本なので実に読みやすい。カラスというのは、確かにあまりにも日常的な生き物なのに、同じく日常的な犬や猫はペットになっているのに、カラスは寧ろ蔑ろにされ、無視されている存在だ。確かに、「視界には入る」けど、「きちんと見る」ことは少ない生き物だ。だからどんな鳥なのかよく知らないし、悪いイメージが先行して余計嫌われたりする。
本書を読むと、カラスに対するイメージは大分変わるだろう。人間に害ばかり与える鳥、みたいなイメージをどうしても抱いてしまいがちだけど、それらは、人間側の誤解だったり、ごく稀にしかやらない行動だったりとするわけで、カラスはもっと違った捉え方の出来る鳥だ。時には、「カラスってカワイイんじゃん」って思うような行動もあるはずだ。あまりにも身近過ぎて知ろうとすることもなかった存在をここまで徹底的に掘り下げてくれるとなかなか爽快だ。
日本では7種のカラスが記録されたことがあるらしいが、そのほとんどがハシブトガラスかハシボソガラスである。本書も、この二種の話が中心となっていく。ハシブトガラスとハシボソガラスは、名前は凄く似ているくせに、かなり違ったところの多いカラスだ。どんな場所に住むのかという選択、餌の取り方、鳴き声など、長年の観察から判明した様々なことが書かれている。
貯食という食べ物を隠す行動を取る、マヨネーズが大好き、人間のことを実は怖がっている、雛を見ると激怒するなど、知らなかった話が色々出てきて面白い。特にマヨラーだったのは意外だった。また、離島に住むカラスや、山奥に住むカラスなど、市街地以外のカラスにも触れられている。同じカラスでも結構違いがあるもんだな、と感じた。
世界各国でカラスにまつわる神話がどれぐらいあるのか、日本での伝説にはどんなものがあるのかなど、生態的な話だけではなく、神話や伝説の話も出てきて、本当に様々角度からカラスのことを掘り下げていく感じがします。ここまでカラス密度の高い本はそうそうないでしょう。
本書を読むと、カラスも必死で生きてるんだし、案外カワイイところもあるじゃん、なんて言う風に思えるようになると思います。興味を持とう、なんて発想をまずしたことがないだろうカラスという生き物がちょっと気になってきてしまう、そんな魔力を持つ作品だと思います。
松原始「カラスの教科書」
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