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「空き家」が蝕む日本(長嶋修)

内容に入ろうと思います。
本書は、日本の空き家問題を真ん中に据えながら、不動産業界の実態や騙しの横行、国の住宅政策やその展望、外国の住宅事情など様々な事実をベースにしながら、住処の問題に切り込んでいく内容です。今住宅を持っている人にだけ関わる内容なのか、というとそうではなく、本書は、これから家を買おうと思っている人も絶対に読んだ方がいい内容になっています。

平成20年の調査によれば、日本全国の空き家は410万戸、実に18.9%に上るといいます。これは決して地方だけの問題ではなく、たとえば賃貸アパートに限れば、千代田区が36%とダントツのトップだそうです。空き家が増えれば、治安が悪化したり、景観が悪くなっていったりと住環境に影響を及ぼし、また解体費用などで行政の負担も増します(最近徐々に、空き家を解体する個人に補助金を出す条例が制定されてきています)。

では何故これほどまでに空き家が増えているのか。それは単純で、新築住宅を作りすぎているからです。現在年間で90~100万戸ペースで新築住宅を建設し続けているのですが、日本は明らかな人口減社会に突入していくので、需要と供給が見合わない、という状態になっています。大量に作るが、しかし需要が増える見込みはない。そうであれば、人が住まない住宅が増えるのは自明の理です。

では何故新築住宅の建設数は減らないのか。これにはいくつかの理由があります。
最大の理由は、日本では住宅建設は、最大の経済波及効果をもたらす施策として常に捉えられ続けてきたという点にあります。住宅建設の経済波及効果は2.11倍あるとされ、これは輸出の2.22倍に次ぐ大きさです。これほど経済波及効果があると考えられている経済活動は他にありません。だから政府は、少しでも景気が悪くなると、新築住宅が売れるような優遇策を採ります(面白いのは、本書の中で、住宅建設の経済波及効果を算定した人物の言葉が載っています。彼いわく、その2.11倍という数字は、相当色んな要素を積み増しした結果であり、反省している、とのことでした)。

僕はファイナンシャル・プランニング技能士という資格を過去に取ったのですけど、その中で住宅に関する内容もありました。そこには、確かに新築住宅を買う人への様々な優遇策が載っていました。僕はそのファイナンシャル・プランニング技能士の勉強をしている時に、なるほど国は、とにかくなんでもいいから新築住宅を買わせたいと考えているんだな、と強く感じました。本書を読んで、その考えがさらに補強された感じです。

実際に日本の住宅予算は、その過半が「新築持ち家」に向けられています。日本の住宅政策における賃貸住宅というのは、あくまでも持ち家を持つためのステップという位置づけであり、新築持ち家を買ってもらうことが前提となっている制度設計になっています。このような政策を採っているのは、先進国では日本だけだそうです。日本の賃貸住宅は恐ろしく貧弱で、キッチンやユニットバスなどに、持ち家と異なるグレードを下げた「賃貸仕様」が存在するのも日本だけですし、賃貸住宅に対して国からの家賃補助がないのも日本だけだそうです。
こういう、新築持ち家を購入させる政策に国全体が傾倒しているという点が、一つ新築住宅の建設を押し上げることになっています。

またもう一つ、中古住宅市場が成熟していない、という点があります。ここにも一面では、国の思惑が見え隠れします。たとえば、新築住宅の購入であれば、その全額がGDPに算入される。しかし、たとえば個人間の中古住宅の売買は、基本的にGDPに含まれないので、いくら中古住宅が活発に売買されようと、日本という国の経済的な成績には関係がない。だから国は中古住宅の市場にさほど関心がない。

また、不動産業としても、中古住宅の売買よりは新築住宅の売買の方がより多くの手数料が入る(新築住宅の金額の方が大きいことが普通なので、当然でしょう)。不動産業は、一つの取引における手数料の受け取りについて、かなり厳密に決まったルールが存在します(この中身については、本書ではさほど詳しく触れていませんが、僕は宅建も取ったことがあって、その勉強の過程でこの手数料のルールについても知っていました)。この手数料の問題は、不動産業界の騙しの横行の温床でもあるのですが、またそれは後ほど触れます。

欧米諸国はと言えば、中古住宅市場は成熟しています。本書には日本・アメリカ・イギリス・フランスの新築住宅着工数と中古住宅取引数を比較した棒グラフが載っているのですが、日本が新築住宅の建設100に対して中古住宅の取引が大体10未満ぐらいであるのに大して、他の三国では、新築住宅の着工100に対して、中古住宅の取引が2倍から8倍ほどあります。明らかに、中古住宅の取引の方が住宅販売のメインを占めているわけです。また本書には、過去にした住宅投資の累計額と、現在の住宅資産の総計を比較したグラフも載っていますが、アメリカでは過去の闘志の累計額以上に住宅資産が積み上がっているのに対し(つまり、過去に作った住宅の資産価値がきちんと残っている、ということ)、日本では毎年19兆円ほどの住宅投資を続けながら、住宅資産は19990年頃からほぼ横ばい、一向に増えていません。過去に作った住宅の資産価値の減少分が、新築住宅の建設で積み増される分を遥かに上回っている、ということです。

まあ、それは当然と言えるでしょう。日本では住宅は、新築の時が最も高く、人が住んだ瞬間に2割減、10年で半値、そして25年で資産価値ゼロ、という査定をすることになっているのです。欧米諸国では、リフォームなどをすることで住宅の価値が維持されたり、あるいは逆に新築時よりも増したりすることもあるのですが、日本ではそのようなことはありません。

何故そんなことになっているのか。それは、住宅の査定をする人間が、基本的に住宅のことを何も知らないからです。

僕ら一般人は、不動産業の誰かが、家の状況や立地などあらゆる条件を考えあわせて、家の値段というのがきちんと決められている、と考えるでしょう。しかし、それは幻想です。不動産業にいる人は基本的に不動産の価値を査定できるほど知識を持っている人はいません。それはその通りです。何故なら、先程も書いたように僕は宅建を取ったことがあるのですが、その宅建の試験では、住宅の資産価値を判断できるような勉強項目は一切ありません。本書を読む限り、不動産業に就職しても、それを先輩などから教わることはないようです。

では彼らはどんな風に値付けをしているのか。まず、築年数などから大雑把な数字を出し、また周辺地域の住宅の値段を調べる。そして会議で何人かで、まあこれぐらいじゃない?みたいな話し合いをして値段が決まるのです。著者いわく、不動産の値段は実にいい加減に決っているそうです。

しかし銀行が金を貸すではないか、と考える人もいるでしょう。銀行は、家の資産価値を判断して、それに見合った融資をするのではないか、と。何故なら銀行は、住宅融資の際に家を担保にするからです。取りはぐれた時に家の資産価値で借金を帳消しに出来るように、融資前に不動産の資産価値を判断しなければならないではないか、と。

しかしそれも違います。銀行は、不動産に対してお金を貸すのではなく、あくまでも人にお金を貸します。人の属性、つまり公務員なのか自営業なのか、そういう部分で判断されます。だから、不動産の資産価値を判断する必要などないのです。事実銀行の融資部門は、不動産の査定などしないそうです。

欧米では、住宅ローンは家を手放せばゼロになるそうです。これは日本とは違い、家の資産価値を見極め、それに見合った融資をしているからです。借りた本人が借金を返せなくなっても、適正な査定をした不動産を銀行が引き受ければ損は出ない、そういう仕組になっているのです。欧米諸国では、不動産エージェントという職業が存在し、弁護士や医者並の社会的地位があるそうです。不動産の価値を正しく見極める彼らの存在が、欧米諸国の中古市場を成り立たせているのです。欧米では、10年で半値などという雑な値付けはしないのです。

このように、新築住宅建設に傾倒しすぎた国の政策と、中古市場の未成熟によって、新たに新築住宅が建設され続け、同時に、一度作られた住宅がやがて資産価値を失い放置される、という状況を生み出しています。これで空き家が増えないわけがない、というのが多くの人の実感ではないでしょうか。起こるべくして起こった状況なわけです。しかしそれでも、国は長期的なビジョンを持たず、不動産業界も現状を変えず、このままの状態が続いていくことでしょう。空き家問題の根本の原因は、解消されそうにありません。

本書では、不動産業界の実態についても触れられています。著者は、不動産業界の行き過ぎた有り様に嫌気がさして、新しい形で不動産と関わるべく自ら会社を立ち上げた人です。だからこそ、現状の日本の不動産業界の実態について指摘することが出来ます。

先ほど触れた手数料の問題が大きく関わってきます。不動産取引の手数料には、片手と両手というものがあります。片手は売り主から(あるいは買い主から)のみ手数料をもらうこと、両手とは売り主と買い主両方から手数料をもらうことです。不動産取引には様々なルールが存在し、その中で、片手の手数料になる場合、両手の手数料になる場合というのが決められています。正直業界的には、片手の手数料では経営的にやっていけない、というのが大手であっても本音なんだそうです。だからこそ業界はみな、両手の手数料を狙う。そのために彼らがやっているのが、物件情報の囲い込みです。

売り主から依頼があれば、不動産業者は原則的に、不動産業者全体が見ることの出来るデータベースに依頼のあった不動産情報を載せなくてはいけない決まりになっています。こうすることで、売り主がより早く買い主を見つけられる仕組みになっているのです。しかし、データベースに情報を載せるということは、同業他社が買い主を見つける可能性があるということであり、そうなると片手の手数料しか入らなくなります。だから不動産業者は、意図的に物件情報をデータベースに登録しないというやり方が横行しています。これは明らかなルール違反ですが、しかし不正とまでは言えないという微妙な部分らしいのですが、透明性を担保し、不動産取引をよりスムーズに行うという理想状態を阻害する大きな要因になっているのです。業界全体のこのあり方のせいで、売り主も買い主も適切な情報を与えられないまま不動産売買をせざるを得ない状況に陥っているのです。本書には、それを回避するための方法も載っていますので、是非読んでみてください。

本書は、欧米諸国と比べるまでもなく、日本の住宅事情がいかに貧弱で、短期的な短絡だけで進められているということが実によく理解できる内容になっています。不動産の売買が、人生で一番大きな買い物だという方は多くいるでしょう。また、地方の衰退や空き家の増加による治安などへの影響に感心がある方もいるでしょう。そういう人たちに基本的な情報を提供してくれる内容になっていると思います。何らかの形で不動産と関わっている方は、是非読んでみてください。

長嶋修「「空き家」が蝕む日本」


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5位 笹本稜平「遺産
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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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コミック

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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