黒夜行

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バッドカンパニー(深町秋生)

内容に入ろうと思います。
本書は、「NAS」―ノミヤ・オールウェイズ・セキュリティという、元自衛官や元警官などを扱う警備会社を舞台にした連作短編集です。警備の仕事も当然するが、実体は民間軍事会社のようなもので、警備から拉致まで、合法非合法に関わらず、金さえ払ってもらえればなんでもやる、という集団だ。女社長で金とスリルに狂ってる野宮綾子を筆頭に、元自衛官で戦闘要員である有道、元刑事で諜報要員である柴の二人をメインに描かれていく。

「レット・イット・ブリード」
有道は、もう死ぬしかないという状況に追い詰められたところを野宮に助けられた。野宮に対して莫大な借金があり、その返済が終わるまでは、野宮が与える無茶苦茶な仕事をこなさなくてはいけない。
古室組は手広く事業を展開する老舗団体だが、このところ賭博場からの売上を盗まれる事案が多発していた。そこで古室組はNASに警備を依頼。有道が派遣されることになった。現金輸送車に乗り襲撃を受けた有道らだったが…。

「デッド・オア・アライブ」
柴は、どういう理由でかは不明だが、野宮に忠誠を誓っている。野宮からの無茶な仕事も、淡々とこなす。
アフムド・イブラヒムというエジプト人実業家から、日本に潜伏しているらしい国際テロリスト、クロード・アムダニを捕獲して欲しい、という依頼があった。かつてクロードらによるテロ行為で妻を亡くし、自身も重症を負った。日本にいると耳にして気が気じゃなくなったのだ。しかし、国際的に手配されているテロリストを民間会社が捕まえるなんて、相変わらず社長は無茶な仕事を受ける…。

「チープスリル」
NASが所有する射撃場で、千石真由という真面目な女子大生相手に、銃の撃ち方や護身術を一通り仕込むこと。これが今回の有道の仕事だ。ここのところしんどい仕事ばっかりだったから、今回は楽でいい。しかし有道は、なぜ千石がこんなことをしているのか、という疑問を拭えない。アメリカに留学するから護身術を、と聞いてはいるが、それにしてもここまでやるのは異常だ。何かあるはずだ…。

「ファミリーアフェア」
石熊哲治の葬儀に、NASの面々は出席している。NASの社員だった男だ。戦闘能力はすば抜けていて、世界的にも傭兵としての評価は高い。葬儀には、様々な人種の人達が、石熊の死を悼んで集まっている。
石熊は、何者かに殺された。あの石熊を仕留められる者となるとよほどのプロか。柴は、社長からの命令で、警察よりも先に石熊を殺した者を見つけるように言われているが…。

「ダメージ・インク」
関東の広域暴力団である印旛会の主流派に属する二次団体の若頭補佐で、裏社会を牛耳る顔役の一人である赤蔵から依頼があり、有道が派遣された。そして有道は、赤蔵のボディガードたちと戦わされている。有道の実力を知りたいという。赤蔵は西海警備保障と事を構えるつもりだと聞いて有道はのけぞった。最凶の武闘派として知られる西海警備保障を敵に回して、生きて帰れるのだろうか…。

「イーヴル・ウーマン」
国会議員である朝比奈から、妹の美桜を調査してくれと依頼がある。良からぬところで美桜を見た者がいるという情報を聞きつけたからだ。選挙に向けて、不安材料は排除しておきたい。柴は1ヶ月にも渡り美桜を監視するが、何も出てこない。しかしある日…。

「ランブリン・ギャンブリン・マン」
有道は久瀬に連れられて、渋谷にある超巨大カジノに足を踏み入れた。誰もこんなところにあるとは想像も出来ないような場所にある。久瀬はカジノを運営する琢真会に所属する男だが、NASにカジノ殲滅の協力依頼をしてきた。有道は、田舎の坊っちゃんという役回りでカジノに潜入するが…。

というような話です。
なかなか面白い話でした。難しいことを考えないで読めるし、基本的に物語はスピーディなのでスイスイ読める。アクション的な展開をする物語だけど、ドンパチの場面があってもそこまで多くはないし、人が死ぬような場面も怖い感じで描かれないので、そういうのが苦手な人でも割と面白く読めるんじゃないかと思います。

物語の構造として、「悪VS悪」となっているところも面白いと思います。NASを率いる野宮は、基本的には悪側の人間でしょう。女でありながら、様々なヤクザや暴力団と敵対しては殲滅するということを繰り返していて、裏社会を牛耳ろうとしているとも言われている。そんな野宮がやっているNASだから、物語も普通の着地をしない。金とスリルを何よりも愛する女は、危険だろうがありえなかろうが、そこに金とスリルがあれば飛び込んでいく。そしてその中で、野宮やNASに都合の良い勝ちを拾っていく。有道や柴はあくまでも駒であって、野宮の考えすべてを教えられるわけではない。有道や柴さえも驚愕するラストを迎えることがあり、野宮という女の底しれなさみたいなものが、話を読み進めるに連れてどんどんと浮き彫りになっていく。

物語の中で、メインで活躍するのは有道や柴なのに、物語全体で強烈なインパクトを残すのはやはり野宮だ。出ずっぱりなわけではない野宮という女キャラクターをここまで強烈なものにしたことが、この作品をうまく立たせているのだなと感じます。

有道や柴は、実際には「ややこしい諜報活動」や「緊迫感のある状況」に身を置いているんだろうけど、ライトな感じのタッチで物語が描かれていくので、あまりそういうことを感じさせない。この点には良し悪しあるだろうけど、読みやすさという点では成功していると思う。もっと緊迫感や重厚さのある物語を読みたいと感じる人もいるだろうけど、恐らくそれはこの作品で著者が狙っていることではないんだろうと思います。

個人的には、有道のパートの方が好きです。野宮は、野宮に対して多額の借金を抱えている有道を本当にこき使います。扱いも結構酷い。そんなわけで野宮は、何か依頼をこなす時に、有道という駒をどう動かすか、という思考で戦略を練ることがよくある。依頼の全体像を伝えず、こうすれば有道はこう動くだろう、みたいな形で手のひらの上で転がされる有道が哀れで、読んでいて面白いです。

さくっと読むにはうってつけの作品だと思います。

深町秋生「バッドカンパニー」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)