エチュード春一番 第一曲 小犬のプレリュード(荻原規子)
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内容に入ろうと思います。
度会美綾は、大学に入学した。同じタイミングで家族が渡英する予定となっていて、美綾は実家にいながら一人暮らしをすることになってしまった。大丈夫だろうか?
ある日美綾は、家の前でパピヨンを発見した。恐らく迷子犬なのだろうと思って、地域のペットに詳しそうな動物病院にも話を聞きに行くが飼い主は分からず。とりあえず飼い主が見つかるまでは美綾が飼ってみることにした。
モノクロ、と名付けたその犬が、突然喋りだした。
正確に言えば、その声は美綾にしか聞こえていないらしい。モノクロは、自分は八百万の神であると言い、人間界について学びに来た、という。今はパピヨンの姿を借りているが、いずれ人間として物質界で過ごしてみるつもりなのだという。そもそも物質界に降りてくる神というのが珍しいらしく、さらにその中で、人間になってみようとする神などほぼ絶無らしい。美綾は、そんなちょっと変わった神と話しているらしい。
状況がイマイチ理解できないまま、モノクロの存在を受け入れてしまった美綾。犬が喋る、ということを除けばそれなりに平穏な毎日を過ごしていたが、大学で再会した小学校時代の同級生からちょっと変わった話を聞いて、美綾は揺れ動く。
有吉智佳というその友人は、同じく大学で再会した小学校時代の同級生である澤谷光秋の背後に幽霊が見える、というのだ。小学校時代、同級生の一人である香住健二が事故で亡くなった。智佳はその幽霊が見えるというのだ。
あの時の事故の背後に何かあるのかもしれない、一緒に調べよう、という智佳の言葉に釣られるように、美綾も調べ始めるが…。
というような話です。
うーん、なんというか、久々に評価不能な作品を読んだな、という感じでした。ちょっとこれは、なかなか厳しい。なるべく僕のスタンスでは、作品が面白くなくても、良い点も見つけようと思って感想を書いてるんだけど、久々にちょっと良い点を見つけるのが厳しい作品に出会った、というのが正直な感想です。
まず何よりも、会話が辛い。この作品の時代設定がいつなのか分からないのだけど、同時代を舞台にしてるならさすがにちょっと現実から離れすぎている。もっと昔の時代を描いているのであれば、まあ許せる範囲と感じられるのかもだけど、でも作中に、そう感じさせるような描写はない。普通に、現代を舞台にしてると思うしかないんだよなぁ。
『有吉さんのこと、美綾から聞いてます。小学生では美綾、みゃあって呼ばれてたんですって?』
『忘れてた。ちーちゃん、病院みたいな場所は苦手だったのでは』
こういう語尾の感じって、登場人物のキャラと合致してるならまあいいんだと思います。実際、「呼ばれてたんですって?」とか「苦手だったのでは」みたいな感じの喋り方をする現代のアニメやマンガなんかもあると思います。でもそれは、そういう喋り方をするちょっと変わった子、という性格と一緒に描かれているはずです。本書の場合、これがデフォルトというか、みんなこんな感じの調子で喋ります。朝井リョウのレベルまで現代感を描写してほしい、とまではさすがに言わないけど、ちょっとこの作品は古すぎる気がします。
会話以外の地の文も、こちらはうまく説明できないんだけど、読んでて凄く違和感がある。たぶん、舞台装置が一切ない芝居を見てるような感じがするからかも、と思います。舞台装置が一切ない芝居だと、自分が何を持っているのか、自分がどこに向かっているのか、いちいち口に出さないとお客さんに伝わらないと思います。そういう感じで、本書の場合、なんというか、なんでも説明しちゃう、という感じがします。
また、主人公である美綾の内面が希薄というか、ぐらぐらというか、なんというかこれもうまく説明できないけど、落ち着きがない。振れ幅が大きいというのか、なんというのか、とにかく、美綾というキャラクターのあり方にどうも受け入れがたい点がある。
そして、ストーリー自体も、うーん、と唸ってしまうようなものだった。パピヨンが喋る、という事実を受け入れるところは、まあいい。けど、幽霊話を発端に昔のことを調べ始める、ってのはちょっと辛くはないか?で、その幽霊話に付き合って、最後の最後の方までその幽霊話始まりの昔の事故の話を引っ張っておいて、結局「幽霊が見えてたのなんてウソ」っていう展開になる(あまりに驚いたのでネタバレしてしまう)。なんだそりゃ?と思ってしまった。幽霊話を発端にしたあれこれの展開の随所に、色々ちょっとそれは無理あるなぁと思わせるような描写があって、さらに最後に、結局幽霊は見えてなかったってオチで、それまで違和感を覚えながら読んできた部分全部ばっさり意味ないものにしちゃう、みたいな感じがあって、ちょっとこれはどうなんだ?って気に凄くなった。
みたいなことを書いてても、ちょっと僕が抱いた違和感はうまく伝わっていないように思う。ここまで、「ちょっとさすがになぁ」という感じを抱いた小説は、本当に久しぶりだと思う。読みながら、昔自分が書いた小説がこんな感じだったような気がするな、って思いだした。つまり、下手ってことである。
唯一僕が面白いと思ったのは、神様だというパピヨンの反応だ。神と人間とは、考え方や感じ方がまるで違うから、神が人間界をどう捉えているのかという話は、まあまあ面白いと思った。
この作品を読んで、良いと思う人もいるのかもしれないけど、ちょっと僕には受け入れがたい作品でした。
荻原規子「エチュード春一番 第一曲 小犬のプレリュード」
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