黒夜行

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さくらだもん 警視庁窓際捜査班(加藤実秋)

内容に入ろうと思います。
本書は、警視庁の「業務管理課」という、主に雑用を請け負う部署にいる久米川さくらが、何故か難事件を解決してしまう、というちょっと変わった警察小説です。上司である正丸、同僚で年齢不詳の美魔女である秋津の三人しかいない課で、同期入社で東大出のキャリアである元加治から捜査の話を聞く中で、さくらは真相を見抜いてしまう、という流れです。

「密室だよ さくらちゃん」
八坂弘弥というひきこもりの男性が死亡した。毒物による死であり、他殺が疑われたが、現場は密室。家族は出払っており、最近変わったばかりというお手伝いさんは弘弥の顔を見たこともないという。彼を毒殺したのは一体だれなのか…。

「不祥事発生! さくらちゃん」
鉢田警察署の署長が謝罪会見を行っている。被疑者が自殺したのだ。小川晴喜は、前夜起こった小競り合いによって男性が一人死亡した事件の犯人だと名乗りでたが、小川は街金に借金があり、その街金のバックに暴力団がいた。警察は、暴力団の組長が真犯人で、小川は生け贄に差し出されただけ、として捜査を続けようとした矢先、小川が自殺したのだ。しかし不思議なことがある。小川は一体、どのタイミングで、自分が真犯人ではないと警察が気づいた事実を知ったのだろうか…。

「極秘任務だよ さくらちゃん」
署内に「マイカップ泥棒」が出没している。給湯室にそれぞれ置かれている個人のコップが、時折紛失するのだ。それだけなら大した事件ではないが、ある時様々な偶然が重なって、人間国宝が作った湯飲みが「マイカップ泥棒」によって盗まれてしまう事案が発生した。さくらは極秘にその湯飲みを探すことになるが…。

「無差別殺人 さくらちゃん」
仲間が企画した結婚パーティで、ピザに盛られた毒で殺されてしまった武蔵一彰氏。そのピザはみなが食べていたにも関わらず、被害者が食べたピースにだけ毒が盛られていたという。これは無差別殺人なのか。武蔵氏を狙った犯行だとすれば、どうやって毒を盛ったのか…。

「容疑者がいっぱい さくらちゃん」
バーのママが殺害された。強盗の仕業かと思われたが、殺された浦山口は周囲の人間に、未公開株の詐欺を持ちかけていたようで、被害に遭った人間が多くいるという。その詐欺の被害者かアリバイのある者などを除いて、10名ほどに絞られたのだが…。

「時間がないぞ さくらちゃん」
硝酸カリウムなど、爆弾の材料が大量に盗まれ、警察は爆弾事件に注意していた。そんな折、さくらが署内で見つけた小さな箱に、窃盗犯からの犯行予告が記されていたことが分かった。今日の5時にどこかで爆弾を爆発させるという。さくらは、業務管理課の仕事をしながら、ふと真相に気づく。まずい、そこには…。

というような話です。

さらっと読む分には面白い作品だと思います。警察小説らしからぬ軽さで、あまり小説を読み慣れない人でもサクサク読めるんじゃないかなと思います。基本的なパターンが踏襲されているので、一話完結型のドラマを見ているような感じで読めるんじゃないかなと。

業務管理課という、刑事部ではない部署を舞台にした作品というのはなかなか珍しいです。横山秀夫が、刑事部以外を舞台に警察小説を書いて、警察小説に革命を起こしましたが、広く捉えればその系統と言っていいでしょう。横山秀夫では、写真を撮るところとか、出納係とか、もう少し具体的な役割がきちんとある部署が描かれていましたが、本書の場合は、ショムニみたいな、とにかく何でも屋、雑用係という感じです。作中でさくらたちがやっているのは、お茶くみとか、応募ハガキの仕分けとか、蛍光灯の交換とか、パトカーの洗車などです。本当に、事務員という感じですね。

普通警察小説では、刑事同士の手柄争いとか、強烈な出世志向みたいなものが、物語を盛り上げる要素として付け加えられるものですが、本書の場合そういうものとは無縁です。さくらは、出世欲はゼロだし、基本的に常に定時に帰ることを目標にしています(だから、元加治から事件について聞いてから、その日の定時までには事件を解決するという、なかなかのスピード探偵です)。自分たちの部署が「離れ小島」のようであることは理解しつつも、その現状を特段嘆いているわけでもありません。それは、正丸、秋津という他の署員についても同じで、警察とは思えない、非常に牧歌的な雰囲気の中で彼らは仕事をしています。

本書の構成的に面白いなと思うのは、各短編で、元加治から持ち込まれる事件だけでなく、業務管理課の誰かが個人的な問題を抱えている、ということです。ある時はさくらが、住んでる部屋の更新に際して家賃が上がる問題と格闘しているし、ある時は正丸が、家族でハワイに行くのだと娘が友達に嘘の自慢話をしてしまった問題について思い悩んでいます。元加治から持ち込まれた事件と、業務管理課の個人的な事件がいい具合に影響して、どちらかがもう一方を解決するためのヒントになるみたいな展開が繰り広げられます。

元加治から持ち込まれる事件の解決も、業務管理課の面々が抱える個人的な問題も、まあ大したことはないのだけど、とにかく警察小説らしからぬゆるい雰囲気の中で、ドジっ子で基本的にやる気のない女の子が事件を解決しちゃう、という設定がそれなりに愉しめる作品です。話としては、最後の爆弾魔のやつが良かったかな。

加藤実秋「さくらだもん 警視庁窓際捜査班」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)