黒夜行

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逆島断雄と進駐官養成高校の決闘(石田衣良)

内容に入ろうと思います。
舞台は、日乃元皇国の最優秀の生徒が集まる、東進進駐官養成高校。100万人を超える進駐軍を指揮する立場である進駐官を養成する高校だ。世界は今、氾帝国、エウロペ連合、アメリア民主国の三大列強による寡占化が進み、日乃元皇国はその中で劣勢に立たされている。
逆島断雄(タツオ)は逆島家の次男で、東進進駐官養成高校の新入生だ。逆島家は、皇室を守護する近衛四家の一角を占める名家だったが、断雄の優秀だった父が、ウルルク王国の首都攻防戦でウルルク王国側に寝返り、隊を全滅させたことにより没落した。父の行為を裏切りとされ、タツオは、幼なじみであり、子どもの頃は兄弟のようにして育って、同じく近衛四家の一角を占める東園寺家の長男である華山(カザン)との関係を悪化させた。カザンの双子の妹である彩子(サイコ)とは今でもいい関係であるので、東園寺家との関わり方は難しい。
東進進駐官養成高校では、四人一班の単位で行動する。入学時に割り振られるその班単位で成績や懲罰が決定されていく。タツオと同じ班になったのは、入学試験の成績が1位であり、エウロペ連合の元軍人を父に持つハーフである菱川浄児(ジョージ)、柔道の達人であり超がつくほどの硬派な頑固者である谷照貞(テル)、誰とでも仲良くすることが出来、常に軟派でありながら、ここぞという時は引き締める鳥居国芳(クニ)。新入生は皆、東進進駐官養成高校の毎日の厳しい訓練や勉強に音を上げそうになりながらも、必死で食らいついていく。進駐官は、卒業時の成績ですべてが判断される。成績が悪ければ、激戦区である戦闘地域に配属されることもある。卒業時の成績が悪ければ死に直結する。そういう環境下で彼らは勉学と訓練に励むのだ。
しかし、タツオの周囲で、徐々にきな臭い出来事が起こるようになってくる。タツオを含む、3組1班のメンバーが、あらゆる場面で襲撃を受けるようになったのだ。ことあるごとにタツオに突っかかってくるカザンの仕業かとも思われたが、次第に彼らは、この東進進駐官養成高校を舞台に、とんでもない事態が展開されていることを知ることになる。
進駐軍、そして日乃元皇国すべてを巻き込んだ争いの中心に、期せずして巻き込まれることになったタツオ。クラスメートの死、謎の組織からの接触、そして幼なじみとの因縁の対決…。進駐官養成学校の生徒とは言え、たかだか一年生でしかない彼らを巡って、国を巻き込んだ大きな陰謀が渦巻いていく…。
というような話です。なかなかスケールの大きな話なので、物語の全体をうまくかいつまんで紹介するということがなかなか出来ません。

全体的には、なかなか面白い作品だったと思います。500ページを超えるなかなかのボリュームですけど、割とスムーズに読めたかなと思います。中身としては、一風変わった学園小説、という感じではありますが、日本をモデルにした「日乃元皇国」という架空の国を舞台にして、「戦争」が「経済成長の手段」として正当化されてしまった世界における人間のありようを描き出していく、という面白さもあります。主人公のタツオに限らず、あらゆる面で天才的なジョージ、タツオの幼なじみであり美貌のサイコ、同じく幼なじみであり、サイコの双子の兄であり、タツオをライバル視しているカザンといった面々もなかなか魅力的だし、そういうメイン級のキャラクターじゃなくても、それぞれに個性があって、ただの脇役ではない感じが面白いと思います。特に、物語のラストに置かれている異種格闘技戦では、脇役的な人間が思いもかけない戦いを繰り広げる様はなかなか面白いと思います。

僕的に辛かったのは、戦闘シーンです。基本的に僕は、文章を読んでいて映像が浮かんでくる人間ではないので、本書に限らずどんな小説を読んでても映像は浮かばないんだけど、その中でもスポーツ(特に球技)と格闘技の描写は苦手です。文章を読んでても、何がどうなってるのかまるで理解できません。本書では、結構戦ってるシーンが出てくるんだけど、僕には基本的に何がどうなってるのか分からないので、そういう場面が多い小説はちょっと辛いなと思います。ラストの異種格闘技戦の描写も、だいぶ流しながら読みました。

本書の評価をする上で難しいなと思うのは、本書がこれで終わりなのか、話がまだ続くのかということです。それを判断する情報が本書のどこにもないのでどちらとも言えませんが、もし本書で終わりだとすれば、色んな伏線を投げっぱなしだな、と感じます。はっきりしていないことが山程残されているように思う。回収されていない伏線のことを無視したとしても、ラストをこの展開で終わらせるのはちょっと尻窄みに感じてしまう。まだ物語が続くのであれば、そういう投げっぱなしとか尻窄みみたいな感想は抱かずに済む。さて、どちらだろうか?

小説を読んでいる感覚としては、30巻以上あるコミックを読んでいるみたいな感覚だ。設定やキャラクターは、よく作りこまれたマンガのようだし、分量的にもかなりの巻数のあるコミックという感じを抱かせる。戦闘シーンなどのことを考えると、マンガの方がより伝わりやすくなるかもしれない、という風には思う。ジョージやサイコなども、マンガの方が映えるだろうし、他にも視覚的にキャラクター化された方が面白そうな登場人物はたくさんいる。

物語の中にはかなり色んな要素が詰め込まれていく。タツオを中心に展開される襲撃事件が主軸ではあるのだけど、エウロペ連合の父を持つハーフであるジョージの孤独、近衛四家に生まれたものの宿命、天才揃いの学校で凡人が生きていうこと、逆島家の復興、東園寺家との対立、巨大な陰謀とそれを出し抜く少年、などなど、東進進駐官養成高校を舞台に様々な軸が同時並行で展開されていく。それら一つ一つを要素にしながらも、日乃元皇国を巻き込むある陰謀が浮き彫りになっていく過程はなかなか読ませる。

個人的に興味深いと思ったのは、この物語全体で描かれる世界の設定である。すでに、戦争以外の手段で経済成長が望めなくなっている世界は、自らが成長するために他から奪うという在り方が正当化されてしまっている。タツオもジョージも、そんな世の中のあり方に疑問を抱くのだが、しかしそういう思想を持つことは国家に反逆していると見なされてしまう。平和を希求する気持ちは、軍を不要と考える価値観に通じ、国家としては容認出来ないのだ。

『エウロペ連合も、アメリア民主国も、氾帝国も、ついでにいえば日乃元皇国も、どこも同じだ。技術的にはもう完全にいき詰って、新しいものなんて生まれない。同じものの大量複製だ。経済だってゼロサムだ。どこかが伸びれば、その分ほかの国が落ちる。天然資源と市場を求めて、植民地をぶんどりあうのが、今の世界の在り方だろう。戦わない国は、ただ奪われ没落していく』

『成長がなくなれば、地球経済はゼロサムゲームだった。誰かが特をするには、別な誰かが損をしなければならない。先進国は経済成長を続けるために、よその先進国がもつ領土・植民地を力で奪うしかなくなったのである。戦争は株式市場や新しいテクノロジーと同じように、経済成長に欠かせない日常的な道具となっている。今日の地球では、戦争があらゆる先進国間であたりまえの成長手段であり、経済対策だった』

『果てしない侵略戦争と植民との争奪戦が続く今の世界秩序は、持続可能ではないだろう。だが、より豊かな生活を望む庶民と先進国の基幹産業になっている軍需企業の後押しのせいで、戦争を止めることもできない。世界中で戦争を終わらせるのは、同時の経済成長を諦めるのと同じ意味だからね。人は明日は今日より豊かで降伏な生活が遅れるという信念で、なんとか目の前の不幸に耐えていけるものだ』

もう一つ。ラルク公国を訪問中の日乃元皇国の皇女が襲撃されたことを受け、国内で外国人に対する襲撃事件が続発したことを受け、エウロペ連合とのハーフであるジョージがこんなことを語る場面がある。

『日乃元の人間が、なんだかぼくは怖いんだ。普段は優しくて善良で思いやりも気配りもある。この国の接客やサービス業のレベルが世界でもトップレベルなのは有名な話だ。でも、一度大切なものを傷つけられると、てのひらを返したように徹底して逆上する。証拠もなく襲撃して、迷いもせずに殺害するんだ。』

どちらも、現実の世界・日本をベースにして誇張した描写になっていると思う。世界的に、「テロに立ち向かう」という建前で戦争の機運が高まっているように感じるし、日本人のてのひらを返したような豹変ぶりも様々な場面で目にするものだ。架空の設定で、誇張された描写によって、僕らの生きている現実の世界の異様さが引き伸ばされるようにして迫ってくる感じがあって、そう思わせるのも物語の力なのだろうと感じました。

物語がまだ続くのかどうかで結構評価が変わるので、なんとも言えない作品ではあるのだけど、まだ物語は続くのだという前提に立つことにして、なかなかスケールの大きな物語であり、展開やキャラクターの造形なんかも面白い、なかなか読ませる作品だと思います。

石田衣良「逆島断雄と進駐官養成高校の決闘」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)