黒夜行

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体育館の殺人(青崎有吾)

風ヶ丘高校の旧体育館で放課後、放送部の部長である朝島友樹がナイフで刺された状態で死体となって発見された。何故か緞帳が降りていたステージ上で、教壇に寄り掛かるようにして死んでいた。第一発見者は、現場にいた演劇部と卓球部の面々。下がっていた緞帳を上げたところ、死体発見となった。
犯行時刻と思われる時間の前後に旧体育館周辺にいた者は、卓球部の顧問の教師によって集められた。また、すぐに警察に連絡をとり、迅速に現場保存がなされた。
警察による捜査が開始されるが、生徒への聞き込みを続けていくと、実に奇妙なことが判明した。
この旧体育館は、事件当時“密室”だったというのである。
出入り口はいくつか存在するが、そのほぼすべてが、駆けつけた警官によって施錠されていたことが確認された。残る開口部は、旧体育館の入り口と、舞台下手側のトイレ付近のドアだ。入り口はその場にいた人間の目があったし、トイレ付近のドアの方は、演劇部が舞台装置を運ぶために持ち込んだリアカーで塞がっていて、誰も通ることが出来なかったのだ。
しかし犯人は、誰にもその姿を見られることなく、現場に現れ、そして現場から消えた。現場に残されていたものは、上手側のドア付近にあったリボンと、トイレに残されていた傘。
捜査が進む中、とある事情から、卓球部の袴田柚乃は、卓球部の部長であり、柚乃が“完璧超人”とアダ名している佐川先輩が疑われていることを知ってしまう。
柚乃は、佐川先輩を助けたい一心で、つい最近耳にしたある噂に頼ることにする。先日のテストで、全教科満点を取った、恐ろしく頭のキレる男が、何故か学校の敷地内に住んでいる、という噂だ。柚乃は、噂通りの場所に出向き、そこで、後にこの難解な事件を見事に解き明かして見せる裏染天馬と出会うことになるのだが…。
というような話です。

べらぼうに面白かったです!この著者の作品を読むのは二度目ですけど、凄い作家がいたものだな、と思います。バリバリの本格ミステリを読むのは久しぶりですけど、これほど「快刀乱麻」という単語が似合う作家はなかなかいないような気がします。

とにかく、謎解きの過程が見事です。ほんの僅かな現象・情報・事実から、可能な選択肢をすべて列挙し、合理的な推論を積み重ね、出来上がった仮説を根気よく検証していくことで、天馬はこの複雑な謎を解き明かしていきます。その過程が本当に見事です。

ネタバレをするわけにはいかないから、この謎解きの凄さを具体的に書けないのが辛いところです。読者は、天馬とまったく同じ情報を手にしています。材料はすべて揃っています。しかしそれでも、天馬のように思考を展開させられる人はそうそういないでしょう。天馬の説明を聞けば、あぁそれしか考えられない、と納得するしかありません。でも、自分では気づけない。そういういくつもの論理を絶妙に折り重ねながら、合理的に、論理的に謎が解き明かされていきます。

とはいえ、ただ論理を積み重ねていくだけの無味乾燥な謎解きというわけではありません。本書の場合、殺人事件は1度起こるだけですが、謎解きが展開される場面はいくつかあります。最後にすべての謎が解き明かされる、それまでは前段階ですよ、という構成にはなっていません。謎解きの場面が適宜挟み込まれるので、350ページ強の物語をだれさせないで読ませます。
とにかく、最初の謎解きである、「佐川先輩の無実を証明する」場面は、凄いとしか言いようがありません。この時点で天馬が持っていた情報は、読者よりも少ないかもしれません。しかし天馬は、たった一つの遺留品について徹底的にこだわりぬいて考えぬくことで、佐川先輩の無実をあっさりと証明してしまいます。
その遺留品というのが、トイレに置き忘れた傘です。
本書はとにかく、この傘の存在が非常に重要です。天馬は、この1本の、指紋や血痕がついていたわけでもない傘のみから、様々な推論を展開し、実に多くの仮説・事実を導きさしてみせます。物語のラストでも、この傘の存在が実に重要になっていきます。この傘が何を伝えてくれるのか、それがどんな思考によるものなのか、是非体感して見てください。

そうやって、謎解きの場面がところどころに配置される構成に加えて、天馬自身のキャラクターのぶっ飛び具合もまた、本書を飽きさせなくしていると思います。
本書には、文庫の袖のところに人物紹介表がついているのだけど、天馬のところには、「二年生。駄目人間」と書かれています。まさにその通りで、天馬は、超絶的に思考力が優れているという点を除けば、人間としては結構クソです。アニメ方面の趣味があることは全然構わないけど、周辺で起こる様々なものをそういうアニメ方面の事柄で説明しようとするし(天馬はあまりにもマニアック過ぎて、他の登場人物も理解できない、という設定なので、アニメに詳しくない方でも問題なく読めます。僕も全然分かりません。でも、わかるともっと楽しいかもしれません)、そもそも学校に無断で住み着いている時点でアウトでしょう。謎解きのために重い腰を上げたのも金のためだし、人を小馬鹿にしたり、傍若無人に振る舞ったりするようなところがあります。
と、天馬の悪いところをあげつらいましたけど、でも何ででしょう、どうも天馬のことは嫌いになれないんですよね。なかなか不思議なキャラクターです。別に、不愉快な存在ではないのです。頭の良さだけでカバー出来るほど、天馬のキャラクターは穏やかではないので、何かしら天馬には、人を惹きつけるような部分があるのでしょう。それがなんなのか、きちんと言葉では説明できませんが、ともかく天馬には、結果的に人を従わせてしまうような、天馬が言うなら仕方ないかと諦めさせてしまうような、そんな雰囲気があって、それが“探偵役”というキャラクターにぴったり合うのと、場を常に引っ掻き回して物語的に面白い“トラブル”を引き起こすという意味で、なんとなく憎めない存在だったりします。

正直、天馬以外のキャラクターはさほど特徴は感じさせないというか、割と無難にまとまっている感じがするので、人物の描き分けという意味ではまだまだなのかもしれないと思います。ただ、本書はデビュー作ですし、僕が本書よりも先に読んだ「アンデッドガール・マーダーファルス」では、魅力的なキャラクターをバンバン描き出していたので、作家として成長しているのだろうと思います。

本書にはラスト付近に、「読者への挑戦状」がついています。ここまでの情報で、読者のあなたにも論理的に犯人を導き出すことが可能ですよ、という宣言である。僕の勝手なイメージでは、こういう「読者への挑戦状」がつく本格ミステリというのは、読者にも犯人が導けるように様々な条件を物語に詰め込むために、細部にこだわりすぎるきらいがある、と感じることがありました。本書でも、確かに時間に関する証言だけは、ちょっとリアルさがないぐらい緻密だな、と感じはしました。3時3分頃に着いた、みたいな証言をするんですけど、さすがにそこまでちゃんと覚えていられる人はいなかろう、と。もちろん、描写でその辺をうまく処理しようとしていますが、若干無理している感はあるような気がしました。
しかし、その時間に関する証言を除けば、細かな部分をきちんと入れ込みながら、リアルさを損なうほど細部にこだわりすぎているように見せない描写をしていて、うまいなと思いました。簡単に説明すれば、パズル的ではなく、あくまでもきちんと物語として整っているな、と感じました。

たった一度の殺人事件だけで、350ページ強の物語を見事に保たせる力、強烈に魅力的な探偵を描く力、圧倒的に緻密な論理展開で犯人を追い詰める過程。そうした要素が実に見事に絡まり合って、バリバリの本格ミステリでありながら、学園モノとしても十分愉しめる、そんな作品に仕上がっていると思います。本格ミステリにあまり馴染みのない人でも、十分愉しめるのではないかと思います。

青崎有吾「体育館の殺人」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)