黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

乃木坂46物語(篠本634)






7月10日。僕が乃木坂46を好きになった日だ。
その日僕は、映画を観に行っていた。「悲しみの忘れ方」という映画だ。乃木坂46の結成から現在までの軌跡を描いた。ドキュメンタリー映画だった(映画の感想は、こちらこちら)。
僕はその映画を見て、乃木坂46を好きになった。

それまで僕は、「乃木坂って、どこ?(現在は「乃木坂工事中」)」というテレビ番組でしか彼女たちのことを知らなかった。何故その番組を見ていたかというと、たまたまとしか言いようがない。特に理由はなかった。多少気になってはいたのだろう。だから、家にいる時は毎週見ていた。ただ、特別どうとも思っていなかった。可愛い子たちだし、面白い企画もやるけど、それは番組として興味を持っていたという感じに過ぎなかったと思う。

その番組の中で、ドキュメンタリー映画が公開されるという情報が流れた。見に行くか、と思った。相変わらず、理由は特にない。理由もないのにアイドルのドキュメンタリー映画なんて観に行くのか。まあ、僕はそういう人間だ。

そして映画を見た後、いや、見ている最中から、僕は乃木坂46が好きになった。

僕は、乃木坂46のライブに行ったこともないし、曲もアルバムを一つ買っただけだ。握手会などどんなイベントにも行ったことがない。僕と乃木坂46の接点は、「乃木坂って、どこ?」というテレビ番組しかなかった。当然、乃木坂46の歴史なんてまったく知らないし、そもそもメンバーの顔と名前さえほとんど一致していなかった。

だから僕は、何も知らない、まっさらな気持ちで映画を見ることが出来た。

そこでは、様々なことが描かれていた。オーディション時の映像から、舞台裏での衝突、スキャンダル、家族との関わり。メインメンバー5人を中心に、乃木坂46の歴史を僕は一気に取り込んでいった。
その、何に、僕は惹かれたのか?「乃木坂って、どこ?」というテレビ番組を見ているだけでは伝わらなかった何が、その映画にあったのか。

僕は、乃木坂46を語る上で重要なキーワードは二つあると思っている。それが、「AKB48のライバル」と「ネガティブ」である。

乃木坂46は、AKB48の公式ライバルとして誕生した。これは最初から、相当ハードルを上げられているということを意味している。オーディションを突破しただけの、つい最近まで無名の女の子だった彼女たちが、いきなり、絶頂の極みにいたAKB48の公式ライバルと見做されるのである。
この重圧が、乃木坂46というグループの骨組みを作ったのだ、と僕は感じた。無からのスタートではなく、ハンデを背負ってのスタート。もちろん、ハンデを背負う分、恵まれた部分もあるのだけど、しかし、まだ何者でもない彼女たちにとって、ハンデの方が一層強く感じられただろう。

そして、僕が彼女たちに最も強い関心を抱いた部分が、「ネガティブ」である。
全メンバーというわけではないだろうが、乃木坂46にはネガティブな子が多い。彼女たちが映画の中で語る言葉の後ろ向きっぷりには、驚かされることだろう。いじめられていて逃げたかった子、極度の人見知りで何も出来なかった子、オーディションに受かったことで恐怖を感じた子。その反応の仕方は様々だが、乃木坂46は結果的に、ネガティブな子たちで構成されるアイドルグループとなった。

それは、いくつか曲を聞いてみても理解できるだろう。アイドルとは思えない曲調や歌詞の歌が結構ある。そしてそれらの歌は、歌う彼女たち自身にとっても共感出来るものだったからこそ、多くの者に響くのだろう。

ネガティブな人間は、ネガティブであるが故に考えすぎ、悩み過ぎる。その度に、多くの言葉が頭に去来することだろう。その蓄積が、人間的魅力として結実するのだと僕はいつも考えている。僕がネガティブな人間に惹かれてしまうのは、そういう理由なのだろう。僕自身もネガティブで、ネガティブな人間の思考回路が分かるつもりだ。だから、彼女たちの言動に共感してしまう。

乃木坂46の面々の多くは、逃げ続けてきた人生を送ってきた。逃げて逃げて、逃げた先にようやくたどり着いたのが、乃木坂46だった。しかし、やはりそこも安住の地ではない。辿り着いた彼女たちを待ち受けていたのは、絶望という名のスポットライトだった。今まで逃げ続けてきた彼女たちからすれば、耐え切れないほどの試練。しかし彼女たちは、様々な理由から踏ん張り、耐え、過去の自分を払拭しようと努力していく。

そこに、物語が生まれる。
僕は正直、他のアイドルのことはまるで知らないので、他のアイドルグループにも物語を持つ人間は多くいるのかもしれない。しかし、日陰を生きてきて、逃げて逃げて逃げまくって、その結果アイドルとなって強くなっていく、そんな人間がたくさんいるグループなんて、そう多くはないだろう。

乃木坂46は、弱い人間が輝ける場所だ。彼女たちは、自分たちの弱さを、未熟さを、不甲斐なさを自覚する。絶望を糧にして前進する術を覚え、傷だらけになりながらも前へ前へと進んでいこうとする。
彼女たちは、そんな奮闘の末に、少しずつ輝きを増していくようになる。そして彼女たちは、その輝きで、弱い僕たちのことも照らしだしてくれるのだ。弱くてもいい、かっこ悪くてもいい、前に進む意志さえあればどこかには辿り着ける。人生に尻込みしていたはずの彼女たちが、予想もしなかったような“輝ける場”を与えられ、そこでもがき苦しむことで、間接的に僕らのことも明るく照らしだしてくれるのだ。僕はそういう気持ちで、彼女たちを見ている。

僕自身、つい最近、彼女たちとは比べ物にはならないレベルだが、“輝ける場”を与えられた人間だ。そういう自分の環境の変化も、乃木坂46に共鳴していく要因だっただろう。僕もネガティブで、与えられた“輝ける場”に尻込みしていた。けど、乃木坂46を見て、彼女たちの傷まみれの奮闘を見て、気合を入れられた。彼女たちと同じくらい努力が出来るかは、ちょっと分からない。けど、乃木坂46の面々に恥ずかしく思われない程度には頑張りたい。僕の内側に、そういう気持ちが生まれてきたのは事実だ。

そういう意味で、乃木坂46というのは僕の中で、一本の支柱のようになっている。寄りかかっているわけではないが、僕という存在を心から支えてくれるような、そんな存在な気がする。彼女たちの奮闘の軌跡を、映像や文字で時折触れ直すことで、頑張ろうという気持ちが湧いてくる。彼女たちに出会えて、本当に良かったと思う。

本書の内容に触れよう。
本書は、週刊プレイボーイで連載されたものをまとめた作品だ。時系列順に話が進むわけではなく、時間軸はあちこちに飛びつつ、乃木坂46というグループの歴史を描き出していく。

編集の仕方に差はあれど、ドキュメンタリー映画である「悲しみの忘れ方」と本書は、当然同じ素材をベースにしているわけで、描かれるエピソードなどにはかなり共通項がある。そういう意味で、あまり目新しさはない。しかしこれは、僕が「悲しみの忘れ方」を見ているからであって、そうではない人には、乃木坂46というグループの全体像を捉えやすいだろう。これまでにあった印象的なエピソード、どんな出来事を経て乃木坂46が強くなっていったのか、どんな思いでその時を乗り越えたのか。様々なメンバーへのインタビューを通じて、乃木坂46を作り上げてきた数多くの絶望や試練を、丁寧に描き出していく。

ドキュメンタリー映画と概ね同じ素材ではあるのだけど、大きく違う点が一つある。それは、「アンダーライブ」である。本書では、「アンダーライブ」について触れている部分がかなりあり、特にこの部分が印象に残った。一つのグループに存在する光と影のあり方を一変させてしまったアンダーライブの歴史には、時折ウルっと来てしまった。

アンダーライブというのは、選抜メンバー以外のアンダーメンバーだけで行うライブだ。

『メンバーに取材をしていると、多くの“アンダーメンバー”が口をそろえる。
「ファーストシングルからサードまでのアンダーは本当にキツかった」』

『ある意味…自分との戦いでもありましたね。ファーストとセカンドの時期って、アンダーは、ほぼ仕事がなかったんです。基本、「乃木坂って、どこ?」は、選抜しか出れなかったですし、雑誌やテレビへの出演も、MVの撮影の量も全然違うんですよ』

乃木坂46は、AKB48らのグループとは違って、ホームとなる劇場を持たない。ホームとなる劇場があれば、アンダーメンバーでも常にライブを行うチャンスがあるが、劇場のない乃木坂46の場合、選抜に選ばれない限り仕事はほとんどない、という状態になる。露出が少ないから、握手会でも並んでくれるお客さんは少ない。

『何が一番恐怖かって、ヒマなのがアンダーだけだってことなんです。同じグループの仲間なのに、自分がご飯を食べているときに、みんなは働いてるんですよ。みんながさまざまな経験をしているのに、自分たちは、ただご飯を食べてる。それが恐ろしかったんです』

そんなアンダーメンバーの状況を、一言で絶妙に表現したメンバーがいる。

『CMとか雑誌とかで、よく“乃木坂さん”を見るんですよ。…いいなぁ、って思うんですよね』

「乃木坂って、どこ?」の番組内で、川後陽菜が言ったのだ。スタジオは爆笑に包まれたというが、それはアンダーメンバーの共通の感覚だった。それほどまでに、アンダーメンバーには光が当たらなかったのだ。

『仕事がないなかで、地方とかのイベントにアンダーだけで行くこともあったんです。それが本当に楽しくて。「もっとライブがやりたいね」って、みんなで話していました。それはアンダーメンバーの“悲願”でした』

彼女たちは、「何もない」という絶望に落とされていた。乃木坂46という名前をもらいながら、何をするわけでもなく学校に行っている。テレビで“乃木坂さん”を見かける。全力でやっても選抜に選ばれない。もうどうしたらいいのか分からない。そんな抜け出すことの出来ない絶望に囚われていた。

それを変えたのが、アンダーライブだ。選抜とアンダーという区分を反転させるような成果を生み出すこのアンダーライブも、スタートは酷いものだった。

『昼間に行なったミニライブでは満員だった会場は、3分の1すらも埋まっていなかったのである』

アンダーライブに応募する条件が厳しかったこともあって、初回のお客さんの入りは壊滅的だった。

『がらがらでした。それが始まりです。落ち込みました。でも、それでも来てくれたことがうれしかったんです。もう「この人たちのために全力でやろう」って』

どれだけ酷い環境でも、彼女たちにとってアンダーライブは救いだった。彼女たちには、もうそこしかなかったのだ。何もやることがない、そんな絶望的な日々を過ごすのはごめんだった。彼女たちは、必死だった。

『「アンダーの概念をぶっ壊す」
「私たちは、“2軍”ではない」
そんな信念の詰まったそのライブは、光が当たらないアンダーメンバーだからこそつくり上げることができた“彼女たちだけの場所”である』

アンダーメンバーは、「選抜のできないことをやる」を合言葉に、ライブをつくり上げて行った。乃木坂46全体のライブは、演出家など様々な人間の手を借りて作られるが、アンダーライブは演出から何からすべてをアンダーメンバーが決めるライブだ。

『やっぱり、全員でやる大きなライブだと、できないことっていろいろあるんです。それをアンダーライブはどんどん挑戦していく。選抜メンバーから見ていても「こんなこともできるんだ!」っていう驚きと発見ばかりなんです。とにかく“熱くなれるライブ”でしたね』

彼女たちは、ありとあらゆることをやった。考えうるすべてのことを。踊りすぎてけが人が続出するほどだった。でも、テーピングを巻いて踊り続けた。やらなければならなかった。突っ走り続けるしかなかった。

『正直、アンダーライブに人が来なくなったら、すぐに終わるっていうのはわかっていましたから、「次へつなげなきゃ」って気持ちが大きくて。乃木坂46の半分はアンダー。もし次に選抜に入れたとしても、その次のシングルではまた戻ってくるかもしれない。そう考えるとアンダーライブはとても大事な場所だったんです』

『「一度でも、客が来なくなったら終わり」
そんな、常に崖っぷちな状態で、アンダーライブは幕を開けたのである』

結果、アンダーライブは驚異的な支持を得るようになる。

『「アンダーライブがすごいらしい」
「今、アンダーを見ておかないと、必ず後悔する」
「もしかしたら、選抜よりもすごいかもしれない」』

そんな噂がファンの間で広がるようになっていった。やがてアンダーライブは、チケットの取れないプレミアライブになっていく。そしてついに、東京ドームでアンダーライブが開催されることになった。ちょうど、僕がこの感想を書いている今日、東京ドームでアンダーライブが行われているようだ。

『まさに、「アンダーの概念」が壊されようとしていた。
「アンダーは、選抜の2軍ではない」
メンバーもファンも、心からそう感じていたことだろう』

ずっと影にいて、活動がないという絶望と葛藤しながら、その溜め込んだ絶望を一気に放出するようにして一気に光を呼び込んだアンダーメンバー。輝ける場所を、彼女たちは見つけたのではない。自らの手で作り出したのだ。影が光になる。乃木坂46というアイドルグループは、一つ大きな進化を遂げることとなった。

しかし、アンダーライブの成功は、乃木坂46というグループにとって、課題をもたらしもした。乃木坂46はあたかも、「選抜」と「アンダー」という二つのグループに分かれてしまったかもように、まったく別の存在になって言ったのだ。お互いに交流する機会は多くはない。アンダーの側には、パフォーマンスでは選抜には負けないという自負も生まれ始める。その違和感を乗り越え、乃木坂46はまた一つ大きくなっていくのだ。

ドキュメンタリー映画ではアンダーライブのことは一切触れられなかったので、アンダーライブについて読めただけでも本書を買った価値は十分にあると思った。「アンダーの概念をぶっ壊す」を目標にアンダーライブを次々に成功させ、選抜とアンダーの区別を一面では反転させるという強さを持った乃木坂46というアイドルグループの凄さを感じた。

全体の話では、「16人のプリンシパル」の話も印象的だった。これは、ドキュメンタリー映画でも描かれているのだけど、改めて文字で読むと、やはりこの「16人のプリンシパル」というミュージカルは過酷だったのだなと実感させられた。

『そこからの毎日は、正直…地獄でした』

高山一実を除く、ほぼすべてのメンバーが、似たような感想を持っているのだろうと思う。高山一実は、トーク力の高さで有名で、人前で臆することなく話せるので、乃木坂46の初期の頃からその類まれなトーク力で自己PRで圧勝していた。自己PRを元に観客から投票してもらい、その順位で配役が決まるというシステムで、誰がどこに選ばれても大丈夫なように、全メンバーが全セリフを覚えなくてはいけないという、それだけでも十分過酷な企画だった。

『努力して、報われないときが一番キツいんですよ。みんな「つらいね、逃げたいね」って言ってました。帰りのバスが超うれしかったのを覚えています。一刻も早く帰って家に閉じこもりたかったです』

しかし、選ばれるメンバーが楽かというと、そういうわけでもない。
生田絵梨花は、その圧倒的な歌唱力と演技力で、ほぼ全公演で1位という驚異的な結果を残していた。しかしその生田にも悩みがなかったわけではない。

『ほかのメンバーを慰めるのも違うし、自分のつらさを出したら「あなたは選ばれてるじゃん」ってなっちゃうから。』

乃木坂46はそもそも、オーディションの時点で「暫定選抜」を決められている。その後も、あらゆる場面で順位付けされるイベントを経験させられている。「AKB48が5年掛かった道を5ヶ月で進ませる」というのが乃木坂46を運営する上での秋元康氏の意気込みだったようだけど、まさにそれを体現するかのようなハードな試練の数々に、メンバーは疲弊していた。

『自分を絞り出して戦う。プリンシパルによって、それまでの乃木坂46とは大きく変わったと思います。悪い意味じゃなくて“戦っていく”っていう姿勢のコが増えたんじゃないかなって。自分を高めていって、刺激し合って、上に向かっていく関係性ができたことによって、シビアに鍛えられたと思うんですよ。』

『プリンシパルによって、それまでふわっとしていたメンバーたちが変わったっていうのはあります。人間の影の部分っていうか、人間の本質を引き出されたような感覚がありました。この経験によって、この後に歌うことになる乃木坂の楽曲に力を与えたんじゃないかなって思うんですよね』

そんな風に、乃木坂46という存在にとって厳しく、成長の糧となった「16人のプリンシパル」。目の前のことを必死でこなしていくしか出来なかった少女たちは、この経験を経て、“戦っていく”という姿勢を身につけることになった。

乃木坂46の中で、最も戦っていたのは、生駒里奈ではないだろうか。ドキュメンタリー映画を見ていても思ったけど、生駒里奈というのいは実に物語性のある少女だと思う。

『その中にひとり。
伏し目がちで、猫背の少女がいた。
秋田県から参加したその少女は、キラキラと輝く少女たちの中でひとり、ずっと床ばかり見ていた。
少女の名前は生駒里奈。
彼女も、この乃木坂の地に人生を帰るためにやって来たひとりだった』

学校でいじめられていて、高校に進学する気力もなくなってしまった少女は、「逃げるため」に乃木坂46のオーディションにやってきた。

『そして、地方組メンバーの全員が口をそろえるのが、「覚えているのは、生駒里奈(秋田県出身)がいつも泣いていたこと」だったという』

母と離れて暮らすのが初めてでホームシックになった少女は、コンビニの弁当が食べられず、さらに口の中が口内炎でびっしりになった。いつも自信がなく、何も出来ないと思っていた少女。その少女が、デビューシングルから5作連続でセンターを務めることになる。

『「アイドルって成長を見守りたいもの」って思っていたので、生駒ちゃんはセンターに合うだろうなって』

ドキュメンタリー映画でも、生駒里奈は常に乃木坂46の中心だった。踊る時の立ち位置の話ではなく、乃木坂46の精神的支柱とでも言おうか。いじめられ、まるで自信のなかった女の子が、未経験のままセンターを経験するというとてつもない重圧を課された。その葛藤。苦悩。絶望。それらをすべて受け止め、逃げることなく全うした生駒は、6曲目シングルでセンターから外れた時、安堵を感じる。

『だから…あのときのことは、いろいろ言われるんですけど、本当の気持ちとしては、6枚目でセンターじゃなくなったことで、苦しみが外れて。「また、新しい気持ちで行こうぜ!」っていう、前向きな気持ちだったんですよね』

その後も生駒は、AKB48との兼任を受けたりと、乃木坂46の中で常に中心的立ち位置であり続けている。「ネガティブは生駒里奈の武器」とまで言う少女は、ネガティブであるが故に涙を流し、ネガティブであるが故に決して満足せず、そしてネガティブであるが故に誰よりも物語性に満ちている。場が人を作る好例だろう。

場が人を作るもう一人の好例は、西野七瀬だろう。

『正直、中学時代、何をしていたか覚えていないくらいです。男子ともしゃべらないし、「話しかけないでください」ってオーラを出してたと思います。話しかけられても、相手の顔を見れないんですよ。目が合っても、すぐサッてなっちゃうタイプ。』

乃木坂46の顔の一人と言ってもいい西野七瀬の今の姿からはまったく想像がつかないだろう。ドキュメンタリー映画の方でも、西野七瀬のかつてのネガティブぶりはよく描き出されていた。
しかし西野は、乃木坂46に入ることで、自身の「負けず嫌い」を認識することになる。

『私、乃木坂46に入ってから、自分が負けず嫌いだってkじょとを知ったんです。今でもですけど、基本、争い事は嫌いなんです。でも、負けると悔しいんですよ。悔しいから、それがイヤで、ずっと争いを避けていたのかもしれません』

そんな彼女は、あることをきっかけに、心がぐちゃぐちゃになってしまう。「大阪に帰る」と言い、スタッフに引き止められる一幕もあった。
そのきっかけとは、秋元真夏の復帰である。

秋元真夏は、オーディションに合格し、暫定選抜で2番手に決まっていた、期待感を持たれていた少女だった。しかし、芸能活動が学校から許されず、活動をまだしていない内から、半年間の活動休止ということになった。

『その大事な半年間。自分は乃木坂46に参加できない。
「この半年を越えてしまったら…私のあのポジションはなくなっちゃう。戻れない…」
少女のアイドル人生はどん底から始まったのだった』

そんな秋元真夏は、衝撃的な形で乃木坂46に復帰することになる。
復帰直後、センターに選ばれる、という形で。
前回センターだった西野を押しのける形で。

『これまでの選抜発表と比べても段違いのショックを受けたメンバーたちは、大きく心を揺さぶられていた』

乃木坂46では、センターの選定で幾度も波乱を引き起こしている。6枚目生駒がセンターを外れた時には生駒は倒れてしまうし、AKB48との兼任を終えた直後の生駒がセンターに選ばれるということもあった。秋元真夏の復帰センターも、かなりの衝撃だった。

しかし、センターの選定で最も衝撃を与えたのは、堀未央奈だろう。2期生として加入したばかりで、活動もまだほとんどしていなかった堀未央奈が、いきなりセンターに選ばれたのだ。

『あれは…乃木坂46の歴史の中で、衝撃の強さでいったら、一番だったと思います。でもその中で未央奈が一番つらかったんです。先輩の目も冷たく感じたろうし、同期の目も怖かっただろうし。乃木坂46に入ってきて、いきなり未経験でセンターに立ったのは、私と未央奈しかいないんです。だから「全力で支えるから大丈夫だよ」って言いました。自分は絶対味方でいようって』

『でも、入ったばかりの2期生がセンターに立ったことで、“このコに超えられた”ってことが悔しかったんですよね。未央奈は悪く無いんです。でも…あれは、乃木坂46の入って3本の指に入るくらいに悔しい出来事でしたね』

話題作りも当然あるのだろうが、運営側は常に、メンバーに衝撃を与えるような形で物事を進めようとしているように感じられる。それも、AKB48の5年を5ヶ月で、という実践なのだろうけど。その様々な試練を乗り切った彼女たちの奮闘を讃えたいと思う。

話を元に戻そう。秋元真夏が西野七瀬を押しのけて、復帰後すぐにセンターという衝撃的な発表がされたことで、西野の心はぐちゃぐちゃにかき乱された。そしてその後、秋元真夏とずっと話せない時期が長く続いたのだという。

そんな二人のギクシャクした関係は、他のメンバーもファンも知るほどのものになっていたが、どうなるものでもなかった。そんな二人の関係が前進した日のことが、本書に書かれている。頭では真夏が悪いわけではなと分かっているのだけど、生来の性格から行動に移せない西野七瀬と、後から入ってきて西野を追い落とした罪悪感から積極的に西野と関わることが出来ないでいた秋元真夏の関係は、ライブでのある出来事をきっかけに解消されることになる。

『ずっと自分が嫌いで泣き虫だった、あの頃の自分みたいなコがいたら、乃木坂46のオーディションを受けてほしいなって思います』

西野七瀬は、乃木坂46の未来について問われて、そう答えている。

泣き虫、とは正反対なのが、“天才少女”と呼ばれた生田絵梨花だ。小さな頃から続けていたピアノは、音大に合格するほどのレベルだし、歌唱力、演技力もずば抜けている。バラエティ番組でも大きな笑いを起こす。なんでも努力によって完璧にこなしてしまう、まさに天才だった。

しかしその天才・生田絵梨花は、乃木坂46を辞めるかどうか悩んでいた。
音大に入りたいという理由だ。乃木坂46の活動と並行して音大の受験の準備が出来るほど、音大は甘くはない。やはり辞めるしかないのか…。しかし生田は、しばらく乃木坂46の活動を休業するという形で、この状況を乗り切ろうとする。音大の受験を決めた後、ミュージカル主演のオファーが来た。悩みに悩んだが、これも受けることに決める。天才少女は、何ひとつ諦めることなく、すべてをやり切る決意をしたのだ。

『一日中、食事の時間以外は、常にピアノを弾いた。何度も何度も繰り返す毎日だった。
睡眠時間は、一日平均3時間。舞台の稽古がある日以外は、ピアノ漬けだった』

天才が努力を怠らないことで、どれだけ高みを目指せるのかをまざまざと見せつける。生田絵梨花はそんな少女だと言えるだろう。線が細く、どことなく“へらり”と言った感じの佇まいをしている少女からは想像も出来ない一面だ。

乃木坂46は今年、紅白歌合戦出場を決めた。そこで、ライバルであるAKB48と同じ土俵で相まみえる。

『やっと同じ土俵に上がれたっていう意味でいうと、そこがスタートラインだなって思います。』

乃木坂46という存在は、どこまで大きくなっていくだろうか。選抜メンバーの卒業はまだなく、メンバーも2期生以降はまだ募集していないという、AKB48に関わるグループとしては珍しい形で進んでいく。アンダーライブによって、アンダーの概念を打ち破りもする。雑誌やドラマや舞台など、個々の活動はさらに広がっている。ネガティブを原動力にする彼女たちの快進撃は続くだろう。ネガティブだけど、彼女たちには負のオーラはない。彼女たちが生み出す優しい光が、やりきれない日常を抱えるすべての人をひっそりと照らす。乃木坂46には、そんな存在で居続けて欲しいものだと、僕は思う。

篠本634「乃木坂46物語」


関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/2952-c6352a33

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
10位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
8位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)