黒夜行

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連鎖<再読>(真保裕一)

内容に入ろうと思います。
東京検疫所に勤める羽川。彼は、輸出入される食品の安全を見張る番人として、日々業務をこなす役人だ。
彼の友人であり、雑誌記者である竹脇が、車ごと海に落ちた。
自殺の疑いようがない状況だったという。竹脇が自殺したのだとすれば、思い当たる理由は一つしかない。羽川が、竹脇の妻である枝里子と関係を持ったことが原因だろう。羽川と枝里子は、意識不明のまま入院を続ける竹脇を前に、重い時間を過ごしていた。
竹脇は、三角輸入によって、チェルノブイリ事故で汚染された食品が国内に入ってきている実態をスクープして、一躍時の人となった。共同で調査にあたった、輸入食品の検査機関の副所長である篠田もまた、注目を集めていた。
しかし、竹脇のスクープは、告発された大企業を揺さぶり、自殺者を出すほどの事態に発展していた。
ファミリーレストランチェーンの倉庫に保管されていた肉に農薬が撒かれた事件をきっかけにして、羽川は上司である高木から命じられて、検査で引っかかった食品を正しく処分せず流通させているのではないかという疑惑を追うことになる。その過程で羽川は、竹脇の取材の痕跡をそこここに発見する。衝撃的なスクープを放った竹脇は、どうもまた新たなネタを掴んでいたらしい。調査をすればするほど、竹脇が自殺をしたとは思えなくなり、警察が自殺と断定した死の真相も探ろうとするが…。
というような話です。

だいぶ昔に一度読んだことがある作品ですが、久々に読み返してみました。やっぱり、真保裕一の初期の作品はメチャクチャ面白いなと思います。小役人シリーズと呼ばれている、一般にはあまり馴染みのない役人を主人公に据えた一連の作品は、社会問題を鋭く切り取る切り取る手腕と、ミステリエンターテイメントとしての面白さが見事に融合した作品だと思います。

本書では、食品の輸出入や食の安全がストーリーの根幹を成す。食品Gメンだったこともある主人公の羽川は、不正な食品流通の痕跡を探ろうと、細かな調査を続けていく。それは、帳簿を確認するとか人に話を聞きに行くとか、あまり面白くなさそうな調査なのだけど、真保裕一はそれを読ませる物語に仕立てあげる。

食の安全が叫ばれて久しいが、どのようにして食品汚染が行われているのか、そのことに深く関心を持とうとする人は多くはないだろう。本書は、安い食品がいかにして生み出されているのか、その一端を知ることが出来る。安全はタダではない。知識や努力なしには、手に入れることが出来ないものになっている。

主人公の羽川は、食品Gメンを辞めた理由をこう吐露している。

『食品衛生監視員時代のことは、思い出したくないことばかりだった。仕事が辛かったのでも人間関係に悩まされたからでもない。そんなことは、どの職場にでもある些細なことだ。私には仕事をしている意味が分からなかったのだ。
食品は人の健康と密接に関係している。それだけに、まず安全性が優先されなければならない。食品衛生法を初めとする帰省は、そのためにある。私はそう思っていた。だが―。
違反は、想像以上に多かった。それだけではない。規制が緩やかだったり、時にはなかったりして、取り締まれないことが多過ぎた。』

もちろんこれは、小説の登場人物が言っていることに過ぎないわけだけど、しかし真保裕一は、緻密な取材をして小説を書くことに定評がある。本書の中で羽川に回想させたこの想いも、決して現実から遠いものではないだろう。

企業は、利益を確保していかなくてはいけない。もちろん、そのために何をやってもいいわけではない。しかし可能であるならば、より少ないコストでより大きな利益を得ようとする。本書で描かれている状況の一部も、まさにそういう葛藤の帰結だ。
もちろん、不正を働くのは企業が悪い。それは当然なのだけど、しかし我々消費者の側が、安いものを求めすぎていることも大きな要因の一つだろう。企業が悪い、と言うのは簡単だが、買う側の意識も変わらなければ、こうした不正がなくなることはきっとないのだろうと思わされた。

本書は、食品汚染の問題に端を発するのだけど、しかしこの物語の行き着く先は予想もしえなかったところになる。悪事を働く人間が、どんな抜け穴を使って、どんな企みを企てているのか。そして、羽川ら調査側の人間がどうやってその不正を見抜き追及していくのか。緊迫感溢れる展開が見事です。

さて本書は、食品汚染をベースに社会を切り取っていく物語なのだけど、著者自身は“社会派”というような呼ばれ方をするのは好きではないようだ。「現代を舞台に小説を書いているのだから、社会が出てくるのは当たり前」「このネタを使って面白いミステリを書いてやろう」 そんな気持ちだそうです。
そう、本書は、社会派的な部分を多分に持ちながら、ミステリとしても見事だと思います。羽川が調査に没入する前半から中盤に掛けてはそこまでミステリ感はありませんが、しかし読者を物語に引き込むような展開や伏線の張り方はさすがです。そして後半、物語の輪郭が明らかになっていくと、驚くべき事実が様々に明らかになっていきます。ちょっと羽川が、一介の役人にしてはスーパーマン過ぎる気もするけど(洞察力にしても体力にしても)、そんなことが気にならなくなるぐらいの怒涛の展開に圧倒されます。

また、正義と悪についても考えさせられます。本書では、食品汚染に端を発する不正に手を染めている人間は疑う余地もなく悪ですが、しかし羽川を初め、物語に出てくる多くの人間が、正義と悪の間を行ったり来たりします。

たとえば羽川にしても、竹脇の事故と食肉への農薬散布をきっかけに不正を暴く調査に入れ込みます。その姿だけ見れば強い正義ですが、しかし羽川のこの行動は罪悪感からでもあるわけです。羽川の妻と関係を持ってしまったために羽川を失いそうになっている現状、そして羽川が竹脇に対して持ち続けたとある嫉妬が、羽川の行動の裏に見え隠れします。他の登場人物にしても同じで、彼らはみな何かを抱えて、やるせない現実と対峙しているように思える。そこが、とても人間らしく映るのだろう。羽川を初め、登場人物たちが、正義感だけで動くのではない、という物語に通底するベースが、この作品をより浮き立たせているように思う。

本書の難点を一つ挙げるとすれば、1991年発行であるが故に、携帯電話など現代的なものがまったく登場しないということだ。24年も前の作品なのだから仕方なのだが、ところどころ若干の古さを感じる。しかし、四半世紀も前の作品なのに現代でもほぼ通用するような物語のクオリティを保っているというのは、凄いことでもあると思う。

ミステリであるので、どんな人物が出てくるのかや、物語がどう進んで行くのかにあまり触れないでおきます。そのせいで、うまく魅力を伝えにくい感想になっているかもしれないけど、骨太でありながらとっつきにくいわけではなく、自分の生活にも直結する可能性のある社会問題をベースにしつつ人間も深く描いていくという、新人のデビュー作とはとても思えないクオリティの作品です。是非読んでみてください。

真保裕一「連鎖」


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2013年の個人的ベストです。

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5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
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16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
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1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
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8位 笹本稜平「天空への回廊
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
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18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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1位 「「科学的思考」のレッスン
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7位 「自分探しと楽しさについて
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1位 「死のテレビ実験
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4位 「消された一家
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)