黒夜行

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世界城(小林泰三)

内容に入ろうと思います。
世界は、城の中にある。その城の全貌は誰も知るところがなく、あたかも無限の広がりがあるかのように思えた。迷宮のように入り組んでいる城内のそこここに村がある。あると言われている。ヴォルタ村も、そんな村の一つだ。細々と作物を作りながら、物々交換で日常を成り立たせている。「商人」は存在するが、どこから来てどこに行くのか、イマイチよく分からない。
ヴォルタ村のある一家の夕食に、一人の少女が飛び込んできた。その少女は、城の「外」に行くのだという。城に「外」なんてあるはずがない、と答える住民。彼らにとって、城内こそが世界のすべてなのだ。国王の娘だと名乗ったその少女は、赤ん坊を産み落として姿を消した。
その赤ん坊は、ジュチと名付けられ、ヴォルタ村のみんなで育てた。
ジュチが11歳になった時、村にある異変が起こる。城内は、風雨によって砂や泥水が移動する。土がなければ作物を育てられないので、城内では土の存在は重要だ。しかし今年は、泥が出て行くばっかりで、一向にこちらにやってこない。こんなことは初めてだ。隣村が何かをしたのかもしれない。偵察に行こう、ということになって白羽の矢が立ったのがジュチだ。ジュチは、村長の息子であるダグと共に、隣村であるオーム村へと足を運ぶことになるのだが…。
というような話です。

まあまあと言った感じの作品でしょうか。スイスイ読めます。恐らくシリーズとして続いていくんだろうな、と予感を抱かせる作品で、そういう意味で、世界観の導入という感じの位置づけでしょうか。

描かれる城の全貌が明らかになっていないので、これからわかっていくのでしょう。本書でいちばん気になるのは、この城に関してです。誰が何の目的でこの城を作ったのか。城に住んでいる人同士はどんな関係にあるのか。城における禁忌にはどんな意味があるのか。城の外側には何があるのか。シリーズとして続いていくのであれば、そういう部分が明らかになっていくのでしょう。そこは気になります。

本書では、僕らが当たり前だと思っている色んな概念が、当たり前のものではないものとして出てくるのが面白い。例えば地図。ジュチとダグは、城の地図を持って隣村まで向かう。そこでダグが、こんな疑問を持つ。その地図は、ヴォルタ村の領地とオーム村の領地が別の色で塗り分けられているのだけど、ダグは、実際僕らが歩いている通路に別に色がついているわけではない、この地図は嘘だ、と言う。ジュチは、地図は現実をそのまま写しとったものではない、とダグに言うが、しかし同時に、じゃあ地図が表しているものは一体なんなのか?という疑問を抱く。この問いはなかなか面白いと思いました。明確に答えられる人は多くはないのではないでしょうか?

恐らく本書で描かれる世界は、かつては文明と呼ばれるものが存在したのだろうけど、それが何らかの理由で一旦失われたのだろうと思います。その証拠に、かなり長生きしているヘカテ婆さん(彼女が地図を貸してくれた)は、この世界のあらましについてかなり深くまで知っている。普通の人が知らないような概念についても知っている。その当たりのことも、徐々に明らかにされていくでしょうか。

ジュチが、幼いながらに賢く描かれていて、その聡明さはなかなか素敵だ。自身を、村の厄介者だと捉えていて、それでもここで生きていくしかないと腹を括っている。自分をここまで育ててくれた村に恩返しをしたい気持ちを常に持っている。また、考える力がずば抜けていて、抽象的な概念をすぐに飲み込んだり、同じ条件を与えられながらジュチしか気づかないこともあったりする。ジュチが様々な窮地をどう乗り越えていくのかも読みどころだ。

さらっと読むにはいい本かもしれません。

小林泰三「世界城」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)